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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
十三章(西の塔から研究所へ)
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13-7、過去を夢見る


 西の学舎はあまり四季の変化は無いが、冬の終わりが近付いて来ている予兆はあった。


『風が春を運び始めましたね』


 風竜の言葉にカウズは耳を傾けて頷いた。



 研究室では日々、世界のシステムの再構築をしていたが、洗える所は全て洗った。それにもかかわらず、幸を犠牲にせず世界を守る事は出来ないという結論しか出なかった。


 さらに、ここで一緒に手伝ってきた幸自身が動けなくなる。

 ここに通いはじめて七日程経過した頃に、幸は研究塔の階段の途中で倒れ、そのまま目を覚ましていない。

 カウズは幸を診察した。


「これ、寝ているだけです。体に異常はありません。魔力切れでも無いようです」

「……寝ているだけなのか」


 信はひとまずホッとするが、目覚める気配が無いので手の打ちようがない。


 日本で夢を見ていた時のように、幸はこんこんと眠り続けた。

 地上に置いておくと魔力を失うという理由で、幸は異界に寝かされた。

 アマミクが心配してついて行き、双竜とミクで幸の看病をすることになった。


◇◇


 聖地でレーンは、新しい竜の構成を火竜と考えていた。火竜は構成書を見ながら言う。


『これはあれだねー。フレイが帰っちゃった時みたいだ。あのときも彼女の存在が薄くなってたよねー』

「帰るって、彼女の体はここにあるのに、何処に帰るんだ?」

『さあね? 異世界の事はさっぱりわからないさ』


 俺も心配して幸の所に行きたかったが、竜の構築はここでないといけないと言われ諦めた。


「すまないな、体を借りっぱなしで」

『いえ、竜さえ出来れば移動できるので急ぎましょう』



 システムの再構築で判明した事がある。

 幸の緑の結晶は現在の赤い結晶に適合するが、俺の青い結晶は使えないようだ。


 サーと俺の結晶は、混ざって紫になってしまい、サーの結晶を無力化する。なので、俺の体では今の世界を消滅させて、一から世界を作る事でしか使えない。

 その点、幸の緑の結晶は赤と混ざると黄色になり、サーの結晶が足りないところを補う形で運用出来る事が分かった。


「始めから、フレイはここに体を埋める為に来ているということか……」


 フレイ自身が言っていた、俺と幸の生還とは何だったのか、単に俺を励ますために嘘をついていたのかと、俺はフレイに不信感を持つ。


『……俺の体を使えればいいのに』


 俺の呟きに、レーンも頷いた。


◇◇


 メグミク誕生の日が近付いて来ている。それだけでも焦るのに、未だに先のことが分からない。

 俺は暗闇の中で必死に手で動かし、陸地の見えない暗い海を泳いでいる気分になった。


 ……誰でもいい、幸を助けてくれ。


 そう願うが、竜の体では無いので、俺はサーラジーンと話をすることが出来なかった。


 俺は毎晩幸の所に帰り、寝ている幸の脇で、寝顔を見ながら倒れるように眠りについた。


 ある日目が覚めると、幸の寝ているベッドに赤いものが散っていた。


 ……血を吐いた? いや、これは花?


 幸は世界樹のあるドームを小さくしたような部屋に寝かされていて、白いドレスを着せられていた。

 髪が綺麗に広げられていて、その周囲に赤や緑の花が散りばめられている。

 俺は赤い花を触りながら呟く。


「……なんだこれ、白雪姫みたいになってる」


 幸の白い肌に長い黒い髪が映えて、まるで死んでいるみたいでゾッとした。


「やめてくれ……」


 俺は一人そう呟くと、頭にポコンと花をぶつけられた。

 俺の背後には白竜が立っていた。

 白いドレスを着た白竜は、花の入った篭を持って、俺に花を投げてきた。


「赤の花は単なる飾りだけど、緑のは違うから除けないで頂戴」


 俺は、言われた緑の花をつまむ。

 それは、キラキラと光を反射する宝石のように見えた。

 一見ガラス細工の花のように見えるが、手触りは少しざらついていて、少しだけあたたかかった。


「これ、何処かで見たことのある気がする……」


 俺は、花を指でくるくる回しながら呟く。


「エレンママの石の色か……」


 比べてみようと、花を幸の顔に近付けたら、キィンと高い音がして、花が霧散した。

 花の欠片は光りながら、異界の空気に溶けて消えた。


「な……? 俺、壊しちゃった?」


 俺が呆然としていると、白竜が新しい花を幸の周りに散らした。


「……No.5、これは何だ?」


 白竜は花びらを一枚つまんで口にいれた。


「この子の血。なんか貯めていたみたいね」

「じゃあ、何で今飛び散ったんだ? 異界は魔力を失わないんだろう?」

「さあね? 私に聞かれても分からないわ。ただレーンがこれを枕元に置くよう指示しただけよ」


 俺は、宝石のような花に囲まれた幸を見た。

二年間見ない間に、幸の髪は長く伸びて、今では腿に届いている。

 さいわいなことに、幸はフレイよりかは身長が低く、今の俺とあまり差はなかった。


「いっそのこと、イバラで覆ってしまう? そして異界に鍵をかけるの。誰もこないように。そして時を止めるのよ。まさに眠り姫ね」


 そう言って、白竜は幸の髪の毛を指でなぞり、エレンママがよく歌っていた映画の子守歌をハミングする。


「……やめてくれ」


 白竜と話していると、エレンママを思い出す。

 世界で一番憎い者にママの記憶があることがどうしても馴染めない。


 ……まあ、そのせいで幸の面倒を見てもらっているのだけど


 幸が着ている服はここでは見ないデザインだ。おそらく異界で作られたものだろう。

 幸の唇には薄く紅がさされているし、体もいつも清潔に保たれている。白竜は白竜なりに幸を可愛がっている事を知る。


 白竜の中で、竜の体に痛みや苦痛を与える憎い幸と、お腹を痛めて産んだ愛しい我が子が同居しているのだから、一番混乱するのは白竜自身だろう。


 そう思って白竜を見ると、白竜は英語の鼻唄を歌って幸の唇に紅を差していた。


 ……いや、これ着せ替え楽しんでいるだろ……幸は頑なにママの作る服を着なかったから、ここでその不満を解消してるのか?


 寝ている幸の頬を触ると、何時もよりあたたかい気がする。前に幸自身が生理と体温がどうのと言っていたから病気では無いのかもしれない。

 白竜に口紅をさしてもらって寝入る幸は本当に美しかった。まるで、フレイが目の前で寝ているような錯覚さえ覚える。


「何時の間にこんな成長してたんだ……」


 俺は幸の長い髪を触って、涙を流した。



 そのまま幸の側で気絶するように眠り、起きたら辺りは暗くなっていた。

 ここは世界樹のあるドーム同様、日が沈むようだ。


「………?」


 部屋に誰かいるような気配がして、顔を上げると、木々の間に暗い影が見える。

 目を凝らすと、そこには見知らぬ男が立っていた。


 襟足が長めの手入れをしていない黒髪、百七十センチ強くらいの、この世界でいえば低めの身長、そして白衣と無精髭。頬はこけて、目の下には隈が見える。

 男は実態は無いようで、その体は透けていた。もしかしたら、ユウのような迷子かもしれない。


 ……なんか、若い頃の親父みたいだな。それか、親戚のお兄さん。


 俺がボーッと見ていたら、その男は俺に話しかけた。


『コウは夢を見ているだけだ、大丈夫、戻ってくる』

「……えっ?」


 彼が話す言葉が日本語だったので俺は驚いた。


『お前は体力を落としてはいけない。異界の食料を食べて、きちんと寝なければ耐えられない』

「んん?」


 背景が透けて見えるので、ユウのように実態を持たない幽体だろう。日本語をしゃべるのは、日本からの迷子?


 彼は音もなく近寄り、寝ている幸を触る。

 幽体では幸に触れないようで、手が幸を通過していた。


「……あなたは」


 誰ですか? と聞くより先に彼は言う。その疲れきった黒い瞳は仕事中の親父を思い出した。


『フレイの旅はここで終わるけど、お前の旅はまだこれからだ。ようやく半分だよ、頑張れよ』

「あー、もしかして、若い頃の親父? 心配しすぎて、化けて出てきた?」


 男は笑うと、すっと消え失せた。


「……まさか親父が死んでさ迷ってるとか無いよな?」


 俺は鳥肌が立った腕を擦って、ブルッと震えた。




◇◇


 ……何も見えない。


 私はフワフワと、地面に足が付かずに何処かをさ迷っていた。

 私はずっと、闇の中を浮遊していた。

 あてもなくさ迷っているうちに、先に光が見えたので追いかけた。

 その光に私の手が触れた直後に、闇が溶けて私は街中に立っていた。


 目の前を車が走っていた。

 それだけで分かる。私は元の世界に戻っている。

 しかし、景色には電柱も電線も無いし、ナンバープレートも違う、それに建っている家が古い石造りの洋風建築だ。


『日本じゃないよね、ここ、何処だろう……』


 私はそう呟いて気が付いた。自分の体がない。

 言葉は振動を持たず、手は、足は何にも触れられない。地面も貫通するので気合いをいれないと埋没する。


 ……これは、幽体のフレイ状態!


 自分の現状を思い笑っていたら、人と目があった。

 その子は幼稚園児くらいの小さな男の子だった。

 道の反対側で車から抱っこで下ろされ、両親が荷物を運んでいる間に、じっと私を見ていた。


 ……私は今他人から見えるんだろうか?


 いきなり子どもに話し掛けたら不審すぎるので、私は一緒にいた大人に声をかけてみた。


『Hello』


 私の言葉は無視された。それどころか、その人は私の体を通過して荷物を運んでいた。


 ……あ、見えてないですね。フレイ状態ですね。


 私は挨拶で上げた右手を力なくおろした。

 その子どもはじっと私を見ていたが、母親に抱かれて家に入る時に、英語で「へんな人」と言った。



 視界は暗転する。

 ガラスが割れたような高い音が響き、闇のなかで飛び散った緑色に光る破片がキラキラと輝いた。


 目眩に襲われて閉じていた目を開けたら、そこは家の中で、さっきの男の子が私を見ていた。時間は夜らしい。パジャマ姿のその子はベッドに入って座っている。


「君は幽霊なの?」


 やはりこの子には私が見えているようだ。

 私は胸から下が床に埋まっている自分の状態を見て、あわてて床から浮き上がった。


『死んだ覚えは無いんだけど、何故か体がないの』

「へんなの」


 子ども特有の率直な物言いに私は笑ってしまう。うん、確かに私はヘンだ。


「……っ!」

「……だからそれは」


 静かになると、下の階から大人が喧嘩をしている声がした。

 私が見に行こうとすると子どもがぬいぐるみを投げて私を止めた。


「あいつらは何時も仲が悪いからほっときなよ」


 ……あいつらって、親御さんではないのかな?


 私は壁に頭を突っ込んで、会話を聞いた。


「……ら、エディを大学に……」

「こんな小さい子どもに何をするつもり?」

「……だからそれは」


 私は事情が分からず、顔を引っ込めた。子どもは私を見て言う。


「子育ての方針のふいっちらしいよ。バカらしいよね」

『君は大人びた事をいうねぇ』


 子どもは私を無視した。


 その子どもはエドワードという名前で、親からはエディと呼ばれていた。彼は父親に連れられて毎日郊外の大学に行っていた。

 エディは天才児らしく、勉強以外にも脳波を測ったりと色々忙しそうだった。


 大学の廊下の椅子に座り、難しそうな本を広げるエディの隣に私は座った。


『君は多忙だねぇ』

「また来たのか、ヒマヒマ黒髪ゴーストめ」


 ツンツンした物言いに私は苦笑する。


『暇じゃなかったんだけどね、帰り方分からなくなっちゃった』

「ゴーストだから死んでいるんだろう? 墓を片っ端から名前を見ていけば自分を見つけられるんじゃない?」

『あー……体は多分この世界には無くて』


 私が困った顔をしていると、エディはなにそれと言う。


『私の体、多分異世界にあるの』

「異世界? 宗教上の楽園のことかい?」

『違うよ、楽園じゃなくて、魔法と竜のいる世界なの』

「竜……?」

『竜だよ。トカゲみたいで羽が生えていて、空を飛べるし火も吐くよ。魔法が上手でみんなとてもかわいいの』


 私がニコニコして話すと、その子も笑顔になった。今までずっとしかめっ面だったので、笑顔とのギャップがかわいい。


「君はその世界の姫君なの?」

『……へっ?』


 そう言われて初めて私は自分の姿を見た。

 年齢的には十八才の私の体だが、肩の出た白い清楚なドレスを着ていて、丁寧に編み込まれた髪には花がついていた。


『こんな服、着た覚えはないなぁ……』


 エディは「ヘンなの!」と笑う。


「ぜんぜん怖くないゴーストのお姫様。その世界の話をもっと聞かせて?」


 私は頷いて、親を待つエディに四体の守護竜の守る世界の話を沢山した。



フレイが発案したとされている異世界ですが、四人の王の名前が漢字なのはこの辺が理由です

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