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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
十一章(ファリナ3)
137/185

11-5、誘拐

 

「二の王?」


 役職を呼ばれて気が付いた。どうやら私は寝ていたようだ。

 さも、聞いてますよ、と笑顔を作って相手に答える。


 ここは北国ファリナの城だ。今日はセダンとの国交回復と、私とファリナの姫君の婚約発表で世界中から要人が集まっている。

 私は普段は西の学舎から出ることは無いが、他国の姫を我が国に迎える為に、出席せざるを得なかった。


 今回の主賓であり、またこの城の姫君の婚約者である私と話したがる客は多かった。

 話の内容は私の体が小さいことや、シェレン姫の馴れ初めなど、心底どうでもよいことを何度も聞かれた。


 ……早く帰って仕事がしたい。やらなければならないことは沢山あるというのに。



 元から人付き合いが苦手で、研究三昧なカウズは慣れない社交に疲労が貯まってきた。助けを求めようにも、シェンは父親と話している。


 カウズは軽くめまいを感じて、床にグラスを落とした。広間にガラスが弾ける音が鳴り響く。


「失礼しました」


 カウズはそう言って、破損したグラスを魔法で直すが、溢したワインはどうにもならなかった。

 元から酒は飲まないので、口を付けずにいた為に、グラス全量をぶちまけた。給仕がモップを手に寄ってくるのが見える。カウズは給仕に後始末をまかせてその場を離れた。


 カウズは助けを求めてアマツチに近寄るが、彼も来客に囲まれていたので、カウズは外の空気を吸いに行くことにした。


 広間の喧騒から離れ、ひとけのないひんやりとした廊下に出て、フゥと息を吐く。

 窓の外は綺麗な月夜で、月の光が銀の水を照していた。


 ……少し前までは、ファリナ国土も浄化しきれない穢れが溜まっていたのに、今ではもうその影もない。


 No.4が成体になった事もあるが、一番の要因はここに女神が滞在しているせいだろう。あとは、No.7も暇を見つけては僻地の銀の水を浄めて回っている。


「救世の女神が何も知らない子どもだった時は眩暈がしましたが、お陰で目が醒めました」


 守護竜たちは全員サーラジーンがこの世界を救うと信じているが、竜はその根拠を私には開示していない。おそらくそれはNo.7もだろう。世界樹というこの世界のシステムを閲覧出来ても、竜は全ての情報を私には教えてくれないのだ。


 ……ある日空から未知のエネルギーが降ってきて、世界を再生するという夢を見て、寝ているわけにはいかない。



 ここ数年寒波が酷いと聞いていたが、女神効果か雪は溶けて、気温もだいぶあたたかくなっていた。


「とはいっても、西の国から見たらずっと寒いですがね」


 カウズはフフッと笑うと、懐から風竜の端末を出して、風竜に話しかけた。


「今日は帰れないですが、大丈夫でしょうか」


 風の端末はコクコクと頷く。

 カウズは笑って、「何かあればすぐに教えてくださいね」といい、端末を胸にしまった。


「相変わらず過保護なのね。竜なんて数百年放置しても死なないのに」


 誰もいなかった筈の通路から、見知った女の声がした。


「……ファナ……いえ、白竜ですね」


 カウズが振り向くと、金髪の美女がニヤニヤと口を歪めて立っていた。

 前髪が目を覆っているので、ニヤつく不快な口しか見えないが、その口には真っ赤な口紅が塗られていた。胸の大きく空いた白いドレスから豊かな乳房が覗く。


「白竜は、色をとりあげられたと聞きましたが髪色は前と変わりありませんね」

「そうよ、だからこれ偽物なの。ヒトの髪の毛をくっつけているのよ。でも、瞳はどうにもならないわ」


 白竜は前髪を少し上げる。その隙間から覗いた眼球は真っ白で、ヒトとはかけ離れて見えた。


「この世界で最高位の生命体である竜が、弱い人間の真似をする意味が理解できません。あなた方は元のままでも美しいですよ」


 カウズがそう言うと、「わかってないわねー」と、白竜は人差し指を揺らした。


「人は神を模して作られているのよ。強い弱いじゃないの。ワタシはサーに似ている方がイイワ」


 クスクス笑う白竜を見て、カウズは理解できないと首を傾げた。


「ここに何しに来られたのですか? 女神の確保ですか?」

「そうそれ。あと、レーンは貴方にもキョウミがあるみたいね」

「邪神が、わたしに?」


 白竜は二人の足元に転移魔法の魔方陣を展開する。カウズは反射的に陣の文字を書きかえ無効化した。


「貴方の書き換え能力は厄介ね、変えないでくださる?」

「先に行き先を教えてくださいよ、私は旅行する暇はありません」


 白竜はカウズの肩に手をかけて耳元に囁く。


「レーンが貴方に用事があるのよ、だからついてきて……うちに」

「嘆かわしい程に人間みがありますね、どこでそんな学習をされたのでしょうか? 一度結晶化して、浄化したほうがよろしいかと」


 煩わしいと手を払うカウズに、白竜は嬉しそうに笑う。


「私が女性的なのは私のせいじゃないわ。相方が男性の形をとりたがるからこーなっただけよ」


 カウズは新情報に少し興味を示した。


「黒竜の動向が白竜に影響されるので? それは樹木にない情報ですねぇ……」

「そう、全て正反対に天秤が傾くのよ。天秤が釣り合っている時なんて殆ど無いわ」

「興味深いですねぇ。好き嫌いも反対で?」

「そうよ、だから黒竜は貴方がキライね」

「……おや、ありがとうと言うべきなのか」


 白竜は背後からカウズの背にのしかかり、カウズを腕で押さえて、右手でカウズの頬をつついた。


「紫結晶対策はしてあるのよね? ではもうこの小さな体を動けなくさせるしかないのかしら? 手足落とせば書き換え出来なくなる?」

「私の脳があるかぎり、魔法はレジストできますよ。あと手足おとすとかいうなよ? 人並みに痛覚がありますから勘弁してください」

「そうよね、貴方の宝具はその頭の中身だもの。他の子たちみたいに、取り上げたり出来ないから不便ね、試しに取り出してみましょうか?」


 カウズは冷静に話しながら、白竜の爪が自分の首を狙っているのを確認した。白竜はカウズの頬を爪の背で撫でる。


「ねぇ、どこまで破壊してもいい? 首だけになっても貴方は貴方でいられるのかしら?」

「身体的ダメージが大きすぎると石に戻るだけですよ。守護竜と同じです」

「石を連れてこいとは言われてないの。口のない貴方に価値はないわ」


 カウズはフゥとため息をついた。


「せめて、どこにいくのか、何日間かかるのかくらいは教えてくださいよ。返答できないじゃないですか」

「知らないことは答えようが無いじゃない」

「……じゃあいきませんよ?」


「し・か・た・な・い・わ・ねっ!」


 白竜は髪を伸ばし広間の扉を開けた。

 広間には何も異状は無いように見えるが、よく見ると床一面にキラキラと光る白い糸が敷き詰められていた。


「あれは私の髪。あれをピンと張って、振動させるとどうなると思う?」

「広間にいる人を切り刻みます」

「ご名答!」


 レアナはカウズを拘束したままケタケタ笑った。


「もう一度聞くわ。来るの? 来ないの?」


 楽しそうに笑う女の声を間近に聞いて、カウズは唇を噛む。


「……あの広間に誰がいると思っているのです? 貴方の髪はファリナ王の氷剣で切れるし、三の姫も燃やせます。一の王に至っては、結晶そのものを根本から破壊します。彼らにたてつきますか?」

「まあ、強い子は平気よね。でも、貴方の大切な大切な女の子はどうなの? 手足が無くなっても四の王が産めさえすればいいかしら?」


 会場ではシェンが来客と笑って話している姿が見える。アマミクは酔って寝ている。

 アマツチはどこにいった?


 カウズはできる限りの可能性を模索する。

 するとシェンが廊下にいるカウズに気がついて、笑顔で近寄ってきた。


 ……アマツチさえいれば、違う。自分が肉体的に非力でなければ対抗できるのに……!


 カウズはシェンの無事を最優先事項と判断し、白竜に抵抗するのをやめた。


「……ついて行きます。妨害をしないので、速やかに糸を回収してください」

「はあーぃ」


 白竜が軽快な口調で答え、転移魔方陣を展開する。足元から転送される感覚に目眩を覚えながらカウズは姫を見た。


「……バイバイ」


 白竜は転送される間際にそう呟いて、広間に敷き詰めた糸を振動させた


「……!」


 カウズは薄れていく広間を見て、声にならない叫び声を上げた。




◇◇


 人々が集い踊る大広間にガラスの割れる音が響いた。

 広間の床はいつの間にか一面に氷が貼られており、スケートリンクの上のように人が足を滑らせる。踊っていた婦人が転んで、キャアキャアとはしゃぐような声が響いた。


「……すまん、水竜が誤って水を溢した」


 凍らせた張本人のファリナ王がポツリと呟く。

 広間の客は支え合いながら氷の無いところまで移動する。それをみとどけた王の周囲の人々は大きく息を吐いた。


「……危機一髪」


 幸が言う「実況生中継」が脳裏に送られてきて、幸の現在の情景を見せられたジーンと水竜は、双竜が来たことを知り王に告げた。

 ザヴィアが素早く動き、白竜の魔法を検知し床の髪を見つける。それを水竜と王が人知れず氷で封じた。


「……広間に罠を仕掛けた白竜はどこにいるのでしょうか? 検索しても出てきません」

『やだー、何でアイツらウチの国土に入っても通知来ないの? コッソリ城まで来るなんてサイテー』


 小さな白い竜が天井を飛びながらわめく。ジーンは玉座に座るファリナ王の隣に立って会場を見ていた。


「レーンの青い魔法はサーの赤い魔法を封じる特性があります、だからでしょうね」

「フム、厄介だな」

「レーンがアスラから動かないから、油断しておりました」



 会場が水浸しになったので、来客は帰路についた。

 ガヤガヤとざわめく廊下を、人々とは逆方向に走りアーヴィンは広間に向かう。広間につくと、最初にシェレン姫が目に留まった。

 姫は目の前でカウズとファナが消える所を見て、呆然としていた。

 アーヴィンは妹を氷の無い場所に誘導して、従者に妹の身辺を守らせた。アーヴィンはそのまま王の元に向かう。

 ファリナ王は王宮魔術師と一の王と共にいた。


「父上、何が起きたのですか?」


 殿下の質問にファリナ王は首を横に振る。


「そんなんこっちが聞きたいわ、アーヴィンはいままでどこにいたんだ?」

「どこって、テラスに……あ、竜の娘!」

「あの子どもがどうしたと言うんだ?」

「一人で置いてきた……」


 アーヴィンの言葉を聞いてジーンは走った。

 ジーンは通路に出てテラスを探すが、幸の痕跡はどこにもなかった。樹木に尋ねても分からないので、おそらく妃の部屋だろう。

 妃の部屋を確認すると、さっきまで着ていたドレスが椅子にかけてあるので、ここにいたのは確実だ。洋服箪笥を開くと、幸が旅をするときに着ている服と白いフード付きのマントとリュックが無かった。


「……着替えて、そしてどこにいった?」


 ジーンは妃の部屋を出て、樹木に訊ねる。

 幸は竜と同じくマーキングがされてるので、隔離部屋にいない限りは探知にかかる。


「……いた!」


 ジーンはテラスから外に飛び下りると、幸を追って中庭に向かう。雪溶け水にぬかるむ中庭を走り、中央の銅像の脇にしゃがみこんでいる幸を発見した。


「……幸」

「うわぁっ!」


 幸は慌てて手を背中に隠した。ジーンは辺りを見回し背の高い黒服の竜を探す。


「今、広間に白竜が来てひと暴れしていった、黒竜はどこにいった?」


 幸は下を向いたまま立ち上がった。そして、紙片をジーンのポケットにつっこむ。


「手紙?」


 ジーンは手紙を見ようとするが、幸はポケットから出せないように手で押さえた。


「何故妨害する?」


 呆れて聞くが、幸は下を向いたまま必死に手紙を押さえている。

 見れば、幸は白いフード付の大きなマントを着ている。背中がふくれているので、リュックを背負っているのだろう。そして、腕には黒猫を抱いていた。

 幸は小さいので、ジーンの視界からは顔がフードに隠れて見えなかった。ジーンの手に重ねられた幸の手は小刻みに震えていた。


「……あ」


 幸が震える声で言った。


「あたし、もう、行くね……」

「行くって、どこに?」

「レーンのとこ」

「何故?」


 幸は小さな声で言ったので、ジーンは屈んで耳を近付けた。


「カウズをシェンのところに返して貰ってくるだけ。すぐに戻るよ、大丈夫。サーがアレクをくれたから戻れる」

「ならついていく」

「……ダメ」

「何で?」


 ジーンは幸のフードをはずす。頭に触れれば心が読めるから、頭に手を向けるとしゃがんで回避された。

 幸はフードを深く被り、しゃがんだまま下を向いていた。

 顔が見えなくても、幸が怯えて泣いているのは分かる。


「……レーンが、あと数回信と同化したら、レーンと信は同じものになるって言ってた」

「だから何? 幸だってフレイと同化しているだろう?」


 喋りながら幸がボロボロ泣くので、黒猫が幸の頬をなめていた。


「私ね、その意味をよく考えたの……信とレーンが同化したら、レーンは日本に行けるんじゃない? それって多分、私も一緒だよね?」

「…………」


 幸はジーンの腕にすがって叫ぶように言う。


「そしたら、残った貴方はどうなるの? ずっとその体でここで竜として生きていくの!? 何百年も、死ねないまま、ここで一人……世界が朽ちるまで……」


 幸は顔を覆って泣いた。


「……レーンが、この三百年間辛かったって言ってた、私、その苦痛を信に味あわせたくはない」

「幸……」


 ジーンはためらって、幸の肩に手を置く。

 幸はその手を振り払った。


「大丈夫だよ、審判の日までレーンが私に危害を加えられる筈はないもん。多分あの人暇してるだけだよ。だからジーンさんは、ここで王やセレムやシェンを守っていてね」


 黒猫が素早く動き、幸の足元に緑の魔方陣が展開された。


「……シェンを泣かしたらゆるさないんだからね!」


 幸はエレノア妃のような口調でそう言って、バイバイと手を振った。

 魔方陣は足元からせりあがり、幸の体が完全に消え去ると、中庭に冷たい風が吹いた。


「………」


 ジーンは屈んで、自分の腕に爪を食い込ませた。爪は肉を削ぐが、傷はすぐに塞がれていく。


「バカヤロウ……」


 ジーンの言葉が風に流され消えていった。


◇◇


 誰もいないファリナ城の中庭で、ジーンはひとりたたずんでいた。

 城のテラスからマーキングされた一の王が飛び下り、軽快な足音で近付いてくる。


「来客はあらかた帰ったよ、君らはここで何してんの? デート?」


 アマツチはキョロキョロと辺りを見回す。


「……あれ? ここに幸ちゃんいなかった? なんか一生懸命書いてるから声かけなかったけど」

「そうだ、手紙!」


 ジーンはポケットに押し込まれた紙片を開いた。

 アマツチが横から覗き込むが、読めないと眉を寄せた。

 手紙は日本語で書かれていた。


 ゛信へ

 突然いなくなってごめんなさい

 言ったら絶対止められると思うから言わずに行くよ


 カウズがレーンに捕まりました

 会場に白竜が来たみたい

 黒竜も来たんだけど、サーが私と黒竜を契約してくれたので、私の事はアレクが守ってくれます。

 アレクがカウズの居場所を知っているから返して貰いに行ってきます


 あとこれは大事な事なんだけど、信は絶対に日本に帰れるからね、ちゃんと向こうに帰って、菊子さんを起こそうね


 ここでお世話になった皆さんによろしく伝えてください。またすぐに会えるよ ( ・∇・)

 幸より゛


 日本語だけでなくアホ顔の顔文字もついていた。


「バカコウ!」

「……なんて書いてあるかわからんけど、連れ戻すのなら手伝うよ」


 アマツチがジーンの肩を叩いた。


 銀色の月から冷たい光が中庭に降り注いでいた。幸が消えた場所を枯れ葉が舞っていた。


 

2-8、書庫でジーンがうなされていたのはこのシーンでした


『……カ、行くな、……が行った所でなんに…』

(バカやろう、コウ、行くな、お前が行った所でなんになる)

このシーンがトラウマになってる様子

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