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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
十一章(ファリナ3)
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11-4、契約


 ファリナ城のベランダで、私は驚いて闇を見つめていた。

 私は目を疑って目を擦る。

 ベランダの手すりの上には、確かにその人が立っていた。

 闇に溶けるその黒い体、月がその輪郭だけを浮かび上がらせる。それは、まぎれもなくアレクセイ・レーンだった。


 私が最後に彼を見たとき、アレクはレーンに命じられて結晶に戻っていた。あらから何ヵ月たっだろう……。


「……アレク、大丈夫なの? もう再生したの?」


 私はアレクに手を伸ばしかけ、その手を止めた。


 ……アレクはレーンの命令で動いている。この城にいる人が傷つけられてしまうかもしれない!


 私は動けずに、アレクの様子を見ていた。

 アレクは手すりから下り私の前に立ち、ゆっくりと床に膝をつけた。私は緊張してアレクを見ていたが、アレクは下を向いたままじっとしている。


『……樹木から伝令がある』

「えっ?」


 アレクは日本語で言った。私は驚いてアレクの隣にしゃがんで耳を寄せる。


『No.6とレーンの契約を解除する、コウはすぐにNo.6と契約をすること』

『な……何で日本語なの? 樹木って、あなたはサーラジーンじゃなくて書庫のジーンさんなの?』

『……今のままではレーンに力が偏りすぎている、均等にはならないが、抑制にはなる、解除はこちらでやるので、契約の方法は……』


 私の質問は無視された。どうやら返事は出来ないみたいだ。双方向会話が出来る電話じゃなくて、一方通行の音声を流しているみたいな感じ。


 私は質問するのをやめて、アレクが語る言葉に集中した。


『サーラージーンはこれから長期の眠りに入る、なのでコウは自分で自分を守らないといけない。黒竜の力を借りてその身を守り、必ず帰って来ること、いいね』

「……はい、ジーンさん」


 ……消えてなかった。


 私と信が、レーンから体を取り戻す事を諦めたので、研究所にいる大人の信は消えたと思っていた。

 でもこうしてメッセージを送ってくるということは、書庫のジーンはちゃんと生きている。私を見守ってくれている。


 ――今辿る道は、信が向こうの世界に帰れる事を意味している。


「……それだけじゃない、私が、生きて帰る方法があるんだ」


 今はその方法は全く分からないけれど、今辿る道はあの書庫へと続いている。彼が今生きて言葉を伝えていることがそれを証明している。

 この道筋に、信が辿ったこの道に、私も帰還する方法があるんだ。私は信を信じよう。


 私が顔を上げると、アレクの足元に魔方陣が描かれていた。その赤い光はアレクの足元から頭に移動し、額を照らしてサーの光はかき消えた。


 アレクセイは地面に膝をつけて、下を向いたまま停止していた。私はアレクの肩に触れる。


「……アレク、契約をしよう」


 アレクは何も言わず、じっと私を見ていた。私は困って立ち尽くす。


 ……しまった、契約の方法ちゃんと聞いて無かった。書庫からの連絡に焦って内容取りこぼした。さすがにアホすぎる。


「……角に触れて名を刻む」


 アレクがポツリと呟く声を聞いて、私は顔を上げた。


「角……額ね? 刻むって、どうしたらいいの?」


 刻むと聞くと、彫刻をするイメージがあるけど、額にすることでは無い。そんなの痛いからやだ。


「角に魔力を流して、主人の名を刻む」

「……いや、魔力を流すとか無理でしょ」


 今まで人に血をあげたことはあるけど、あげた人はそれぞれ勝手に使うので、魔力の利用方法など知らなかった。魔力とは血かな? アレクの額に血をつければいい?


 私はママのピアスを外して、針を指そうとしたら、アレクにその手を捕まれた。


「……血はいらない、唾液でいい」


 整ったお顔でギロリと睨まれた。とは言っても、アレクはいつも不機嫌な顔をしているけど。


 ……そうだった、アレクは痛いことが苦手だった。


 私は頭を振って気を取り直す。すうと深呼吸をすると、ファリナの冷たい空気が肺に入って気が引き締まった。私はピアスをつけ直し、アレクの前に立った。


 表情の無いアレクの頬に触れて、右手で額に触れる。私は少し息を吸って、息を吹き込むイメージで、アレクの額に口を付けた。


「……フレイレリーンの名において命じる、アレクセイレーン、私の竜になってください」


 口を付けた所から、芽吹いていくように魔力が広がる。私の体から緑の光が溢れ、アレクの体に絡み付き、吸収される。

 緑の光が消え、二人が目を開けたとき、私はアレクを見つめて静かに涙をこぼした。


「アレク、お帰り……」


 セダンで別れてから本当に長かった。

 水竜の巣で少しだけ会えたけれど、すぐにレーンに壊された。

 日本でもセダンでもずっと側にいてくれて、献身的に私を守ってくれていた。アレクには本当に感謝している。もう絶対にレーンには渡さない。


 私はアレクに抱きついて、しばらく泣いていた。

 私の気持ちがおさまるのまで待って、アレクはスッと立ち上がった。

 日本にいたアレクよりも背が高い。ファリナ王くらい高い。もうお腹しか見えない。


「……き、君は、私のことは知ってるのかな? 少しは覚えてる?」


 アレクは黙って首を微かに左右に振った。


「うん、そうだよね、湖で結晶に戻ったもんね、記憶消えてるよね」


 ……まあ私との記憶なんて、日本で会ってセダンで少し一緒に過ごしただけ。千年近く生きてきたアレクにとっては些細なものだ。


 アレクは少し屈んで私の頭に手を置く。その手を下ろし、耳の制御ピアスに触れた。


「思い起こせ、勝手に盗る」

「……えっ?」


 アレクは片手で私のピアスを外して、私の口に口を重ねた。今までアレクと口とのキスなんて猫の姿でしかしたことが無かった。私の頭の中を、保健室や暗い池、そして日本とセダンの自室でのアレクの姿が駆け巡る。

 口が離れると、私はしゃがんで頭を抱えた。


 ……ピアス無しで絡まれた! セレムとジーンに実況中継状態になるのになんてことを!


 私が項垂れていると、アレクはしゃがんで私の耳にピアスをつけた。私は恨みがましい目でアレクを見る。

 アレクは私から視線を外し、一度黒い霧に変わる。霧はギュギュッと縮み、中から小さな黒猫が現れた。


「ニャァ」

「……ズルい。かわいすぎて怒る気になれない」


 私は苦笑いをして黒猫を抱き上げる。


「……君は何をしにここに来たの?」

『レーンが、フレイと二の王を連れて来いと寄越した』

「レーンが来てるの?」

『いや、レーンは本体との接触を避けているのでアスラにいる』


 ……良かった、レーンはいないんだ。でもレアナがいるのはかなり怖い。


「さっきの物音、レアナが来たからだったのかな? アレク、レアナがどこにいるか分かる?」


 黒猫は私の腕の中で目を閉じ黙った。検索を待つ間に、私は城の窓を見上げる。広間のある階の廊下に赤い光が走って消えた。

 猫は目を開けて、じっと光った窓を見上げた。


『今しがた転移が終了したようだ。二の王とNo.5はアスラに移動した』

「……遅かった! 契約にまごついてたから!」


 落ち込んでいると、アレクは私の頬を肉球で押した。


『行く』

「レアナを追跡できる? カウズ返して貰えるかな?」


 猫は黙って頷いた。私は「待って」と、アレクの背中を揺らす。


「ジーンに言ってくる。一緒に来てくれると思うし」


 そこまで言うと、レーンが妃の部屋に現れた時の会話が頭をよぎる。


『あと二、三回同化すれば、俺もヤツも同じ存在になるよ。君が望む方の俺になれる』


 同化とは、二つの魂が同じ体に入る事だろう。あと二、三回のうちの一回は、凍った水竜の巣で果たしている。それは次で完全に同化するかもしれないと言うことだ。レーンも信との接触を避けているらしい。


「ねえ、レーンと信が同化したらどうなるの?」

『知らん』

「いや、そうだろうけど、レーンに仕えていたんでしょ? ちょっとは分からないかな? 推測でいいから!」

『……シンはどちらの体も使えるが、レーンは人の体しか使えない。No.7を捨てたとして、シンの体に二つの魂が入ると、混ざってひとつになるか、どちらか一方が消えるか、これはやってみないと分からない』


 信が消えてしまうかもしれないと聞いて、私はゾッとした。


『気はすんだか、行くぞ』

「待って、この格好でアスラに行きたくない。準備させて」

『……急げ』


 私は猫を抱いて、急いで妃の部屋へ向かう。


「アレク、これからは突然キスしたらダメだからね?」

『了承した、先に告げる』

「告げてもダメな時はダメなのよ?」


 猫はかわいらしくニャーンと鳴いて、私の頬をペロリとなめた。

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