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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
十一章(ファリナ3)
133/185

11-1、祝賀会前


 ファリナ城の大広間は、沢山の光のスクロールと、花と布できらびやかに飾られていた。


 私は西から仕入れた花を運んで、会場内を見渡した。模様の入った石の床は赤い敷物で覆われ、端には椅子やテーブルが並べてあり、お皿やコップには布がかけられてある。

 そこはまさにおとぎ話に紛れ込んだみたいで、振り向けばガラスの靴を落とす姫が出てきそうだった。


 忙しく走り回るハノイの言うままに、私は会場の準備を手伝っていたが、途中ハノイの命令でメイドのおねーさまたちの所にいかされて、久々の、風呂→衣装→化粧のフルセットを食らった。


◇◇


 今日は二の王とシェレン姫の婚約式と、セダンの国交再開を祝うパーティーが開催される。

 祈りの指輪が見つかった日から既に一季ほど経過していた。既に季節は冬なのだが、雪は降らずに長い秋が続いているようだ。

 指輪はシェレン姫が常時つけているので、実質的に西の学舎に貸した事になっている。

 その指輪を用いて、二の王がサーの結晶の節約や変換、命の光の効率的な再利用の研修をはじめたらしい。

 あれから国に戻っていたセダン王や、伝説の王達が今日再びファリナに集まった。


◇◇


「ひー……」


 私は風呂に浸けられ、全身くまなく香油を塗りたくられた。私は思わず自分の腕を嗅いでみる。臭いは無いが、乾くと肌がいつもよりツルツルスベスベしている気がした。


 私の黒髪は花と共に編み込まれ、耳の横だけ前に長く垂れている。

 ドレスは白に近い緑で、肩と背中がむき出しだ。腕には薄手のパフスリーブを通して、白い長い手袋をつける。

 空いた首は花がついたリボンで飾り、背中にリボンを長く垂らしていた。


「背中寒い背中……これじゃあミクさんだよ……」


 部屋の鏡で姿を確認して、浮き出た鎖骨を見て素で落ち込む。


 ……ミクさんはあんな綺麗な背中してるのに、私は骨だよ……肉、肉をくたさい。


 私は恥ずかしいので、いつも来ているマントを上に羽織った。

 そのままコソコソと人目を忍んで部屋を出ると、アイボリーにグリーンの刺繍が入ったマントを来た人が部屋の前に立っていた。

 私は顔を見ないように下を向いて、ペコリと会釈して通りすぎる。


「……っ」


 すれ違い様にその人が笑った。

 私はその声に気が付いて振り向くと、アイボリーの人はジーンだった。


「幸さんに気がつかれないなんて人生ではじめてかも……」

「わぁー、黒くないと別人だねぇ。アレクっぽさ激減……」


 私はジーンのまわりをぐるぐる回り、マントをめくってみる。


「ああ、結構いい生地だ……縫製も一級品……手縫いなのにここまで針が細かく均一!」

「黒は葬式っぽいからと、王の服を着せられましたよ、だから裏面魔方陣でビッシリ」

「へー、それ模様じゃないんだ、布はサラサラしてシルクみたいだねー、何の生地なんだろう?」

「蜘蛛の糸と聞いたかな? 魔物の糸だね」

「魔物」


 ……魔物を布にするなんて考えた事が無かった。まあ、砂漠ではさんざん食べたし、様々な利用法があるんだな


 興味津々の私に、ジーンは苦笑した。


「いつもの調子でばれると思ったけど、幸は服の色で俺を判断しているの?」

「君の判断基準は胸の穴なんだな……。その体にいると樹木に隠されていてわかんないかも」

「目に見えないモノで判断してるんだな……」

「あれ? 言ったこと無かったっけ?」


 ジーンは頷いた。もしかして、書庫のジーンさんに言ったのかもしれない。

 首を傾げる私の頭をジーンはポンポンと叩いた。


「しかし、幸はなんで普段着なんだ……」


 ジーンは私がいつも着ているフード付きマントをめくってみる。


「あっ」

「……ひやっ!」


 私はぴょんっと後ろに飛んだ。

 私は顔を赤くして両手をブンブン振る。


「めくったら、いけない、いけないよ……」

「会場ではそのマントはとらなきゃいけないんだから、今から慣れたほうがいいですよ」

「……か、会場だと人に紛れるから見えないし!」


 ジーンは目を閉じて、うーんと唸った。


「無理だろうなぁ。ただてさえ目立つから、埋没出来ると思わないほうがいい」

「目立つの? 何で!?」

「……この世界には子どもはいないからね」

「うわぁ……」


 今まで目立ったときは、売られたりイジメられたりろくなことが起きていなかった。私はこれから起こることを想像して震え、ジーンのマントの裾を握る。


「じゃあ君の後ろにずっといる……」

「ファリナ王の後ろとか一番目立ちますよ? だから私もこれを着せられたのだし」

「……逃げ場なし」


 ジーンは落ち込む私の背中を叩く。


「顔をあげて、マントも取りなさい。ちゃんとしていればコウはかわいいから」

「……かっ」


 ……信に可愛いって言われたのは、生まれてはじめてかも!


「えい!」


 私は気をよくしてマントを脱いだ。剥き出しの上半身にファリナの空気が冷たく刺さる。するとジーンの動きがピタリと止まった。


「……や、やっぱ変だよね、これっ。変えてもらおうかな……」

「いや、変じゃないよ、むしろ……」

「むしろ?」


 ジーンはためらいがちに言った。


「……心配になる」

「やっぱ変じゃないかー!」


 私がジーンの手をふりきって駆け出すと、通路で人にぶつかった。バランスを崩した私は、ぶつかった人にガシッと支えられる。


「す、すみません……」

「あはは、いいよ」


 軽快な笑い声がしたほうをみると、ぶつかったのはアマツチだった。

 アマツチは珍しく洋風のチェニックを着ていて、金糸で縁取られた、青いラインの入った白いマントを羽織っている。甘いマスク、金髪の巻き毛、青い瞳とか、絵本から抜け出した王子様みたいた。

 私が口を開けてアマツチを見ていると、アマツチの後ろからミクが顔を出して手を振る。


「コウ、おひさー」


 ミクは相変わらずの赤いチャイナ風ドレスで、金糸の刺繍の入った、透けた生地のショールをゆったりと巻いていた。

 燃えるような色の髪は、ポニテの位置を横にずらして、垂れる髪に宝石のついた鎖を巻き付けている。ミクが動く度に光が反射してとても綺麗。

 私がミクに近寄ると、ミクは私をしげしげと見た。


「今日はかわいいわ、コウは少しは大きくなっているのかしら?」

「ミクも超美人だよー、きっとファリナの人もミクが綺麗でびっくりするよー」

「ウフフ、ありがと」


 ミクは、私の肩に腕をからめて、至近距離でじっと私を見ていた。


「……ミクさん?」


 ミクは身をかがめて私の首に巻いてあるリボンを引っ張っていたが、するりとほどいて私の首にちゅー、とキスをする。


「……ふぁぁぁっっ!」


 私は真っ赤になって後ろに飛び退いた。アマツチがミクの頭をペシッと叩く。


「……やめい」

「いや、あれみるとやりたくなるでしょ? ほどかれる為にあるリボンでしょあれー」


 文句を言うミクにアマツチは苦笑する。


「気持ちはわからなくともないけど、子ども相手に何してんの……」

「だってあんなほっそくて折れそうな体見たら襲いたくなるでしよー!」

「襲う言うなよ……姫、本能だけで行動するのはやめなさい、一応、南を代表する王なんだから。あと、コウさんに嫌われるよ?」


 本能のおもむくままに行動したらしいアマミクははっとする。

 私はほどかれたリボンを手に持ち、ジーンのマントの中に隠れて、震えながら二人を見ていた。ジーンはジーンで、顔に手をあててどこか他所を見ていた。


「ごめんね、コウー、 もうしないから、おいでー」


 手を広げて言うミクに、私はイーっと顔をしかめて、反対側に歩き出す。


「コウちゃーん、どこいくの?」

「なんか上着かりてくる!」


 回れ右する私に、ミクはついて来る。


「ミクさんはアマツチとそーゆーことすればいい」

「あいつ固いからやだー」


 それを聞いたアマツチが吹き出した。

 気管が詰まったようで、ゲホゲホと咳をする。そんなアマツチを、ジーンは無表情で見ていた。

 アマツチは視線に気が付き、手を横に振って「何もしてないですよ?」と笑う。


「コウの服、会場に行く前に対処できて良かったです」

「ん? 何?」

「いえ、うちの殿下が幸を気にかけているので、あまり年相応の服は着て欲しくないなぁと……。まあ、貴方もなんですがねー」


 アマツチも笑顔を顔に貼り付けて言う。


「笑顔で心抉るような事言うのやめてくださいねー。コウさんとのキスは全部あっちがやってきたんてすからねー」

「おや、全部って一度ではないのですか?」


 アマツチはニコッと笑う。


「ご想像にお任せしますよ」

「……幸に手を出したら速攻で世界閉じますからね」

「うわ……最悪の脅しきたこれ……」


 アマツチはジーンの肩を叩いて片目を閉じて笑う。


「大丈夫、俺は女の子を泣かせるようなことはしないから! まあ、向こうから来たときは避けないけど」

「…………」

「……あ、その目、心に刺さる」


 ジーンはアマツチの手を払って言う。


「仕事なので戻ります。同じ会場におりますが、距離があるし自由行動が出来ないので、幸の守りをよろしくお願いします」

「はいはい、まかせて!」


 アマツチはそう言うと、立ち去るジーンを見てちいさく手をふった。

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