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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
十章(ファリナ2)
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10-6、再会

 

 シャランと鱗が鳴る音がして、水竜が巨体を引きずり謁見室に現れた。


『王、来客』


 巨大な長い体をくねらせ、水竜は道を開ける。入口から、金色の巻き毛の青年と、黒髪おかっぱの白いローブを纏った少年が現れた。少年はあたりをざっと見渡して、ファリナ王に向かって一礼した。

 騒ぎを聞き付けたらしいセダン王の護衛も一緒に入って来て、セダン王を視認すると扉の前に立った。


「突然の来訪、どうかお許し頂きたい」


 金髪の青年も、一歩引いてファリナ王に向かい一礼した。

 ファリナ王は王座に座ってそれに答える。


「二の王、ようこそおいでくださった。一の王も用事がすんだのかな? よくぞ戻られた」


 一の王の後ろから黒髪の少女が顔を出した。


「お父様、お久しぶりでございます、シェンです」


 シェレン姫は王座に行き、ファリナ王の頬にキスをした。王は姫の頭を撫でて微笑む。


「幸せそうで何よりだ、うちの城ではお前に苦労をかけたな」

「いいえ、お父様には本当によくして頂いて、感謝してもしたりないくらいです」


 そこでシェレンは目線を床に向けた。


「……あの、魔術師様が床に寝ておられるのですが、あのままでよろしいのでしょうか?」


 姫の言葉に、そこにいた皆が床に目を向ける。そこにはザヴィアがでっぷりとした腹を付き出して、仰向けに倒れていた。


「気にしなくていい、床で寝るのはザヴィアの趣味だ」

「まあ……」

「……すみません、失念しておりました」


 ジーンは魔術師を隣の控え室に連れていって、長椅子に寝かせた。

 ファリナ王は剣で床を小突く。


「各々がたに紹介しよう、こちらがセダン王とセダンの一の王、そして西の学舎の二の王と我が姫シェレンだ」


 セダン王の腕にしがみついていた少女が、シェレン姫の前に歩いて行った。シェレン姫は見知った顔を見て、にこやかに笑う。


「コウさんごきげんよう、この城に滞在しているとの事ですが、何か不自由はありませんか?」


 幸は自分よりも少し背の高いシェレン姫をじっと見つめて、その目から大粒の涙を流した。


『……げぇ』


 水竜がうめいて、一目散に部屋を退出する。

 姫は突然泣いた幸の顔を、レースのついたハンカチで拭いた。幸は泣きながら姫の首に手を巻き付けて、そっと抱擁する。


「コウさん?」


 姫は一瞬驚いたが、泣き続ける幸に気を遣い、その肩を優しく撫でた。


「大丈夫ですよ、安心してくださいね」

「うう……」


 幸は姫に抱きしめられてしくしくと泣く。それを見ていたファリナ王は、呆れて呟いた。


「あれではどっちが親なのか分からんな」

「お父様?」


 姫が顔を上げる。

 姫に抱擁されている少女が、その顔の横でふふふと笑う。


「フフッ……超かわいい、しかも優しい、世界一かわいい、もう死んでもいい、いや、死んでるけど」

「……コウさんは何処か具合が悪いのでしょうか?」


 二の王が幸の額に触れて、熱を確認する。


「熱はありませんね。水竜も出ていってしまいましたし、どこか痛みか傷があるのかもしれません」

「……誰だ?」


 幸は素早く二の王の手を払い、二の王をにらむ。幸の顔がいつもより険しいので、二の王は戸惑った。


「誰って、カウズですよ? 西の学舎の、忘れましたか?」

「彼は二の王だ、西の国の伝説の王」


 ファリナ王は小声で助け船を出す。

 少女はシェレン姫から離れて、カウズを上から下までジロジロと観察した。


「ふぅん。伝説の王で、まだ幼体なのだな? 成体はどれくらいの丈だ? 伝説ってことは不老なのだな?」

「……はい?」

「年収はいかほどで? お前、姫をこきつかったりはしないだろうな?」

「ん、ん、ん?」


 詰め寄られての質問責めにカウズは混乱する。

 背後で見ていたセダン王が飛び出し、子どものおでこを押さえて一歩引いた。


「……どこの姑女ですか、いい加減にしなさい」

「末の兄は黙れ、大事な事なのだ、腕を離せ」


 セダン王の腕の中で手をばたつかせる子どもを見て、カウズは言う。


「エレノア妃」

「えっ?」


 シェレンは驚いてカウズを見た。


「セダン王を兄と呼び、娘をかわいがる様子からその方しかおられないでしょう。異世界の娘の体はまた何かに使われているのでは?」

「お母様……お母様なのですか? ああ、本当に…?」


 シェレン姫は目に涙を溜めて少女を見つめた。


「すまんな、こんな体でお母さんって言ったって理解出来んよな」


 エレノアは娘を見て困ったように笑う。

 シェレンは恐る恐る手を伸ばし、幸の頭をそっと撫でると、エレノアはシェレンを抱きしめた。

 エレノアはシェレン姫の背中をよしよしと撫でる。


「シェン、一人にさせてすまなかったな、何か辛いことや困った事はないか?」

「大丈夫です、ファリナでも、西の塔でも、皆様とてもよくしていただいております。好きな方もおりますよ、私、一人ではありません」


 久々の母子の再会を、そこにいた王達は見守っていた。

 シェレンは少し身を引いて、少女の顔を覗き込む。


「あの、そのお体は? コウさんはどちらにいかれたのでしょうか?」

「無粋な事を言うな娘よ、女神は森から私を呼び寄せた疲れで寝ている。まだ大丈夫だろう……」


 その二人の背後で様子を見ていた二の王が、二人の間に入って離れるように指示する。


「エレノア妃、その体を貴女が使われるには難があります。保有する結晶量が違いすぎることから世界に亀裂が生じるでしょう。早々に立ち退かれてください」


 妃はチッ、と舌打ちをして、名残惜しそうにシェレンから離れた。妃は腰に手をあてて振り返る。


「一の王アマツチ」


 突然妃に名を呼ばれてアマツチは「はい?」と答える。

 少女は名前に反応した男に近寄り、その顔を見上げた。


「いつも兄上が世話になっておるな……」

「こちらがお世話になっていますよ。セダン王は大変聡明な方で、ご兄弟も有能なので、城の皆からの信頼も厚いです。良い王です」

「……ふん」


 妃はまんざらでもない顔をして笑う。そしてアマツチに手招きをした。


「頭を下げてくれるか? この体、ちと小さすぎる」

「……?」


 アマツチが頭を下げると、少女はその顔に腕を回して口付けをした。


「……!」


 一行が唖然とする中、少女は体を離す。


「ふむ、無理だ。移れん」


 エレノアは仁王立ちでペロリと舌を出した。

 黒服の竜が仏頂面を張り付けて言う。


「魂の形が違いすぎるので、一の王の体は乗っ取れませんよ……」

「誠か」

「乗っ取る?」


 一の王は状況がさっぱり分からなくて、首をかしげた。そんな一の王を冷ややかに見て、カウズが言う。


「エレノア妃がその体を使えるのは、貴女が緑の魔女の結晶から出来ていたからです。他の王には乗り換えられません」

「……あーあ、つまらん」


 エレノアは観念して、伸びをするように腕を上げた。


「潮時だなぁ……」


 そう言って、妃はセダン王のところに行く。


「兄上たちには何も言わずに申し訳ないことをした。なんということもない。終末の預言に巻き込まれただけのことだ。仕方ないよな、我を構成していた素材が世界の根幹にいた女のものだったのだから……」


 エレノアは兄に手を伸ばした。セダン王はその体を抱きしめる。エレノアはその胸に顔を埋めて目を閉じた。


「裁定の日は刻々と近付いている、予言者の言う未来に向けて、我らも舞台を整えたんだ……ヒトの愚かさや罪は全て神が贖うんだと、ホント、馬鹿だよな、慈愛の塊かっつーの……」

「……エレノア? 誰の話をしている?」

「……神は常に我らを見ている。そして常に案じている。彼は誰よりもこの世界を愛していて、自由と平和を何よりも好むんだ。我らは彼の愛情に応えなければならない……心してかかれよ? 憂いている暇は無いぞ……」


 そして、少女は眠りに落ちた。

 スウスウと安らかな寝息が聞こえて、一同は安堵した。

 眠る少女を支えて困っているセダン王に、背後から黒服の守護竜が声を掛けた。


「セダン王、その体をお貸しください」

「あ、はい」


 ジーンは手を伸ばして幸を抱えた。


「部屋に置いてきますね」

「あ、私も付き添います」


 シェレン姫は幸を運ぶジーンに付いて部屋を出て行った。

 部屋に残されたセダン王は、扉の前に立つ護衛に軽く詫びる。そのまま退出しようとしたが、アマツチに止められて、三国の長でこれからの行く末を話し合う事になった。



◇◇


 装飾の少ない機能的な西の塔とは赴きが違う、美しい廊下を懐かしく思いながらシェレンは歩く。

 すれ違う者が幸だと勘違いをして、二度驚くのが楽しい。

 シェレンは久々の里帰りを楽しんでいた。


「姫君は人に好かれていますね」


 ジーンがそう言うと、姫はフフッと照れ笑いをする。


 ジーンはエレノア妃の部屋に幸を寝かせる。

 そのベッドになぜか三の姫も寝ていて苦笑した。

 ジーンは棚から、幸がよく飲んでいるプラスチックの薬のケースを開いた。蓋に書かれている文字から、いくつか錠剤を取り出す。


「……それは、お薬ですか?」


 ジーンが何をしているのか興味津々な姫が、ジーンの手元を覗く。


「単なる栄養剤ですね。女神の魔法には血を使うようなので、血を作るための成分です」

「精神力の回復魔法なら、カウズ様が使えますよ?」

「いえ、この世界の回復魔法では、異世界人の血は作れないようなのです。傷の回復なら私にも出来るのですがね」


 ジーンは錠剤を幸の喉に押し込んで、自分の口に水を含んで幸に飲ませた。


「……まあ」


 驚くシェレン姫を無視して、ジーンは三回同じ動作を繰り返して、なにくわぬ顔で幸を三の姫の隣に潜り込ませた。

 幸を隣に置いたとたん、三の姫が幸に巻き付いて、幸はうーんとうなされた。


「……いつもそうして、投薬されていますの?」

「意識があればしませんよ。今は緊急時なので、仕方がありません」


 シェレン姫は寝台に近づき、幸の顔を覗いた。


「今見たことは、コウさんには内緒にした方が良いですか?」


 ジーンは少し間を開けて、「かまいませんが、私から伝えますよ。ご心配なく」と笑う。

 何事もないように言うジーンの顔を見て、シェレンは率直に尋ねた。


「それは、ジーンさまとコウさんが恋仲だからですよね? コウさんはずっと貴方を探しておられたのですし。会えて良かったですね」


 ジーンは少しバツの悪い顔をして、三の姫に巻き付かれて苦しそうな顔をしている幸の額を撫でた。


「ありがとうございます、まあ出会えたところでこの借り物の体ではどうにもなりませんが」


 ジーンは一拍おいて、姫に聞く。


「姫がここに来られたのは、一の王の話を聞いたからですか? なら、私の目的を聞きましたか?」

「はい、先程カウズ様と一緒にお聞きしました」


 ジーンは姫を真っ直ぐに見て、宣言するように言った。


「私は出来るだけ早く幸を向こうに戻します」

「そうですね。コウさんがこの世界の犠牲になる必要はありませんものね。カウズ様も女神のお力抜きでの世界の延命を考えているようです。そうしたらあとはジーン様の体だけですね。西の塔でご助力出来ることなら申してくださいまし」


 ジーンはその言葉を聞いて、フッと微笑んだ。


「ありがとうございます。私たちもこの世界に貢献できることはなるべく協力します、よろしくお願いします」


 いつも無表情なジーンが優しく笑うので、シェレンは少し照れて部屋を見渡した。


「わ、私、お母様のお部屋に初めて入りましたわ」


 シェレン姫は物珍しそうに部屋を回り、調度品を眺めていた。


「家具も装飾も素っ気ないですわね、私の部屋とは大違いです」

「エレノア妃ご自身も素っ気ないお方でしたね、ファリナ王のようでした」

「殿方のように語られていましたね、噂通りでした」


 ジーンは幸と三の姫に毛布と掛布をかける。


「それでは、かあさまが抱きついておられた方が、私の本当の父親なのでしょうか?」

「そうですね、彼は現セダン王で、エレノア姫の血の繋がらない兄です。というか、エレノア妃に親はおりません、妃は二代目のNo.8と言っても相違は無いですね」

「……私、竜の子どもということですか?」

「エレノア妃はどちらかというと伝説の王寄りですがね、不死の王も本人が望めば、出産して老いて死ぬとメグミク王で実証されておりますね」


 姫はしばらく黙っていた。

 そして、ぽつりぽつりと話始めた。


「母はセダンでは幸せだったのでしょうね、大好きな人の側にいられたのですから」


 ジーンはしばし黙って、そして笑顔を見せる。


「エレノア妃はここでも幸せだったと思いますよ。シェレン姫、貴女がおられましたからね」


 姫は、はっと顔を上げた。


「今日彼女は、真っ先に貴方にお会いしたいと言われていました。そしてお会いになられて、世界一かわいい、優しいと喜んでおりましたよ」

「お母様……」


 姫の目からはらはらと涙がこぼれる。

 ジーンは黙って泣いている姫を見ていた。



「……ん」


 背後から気配を感じてジーンが振り向くと、幸が身を起こしてぼーっと二人を見ていた。


「あ、起こしてしまいましたね、幸さん、お身体に異常はありませんか?」


 姫が涙をぬぐい、幸に声をかけると、幸は顔を覆ってうわぁと呻いた。


「……どうしました?」


 ジーンが近寄ると、幸は顔を隠したままぶんぶんと首を振った。

 幸は「どうしよう、どうしよう」と呟いている。


「私……ザ、ザヴィアさんの顔を蹴って、アマツチにキスを……」


 ジーンは冷ややかな目をして幸を見る。


「エレノア妃が、幸は言えばなんでもくれると言ってましたね、主体性が無さすぎるのでは? 完全にナメられていますよね、レーンにも彼女にも」

「……ごめんなさい」


 幸はうなだれてうううと呻く。


「どうしよう、何て言って謝ったらいいのかわかんない……」

「とりつかれていた間の意識はありません、これで」

「……へ?」

「魔術師は絶対に許さないから、謝るよりも知らなかったで押し通すしかありません。実際貴方の意思でやったことではないのだから、それで通ります」


 幸は頭の中でそれを想像してみて言う。


「絶対バレると思う……」

「では顔を会わせないように留意することです」

「……アマツチにも?」

「当然」

「うわぁ……難しい」


 幸が頭を抱えていると、シェレン姫の笑い声が聞こえた。幸は姫を見る。


「ごめんなさい、ジーン様があまりにも刺々ししくてつい……これはきっと、お母様が一の王に口付けしたから、言葉に刺を含んでおられるのですね?」

「それが全てというわけではありませんがね」

「……ん? どーゆーこと?」


 うろたえる幸に、シェレン姫は微笑んだ。


「愛されているということですよ、良かったですね、コウさん」

「……ひぇ」


 幸がぱっと赤面するので、ジーンも伝播して赤くなる。


「……くっ」


 ジーンは思わず幸を睨んだ。

 姫はクスクス笑いながら扉を開けた。


「ごめんなさい、女性のお部屋に入ると言うので付いてきましたが、お邪魔でしたね」

「いえ、私も仕事に戻ります」

「ええっ? 会ったばかりなのに?」


 出ていこうとするジーンに、幸が残念そうな顔をする。その顔を見て、シェレン姫はまた笑った。


「コウさん、先程倒れた貴方に、ジーンさまは口移しで薬剤を飲ませておりましたよ、三回も、では、ごきげんよう」

「……へっ?」


 姫はニッコリ笑って扉から手を振る。出ていくシェレンを見て、幸はわけが分からずおろおろした。


「寝てたのに、そんなこと言われたって全然よくないよ!」


 シェレンはクスクス笑いながらジーンとは逆の方向に歩いて行った。

 部屋に残された幸はミクのおでこをぺちぺち叩いていた。


「……ミクさーん、あんま寝てると夜眠れなくなるよー? あとアマツチ帰ってきてるよー」


 何を言っても起きる気配が無いので、幸は諦めてベットに仰向けに転がった。すると、天蓋付きベットの上の柱に何か白いものが見えた。


 幸はベットの上で立ち上がり、手を伸ばしてみるが届かない。うーんと悩んで、まわりを見た。

 幸は部屋のテーブルをベットに引き寄せ、さらにその上に衣装箱を乗せる。

 乗ってみると結構ぐらついたが、ベットの柱につかまって、なんとか白いものを引き出した。


 白いものはやはり紙で、「王座の裏」と書いてあった。



再会←母子の

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