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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
十章(ファリナ2)
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10-1、国交


 ファリナ城の地下、水竜の巣に沢山の光が灯された。氷柱に無数の青い光が反射され、プリズムのようにキラキラと輝いている。

 水路に繋がる城への扉の前には沢山の兵士が並び、その中央に白髪の王と王宮魔術師が立っていた。


 今日はセダン王が来訪される日だ。

 私もいつもよりおめかししてもらって、水竜の巣の入口にいるジーンの隣に立った。


 王の合図と共に水竜が水中から現れ、セダンに繋がる重い扉を開けた。

 最初に扉から見えたのは地竜だった。地竜はファリナに来る気はないのか、巨大で岩のような体躯をゆっくり動かして、会釈をすると後ろに引いた。

 地竜の後からセダン王が現れた。その後をアマツチとアマミクが続く。他にも数名王の護衛がいたが、王の兄や地竜はいなかった。


 アマミクのむき出しの肩や曲線美は、ドレープのついたマントで隠されていた。アマツチもアマミクも、見た目はとても美しいので、見応えがある。

 日頃はアマツチのヘラッと笑う顔や、アマミクの野性味溢れるだらしない姿しか見てこなかったので、公式挨拶用の姿とはギャップがスゴイ。

 三人はファリナ王の前まで厳かに進んで一礼した。セダン王が一歩前に出て、手を胸に当ててファリナ王に挨拶をする。


「長らくご無沙汰しておりました……」


 ファリナ王はゆっくりと頷く。

 

「こちらこそ、エレノアの件では心労をかけたな。はるばる北の地までようこそおいでくださった」


 ファリナ王はくるりと方向を代えて客人に道を開けた。


「積もる話は後でしよう、とりあえずゆっくりしていってくれ」

「ありがとうございます」


 セダン王は胸の前で手を合わせ、深く目を閉じて礼をした。


 ファリナ王が魔術師団を引き連れて去っていくのを見ていると、私の頭にずしんと重いものが覆い被さった。肩にのし掛かる双丘、これは……。


「アマミク!」

「ハァイ、コウ、久しぶり、会いたかった」


 ミクは私の頬に顔を押し付けて、ミクさんなりにふんわりと抱きしめた。


「……んー、ミクさん重い重い」


 怪力アマミクの気まぐれで怪我をするのは勘弁なので、身をよじって逃げる。すると隣の人にぶつかった。

 私は反射的に「ごめんなさい」と謝る。ぶつかった相手は「お久しぶり」と言って笑った。


「アマツチ! いらっしゃい」


 驚く私を、アマツチはきゅっ、と抱きしめた。


「……ああ、お子さまぬくい」

「子どもじゃないし!」


 私は久々に会う二人にもみくちゃにされた。

 その様子をジーンが遠巻きに見ていた。



 セダンご一行は暫く滞在すると言うので、ミクは私の部屋に、王とアマツチは客部屋に割り当てられた。

 ミクは部屋に入ってすぐに、着ていた服を脱ぎだした。

 訪問用に着せられたらしい上着をぽいぽいと床に投げ捨てるので、私は拾ってハンガーにかける。

 さっきまではお姫さまなミクさんだったのに、殻を脱ぎ捨てたらいつもの肩剥き出しのセクシーミクさんに戻っていた。


 ……この氷の城でその姿は刺激が強い。


 私が苦笑して見ていたら、ミクと目が合った。

 ミクがうすら笑いをうかべながらすすっと寄ってくる。私はなんだか嫌な予感がして、身構えた。

 ミクは私にのし掛かる。


「コウさーん、こっちきて随分経つけど、あいつとはどこまで行ったの?」

「えーっとね、南西の村と、また自治区に行ったよ! 村は雪がすごかった!」


 私が笑顔で答えると、アマミクはチッチッと人差し指を振った。


「そーゆー意味じゃないの、アレでしよ、アレ!」

「アレとは?」


 私はからかわれる気配を感じて後ろに逃げた。逃げる私を、ミクは楽しげに追い回す。

 ミクは壁まで私を追い詰めた。


「あの黒いのとキスくらいしたの? と聞いているのよ」

「あ、はい、しました」


 ミクさんの顔が近すぎるので、ピアスを開けた時を思い出して妙に緊張する。


「したの? したのね、そう、それで?」

「それでとは?」


 ミクは私の頬をぷにぷにと揉みほぐした。


「まさかとっくにやられてるってことはないわよね、コウはまだお子様よね?」

「やられるって何? キスの話をしていたのよね?」

「キスくらい私とだってしてるじゃない、違うのもっと先の話よ」

「先?」


 私が首を傾げるのを見て、ミクは方向転換をしてニヤリと笑った。


「これからだった、セーフ」


 ……いやこれ、エッチな話だ。信とそうゆーことをしたかという確認だな。


「ミクさん? ジーンさんは竜の体なのよ、性別無いのよ? なんかあったりするはずないの……」

「えええ……そんなのつまんない、チェンジで!」

「変えないよ、いいの、ずっと今のままで!」


 私が怒って言うと、ミクは腕を組んで考え出した。


「竜って、本当に性別が無いの?」

「……はい?」

「だって、白竜ってとても女性的だったじゃない、寒気がするレベルの女に見えた。黒竜も成体は男らしかったじゃない」

「アレクはカッコイイけどね……多分性別無い」

「アイツは? 緑の魔女は?」

「フレイは幽霊だから、そもそも体が無いし……」


 ……竜の体に入った時も、お手洗い行かないしお風呂にも入らないんだから、性別とか分かるはずも無い。


  私が困って笑うと、アマミクは私の両頬を手で挟んで顔を近付けた。

 

「ちゃんと黒いのが男かどうか確かめなさい! そして私に報告しなさい!」

「そんな恥ずかしいこと聞けないよ!」


 私が必死に言うと、ミクは方向を代えてドアを開けた。


「ちょっと、アイツが男かどうか聞いてくる……」

「やめてミク、聞かなくていいから!」


 私を引きずりながらミクが扉を開けると、扉の外にはセダン王とアマツチが立っていた。

 今の会話が聞こえていたのか、王は肩を丸めて笑っている。アマツチも憐れみを含んだ眼差しで私に言った。


「竜は、性別無いよ」

「えー」


 不満げな顔をするミクに、私も言う。


「そうだよ、緑の魔女って、ご飯たべないしトイレにもいかなかったよ」

「地竜もだよ、竜は食べないからね」


 セダン王の言葉に頷きながら、アマミクはこめかみを押さえてうーんとうなる。


「……森の魔女ってどーみても女だったんだけどなー。性別ないとか知らなかった。アンタよっぽどの物好きだったのね」

「ひとつお利口になってよかったなぁ」


 アマツチはミクの頭をポンポン叩く。ミクは髪を燃やして無言で反撃した。


「あっつ! 室内で火をつけるなよ」

「無礼者をたしなめただけよ! それだけですんで感謝しなさい」

「やめて! ミクが怒ると火事になるから、アマツチも引いて!」


 止めるとミクが私にからみついて来た。私は抵抗せず、少しずつアマツチとアマミクの距離を離して喧嘩をしないようにする。

 王は二人のやり取りを見て、壁に手をついて笑いを堪えていた。


「ねえコウちゃん、食堂ってどこか分かるかい?」

「あ、はい。こっちです」


 護衛を含めたセダン一行は、ファリナの西洋風な廊下を並んで歩いた。セダンからの客だと知っているのか、門番やメイドさんも脇に寄って道を開ける。


 ……知らなかった。ファリナってこんなにかしこまったお城なんだ。


 王はこの状況に慣れているようで、道すがら私に話しかけた。


「ここの皆さんは良くしてくれるかい? なんだか痩せているように見えるが」

「最近ちょっと寝込んでいたからかもしれません、でも最近いっぱい食べさせられているので、すぐに太ると思いますよ」


 私が力なく笑う様子を、セダン王が心配そうに見ていた。


「大丈夫ですよ、皆さんとにかくお優しいです。とくにメイド長さんがお母さんみたいに色々教えてくれます」

「そう、それはよかった」


 王もアマツチも、きっちりとしたセダンの正装を着ているのに、アマミクは砂漠でお馴染みの、深いスリットの入った背中の開いたドレスだ。

 腕と肩、背中と片方の足がむき出しのドレスで食事とか、大丈夫なのだろうか? ザヴィアさんに怒られないだろうか?


「……あの、会食に行かれるのにミクさんはあの格好で平気なのでしょうか?」

「猿だっていえば許して貰えるよ。あの姿は彼女にとっては毛皮みたいなもんだし」

「なによ?」


 そう言って笑うアマツチに、アマミクは拳骨を落とした。

 

「ミクは私と一緒にお部屋で食べる?」


 私がミクに聞くと、王はミクに笑いかけた。


「エレノアがいた城だ、これしきのことで驚かないだろう。三の姫も紹介したいからね、是非ご一緒に」

「……あら」


 そう言って王はミクに手を差し出すので、ミクはその手をとって歩き出した。


「私、上着だけでも借りてきますね。食堂はその階段あがってすぐですから、階段の上にいる兵士さんに聞いてください」


 私はハノイの所に走って行った。



 私が薄手の上着を借りて戻ると、通路に三人の姿は見えなかった。

 兵士に服を届けに来た事を言って、会場に入れてもらう。

 会食の場には、ファリナ王とアーヴィン殿下、ザヴィアさん、あとはセダンから来た三人が席についていて、護衛は入り口に立っていた。

 私はアマミクの後ろに行って上着を羽織らせた。

 肩をふんわり隠すだけの上着だったけど、生地が上質だったので、普段のチャイナドレスっぽいミクの衣装に良く似合った。


「ミクさん美人さんだよ、背筋はのばしてね」


 立ち去る前にミクに耳打ちすると、ミクは私のスカートをつかんで離してくれなくなった。


「やだここ、怖い……」


 ミクさん久々に人見知り発動。

 ぷるぷる震えるミクを置いていく訳もいかず困っていると、ファリナ王が私も席に座れと言った。

 私は恐縮しつつもミクの隣に席を作って貰った。


 ファリナ城の食堂には、クロスのかかった長机に、最奥のファリナ王から、左側をファリナ陣が、右側をセダン陣が並んでいた。

 セダン王はファリナ王を怖いと言っていたけど、そんな気配はおくびも見せずに談笑している。セダン王は常時笑顔の穏和な方なので、会食は和やかに進んだ。

 お互いの国の現状や、アマツチのアスラ報告など、会話は主に世界の情勢だった。


 私はミクのパンにバターを塗ったり、食器の使い方を教えたり、砂漠育ちのアマミクのお世話係に徹する。アマミクは初めての北国の料理を喜んでくれた。


 アーヴインがボーっとそのふたりを見ていたら、セダン王が会話を振った。


「そういえば、アーヴイン殿下にはアマツチとコウがお世話になったようで……」


 それを聞いた殿下の動きが止まり、アマツチは水を吹いた。

 ファリナ王は知らなかったようで、息子に説明を求めた。親から話を振られた殿下はしぶしぶ話し出した。


「……妹捜索の折りに聖地自治区に赴いたら、そこにこの二名がいたので、水竜の再生を協力して頂きました。一の王には大変お世話になり、この場を借りてお礼を申し上げます」


 ……殿下、うまくきりぬけたー!


 私は心のなかで拍手を送った。

 アマツチも顔に笑顔を貼り付けて答える。


「こちらこそ迷子のコウを助けて頂いたり、コウの無茶ぶりに兵士を貸して下さって助かりました。その節はありがとうございました」


 ……あれ? なんか全部私のせいになってないかな? 間違ってはいないけど、これはかなり気まずい。


「す、すみません、セシ……前任の水竜が死ぬときいて気が焦ってしまい、皆様にご迷惑をおかけしました」


 私が平謝りしたら、ファリナ王が軽く手を上げた。


「いや、水竜の最期に付き合ってくれてこちらからも礼を言うよ。お前がいなかったらあいつ一人で寂しく逝かさせてしまっていた。ワシが行くべきだったというに……」

「いえ、あの、セシルも最期の姿を王に見られたく無いと言っていました、あの……、あのこは、ホントに最期まで……王の事だけを思っ……」


 涙で胸がつまって、全部は言えなかった。顔を手で覆う私を、ミクが支えて引き寄せた。

 私はミクになだめられながらしばらく泣いていた。

 セダン王はミクと私を順に見て言う。


「この娘は竜に愛されているようですね。家でも黒竜と水竜がいつもひっついておりました。また、私の妹も魔物に愛されていたのです。よく魔物の出る森に行って一日中遊んでいましたからね」

「へぇ……」


 ファリナ王が初耳だと相づちを打った。


「こういった、伝播の力を持つ女性と我々は縁があるようですね」


 そう言って、セダン王はワインを飲んでニッコリ笑った。


「そうそう、アマツチは面白いのですよ、いつも光を持ち歩いていて……」


 セダン王のふった、伝説の王の話に王宮魔術師が興味を示した。


「お二方とも、一見丸腰に見えますが、今その宝具をお持ちなのでしょうか?」

「これですね」


 アマツチは手のひらの上に丸い光を浮かばせて上に投げる。光球はアマツチの指示に従って、天井をふわふわと漂っていた。


「基本的に単なる灯りなのですが、攻撃も出来ます」


 アマツチが手を下げると、光の球は急降下し、テーブルの上の花にとりついて、花を消失させた。

 ザヴィアは感心して、茎だけになった花を手に取った。


「はぁ……物凄い火力ですね、触れたものが一瞬で消滅しました。詠唱せずともよいとは……」

「なんなんでしょね、これ、使っていて何ですが良く知らないのですよ」


 アマツチは苦笑して光を消した。


「……遡源の光です。本来は槍の形をしています、全ての生命の源で、終わりの光でもあります。唯一、竜を外から滅することができる力の強いものです」


 不思議とこういった知識はあたりまえのように知っている。おそらくフレイの記憶なのだろう。

 アマツチは自分の手を見た。


「知らなかった」

「私の剣はなんなの?」


 ミクは私に寄りかかって聞いた。


「えっと、大地の力を有する炎で、燃える以外は特にないかな……?」

「私の剣じゃ火竜を殺せないのね? それ、最初に言ってよ、火竜と無駄に戦っちやったわ」

「もふもふが最初に言ってたよね、それ……」


 ファリナ王が聞いた。


「剣とは? 今何も持っておらぬが」


 ミクは王を見て、席を立った。

 そのまま部屋の比較的何もない空間に行く。


「私の剣は結構危険なのよ……」


 そう言って、上着を剥ぎ取って私に放る。

 ミクの赤髪が一瞬燃え上がり、背中から大きな剣を出した。煌々と燃え上がる炎で室内の気温が一気に上がる。

 巨大な焼けた鉄の塊なのに、アマミクは棒でも扱うかのように軽々と剣を操った。

 おお……と、王と魔術師は驚きの声をあげた。


「歩く凶器」


 アマツチがボソッと呟く。

 ミクはさっと背中に剣を仕舞って、跳ねるように軽い足取りで席に戻る。


「室内で出すのは怖いわ……」


 私は座ったミクに上着を掛けると、ミクはポニーテールをふわりとかきあげて、照れ隠しに笑う。


「ありがと、あの剣だすと服燃えちゃうのよ。だから背中は常に空けてたいの」

「そうなんだ、初耳……あ、でも出さないでいいよ。危ないから」


 子どもの率直な言い方に、一同クスリと笑った。

 ファリナ王は珍しいものを見たと感心する。


「常々ザヴィアから人外扱いされていたが、上には上がいるものだなぁ……」


 ファリナ王が人の力を超えていることはアーヴィン殿下から聞いていたが、ザヴィアさんからも言われていたらしい。しかもつねづね、頻繁に言われていたらしい。

 私は座る面々を見た。するとセダン王がファリナ王に告げる。


「実際三の姫には、先日アスラからの魔物を殲滅して頂きました。戦場ではとても有用な力ですね」

「平和な時には役に立たないけどね」


 アマツチのいいように、ミクはドンと机を叩く。


「生活にも便利よ、お肉も焼けるわ!」


 その言いようにアマツチは苦笑した。


「……宝具を調理に使うんですね、姫は」

「砂漠で散々お世話になりました。便利ですよ。砂漠の夜は冷えるので、その剣が無いと旅が出来なかったくらいです。ミクさん以外が触れると消し炭になるのが玉に傷ですが、改めてありがとう」


 私がミクに向かってお礼を言うので、ミクは照れて私の頭を撫で回した。


「実際、この火力を戦争に用いられるとなすすべがないですね、恐ろしい力です」


 ザヴィアが真面目な顔をして言うので、ミクはフン、とそっぽを向いた。


「べーつに、人間燃やしたりはしないし……」

「魔物用なんだよね、アスラは魔物多いから、ミクくらい強くないと守れないからだね」


 ふてくされるミクをなだめつつ、私はそれに説明を加えた。


「大丈夫ですよ。この二人にファリナの四の王は対抗できます。彼女は場を和ませる天才ですし、メグミクの宝具を四の王が用いれば、二人を制御することも、補助して増強させることも出来ます。まあ、どちらかの協力が必用になりますが……」

「なにそれ? ワタシを押さえるのに、メグかアイツの助力をするの? なんかムカつくわね」

「ミクさん、そーゆーことが出来るよ。ってのと、やるよ。ってのは違うから。とりあえずアマツチとケンカするのやめなよ……それが心配で、四の王はこーゆー能力にしたんだろうし」

「喧嘩なんてしたことがないわ」

「……えっ」


 アマツチは信じられないとアマミクを凝視する。


「私が喧嘩をしたとき、相手は焼け焦げるもの、アイツどこも焦げてないじゃん、それは喧嘩とは言わないのよ、コウ」

「それはアマツチが頑丈だからでしょ、魔女の森で再会したときに、地面に叩きつけたの見てたからね」

「記憶に無いわ」


 ……そんなんだから、カウズに脳筋って言われるんだよ!


 私が言葉を返せずに、口をパクパクさせていると、ファリナ王が盛大に笑った。


「ハハハ……、いや、失礼。他国の王が協力的でないと意味のないものなのだな、ファリナの宝具は」

「四の王は自ら宝具を発案しました。それは協調あって、初めて効力をだすものです。和を尊んだ四の王ならではですね」

「まあ、今いないのだかな、四の王……」


 ファリナ王の言葉にザヴィアが答えた。


「……誠に残念です、力及ばず申し訳ない」

「ザヴィアの責任ではないさ、神の采配だろう」

「……はぁぁ」


 魔術師は床をじっと見て、これみよがしにため息をついた。


 私はそれを聞いて思う。

 四人の王に欠けがあるせいで、レーンは世界の破壊を実行出来ないようだ。

 先日の襲撃で、レーンがファリナから結晶を持ち帰っていたら、今既にこの世界は無くなっていたことだろう。

 もしファリナに四の王がいたら、私がこの世界にたどり着く前に、レーンによってこの世界は消えていたかもしれない。


 私は四の王の空席が、サーやフレイの采配のように思えた。


 ……レーンによる滅びを一時停止しているこの猶予を、私達はどう使えばいいんだろう。


 私はするべきことが何も思い浮かばなくて、ひとりそっとため息をついた。



 数年ぶりのファリナとセダンの会食はなごやかに終わった。

 会はお開きになり、一同が退室するので、私もアマミクに付き添う形で部屋を出ると、ジーンがフードを被って立っているのが見えた。


 私は一行から抜けて、ジーンに駆け寄る。

 すると、私の背後から三の姫が飛び出て、ジーンの肩に腕を回して拘束した。


「ミ、ミクさん? その人は敵じゃないのよ?」


 慌てる私を余所目にミクはジーンをひょいと抱えあげた。


「ファリナ王、この竜お借りしますね」


 王はオッケーと笑って許可を出すが、隣に並ぶザヴィアさんがうろたえていて、その対比が面白い。

 アマミクは満面の笑顔でファリナ王に手を振って、ジーンを肩に担いで歩き出した。


 その後ろをおろおろとしながら追い掛ける私を、アマツチが「御愁傷様」と言って付いてきた。

 置いていかれたセダン王は、護衛に囲まれて、クスクスと笑った。

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