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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
九章(ファリナ)
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9-19、塔の上で

 

 私は塔の中腹の階段に、あたたかい格好をして座っていた。

 月はとっくに顔をあらわにしていて、天高く輝いている。

 私は手袋を外して、ピアスもとった。そのまま心のなかでママが好きだった英語の曲を歌っていた。



 セレムの力か、ファリナの寒波は緩んだが、それでもファリナは寒い。

 私は冷えすぎないように持ってきた水筒のお茶を飲む。

 水筒は日本製なので中身はアツアツのままだった。フーフー冷ましながらお茶を飲むと、眠りかけていた意識がシャキッとした。

 暫くお茶を飲みつつくつろいでるいると、階段を登る足音が聞こえてくる。私は踊り場の樽の陰に隠れて目をつむった。

 頭をコツコツとつつかれて目を開ける。するとジーンが呆れた顔をして私を見ていた。


「水竜が、歌うな外すなって、わめいていたぞ」

「ごめんなさい」


 私はピアスを装着した。

 私は隅に置いてある樽に腰かけて聞く。


「お仕事の邪魔だった?」

「もう王は寝たよ」


 ……じゃあお仕事はおしまいだね、君と一緒にいても怒られない。


 そう思うと、なんだか嬉しくて顔が緩む。気持ちがふわふわする。

 弾んだ気持ちのまま、子どものように足を揺らしていると、ジーンはフードを被っている私の頭を撫でた。


「頭撫でられるのは不本意、子ども扱いされている気がする」

「実際そうだから、幸はこの世界では一番見かけが幼いよ」

「……なんてことを!」


 書庫の人から言われるなら分かるけど、中身が中学生の信に言われるのは不本意だ。

 私は書庫にいたジーンを思い出しながらひとり呟く。


「まったく……一人だけ先に大人になっちゃってずるいよね、一緒に年をとっていく筈だったのに、大人になって現れるとかさー。本当にビックリするよ。忘れられないもん。いつも頭をよぎるし……」


 頭をよぎるのはアレだ。書庫のキス。思い出すと頭がゆで上がるヤツ。

 火照った頬を手であおぐと、ジーンに呆れられた。


「何がそんなに忘れられないの? 俺、そんな事したっけ?」

「……あ」


 ……しまった、書庫でのキスは信に言ったらいけないことだった。


「未来の話。約束したから今の君には教えない」

「……そう」


 ジーンの顔がいやに近いと思ったら、ジーンは私のピアスに手をかけた。伝播避けピアスを取られると思った私は、とっさにフードを被り耳を隠す。


「恥ずかしいからやだ! 単に君が色んな姿で現れるから私は大変だというだけだよ。日本の信と、No.7の信ね、あとシスターの二十才の信は驚愕! すごいよ。車とか運転出来るんだよ!」

「便利だからね、機会があれば取ると思う」


 それは、向こうに帰ったらの話だ。途切れた未来の話……。

 もしかして、私がここに残ることを選んだから、書庫のジーンさんはもういないのかもしれない。

 そう思うと、自分の選択で正しいのか不安になる。


 ……信の体を諦めるのはまだ早い気がする。機会があればサーラジーンに聞いてみよう。


 私はひとりウンウンと頷く。


「あとね、レーンの中にも君がいるの。レーンはよく泣くからね、なんかかわいくて困る……」


 ……今思い返すと、ベッドでレーンにキスされたり、私からしたりしたなぁ。まあ、あんなのおまじないみたいなものだよね。


 セーフなやつ。と、結論付けて顔を上げると、ジーンが呆れ顔で私を見ていた。


「先日体を共有したから少しは思いだせるんだけど、レーンと幸は本当に仲がいいね」

「えっ? 仲良くはないよ?」

「ベッドで抱き合うとか、子どもじゃないんだからやめなさいよ……」

「それはレーンが泣くからだよ、信の姿で泣かれると放って置けないから……」


 ジーンはため息をついて私の頭を撫でた。


「幸とこの世界の住人との間には子どもは出来ないけど、羽間信だけはその可能性があるからね。逃げろと言ったのはそのせいもあるよ」

「そんな感じじゃなかった! レーンはただ泣いてただけだもの! あれはそーゆー行為とは関係がありません!」

「……言い切った」


 やましいことは無し。と、胸を張ってジーンを見ると、信がいつもするように目をそらした。

 ここにいるのは間違いなく信だ、レーンじゃない。私の好きな人だ。そして今日は大切な日なのだ。

 私は回り込んでジーンの顔を覗いた。


「……何か話がありそうだね、何?」

「あのね、セレムが大きくなって、ちゃんと契約したでしょ? だから私、お役ごめんになったの」

「そうだね。おかげで衰退するだけだったファリナに希望が見えた。ありがとう、幸」


 お礼を言われると頬が緩む。その緩んだ顔にジーンが手を添えるので、キスかな? と思い目を閉じると、頬をギュッとつままれた。


「……なんで?」

「血を流したのはダメ。あれだけ血を使うなと言ったのに、幸はお願いを平気で無視する」

「ひぇ……あ、あそこでセレムいなかったら、みんな焼け焦げて死んでいるもの、呼ぶしか無かったでしょう?」

「呼ぶのはしょうがないとして、セレムを進化させるほど血を流したのもダメ」

「あわわ……」


 ……早くセレムに成体になって欲しかった。あと腕輪の使い道を思い付いちゃったから。


 私は反論したかったが、ますます怒られそうな内容だったので、床を這ってジーンから逃げる。

 このままジーンに怒られていると、本題が切り出せないので、深呼吸して気持ちを落ち着けた。

 しかし、真剣な話を切り出すために気を引き締めようにも、顔が勝手ににやけてしまう。

 ジーンは座ったまま、私の様子をじっと見ていた。


「今日は偉くご機嫌だな、何かあった?」

「フフフ……暦違うからちゃんとはわからないのだけど、私はひとつ歳をとったのです」

「十六才?」


 そう、十六才。日本なら結婚できる年齢なのです。もうわたし、子どもじゃない。


「誕生日おめでとう、幸……」

「ふふっ、ありがとう」


 私はジーンの前に膝を付いて、両手を揃えて深々と頭を下げた。


「昼間にね、王にこれからどうするか聞かれて、ジーンさんの側にいるって言っちゃった、だからこれからもよろしくお願いします」

「うわ……なんかそれ、嫁に来るみたいであせるな……」

「嫁でいいんです。病めるときも健やかなる時も君をつけ回すことを誓います……」

「ストーキング宣言……」


 ……なんでそんな物騒なワードが出てきたの? 今の私たちの関係って、私が信をつけ回しているってこと?


 若干引きぎみなジーンに、私は頬を膨らませて不満顔を向ける。


「だってもう帰らないんだから、ずっと一緒にいていいのよ? 王だってジーンの嫁扱いでいいっていったもの」

「ファリナ王がそんなことを?」

「今日から十六才なので許されるのです」


 私はえへんと胸を張った。


「何が許されるって?」

「結婚です!」

「それ、意味分かって言ってる?」

「分かってます、ハノイさんに聞いたので、多分」

「多分……」


 ジーンは困った顔で笑うので、私はその顔をじーっと見た。


「また鼻で笑う……この世界に住むんだから、そーゆーことは考えなくていいと思うのよ、だって君は竜の体だからね、性別無いでしょ」


 私たちがこれから考えないといけないのは、今後の住みかや守護竜は年を取らないっていう点なだけの筈。

 私は困り顔のジーンの腕を引いて、その腕に巻き付いた。


「南西の村で、私の体の成長が緩やかになっていると言われた時はショックだったけど、不老不死の君と過ごしていくならアリだと思うようになったの、人より長く君と一緒にいられるからね、ひとまず君の外見の年齢に近付くのを目標にしよう」

「……いや、幸は帰らないとダメだよ」

「信のいない世界に帰っても意味がないのよ、だから帰るときは一緒って決まっているの、私がそう決めたの」


 そうでしょ? と、グリグリと頭をジーンの腕に押し付ける。ジーンは「よしなさい」と言い、私が巻き付いている腕を引き抜いた。


 ……うーん、おかしい、なんか変。ものすごく引かれている気がする。

 ここは子どもではない事をアピールして、私の良い所を知って貰わねば?


「私はね、君にもサーにも出来ない事が出来るのよ」

「……何?」

「私は、私の血を増やすことが出来ます!」


 どうだ! と胸を張ったら、ジーンのため息はさらに大きくなった。


「……おそらくだけどね、幸はこの世界に長くは滞在出来ないよ」

「えっ?」

「この世界に幸が与えるモノは多いけど、人は摂取したぶんしか排出出来ないんだよ」

「……私にも分かるように言って?」

「えーっとね……この世界の生き物が持つ魔力は少ないから、この世界の食料では幸の健康を保てないと思う……おそらくだけど」

「私、ご飯いっぱい食べさせられているよ?」

「そうだね、でも幸の体重は殆ど増えていない、この辺疑問に持たなかった?」


 体重が増えてないとか、私でさえ知らないことを何で知ってるの? もしかして、世界樹の情報に載ってるの?

 

「その辺はデリケートな問題なので、その身体で分析出来てもスルーして欲しいんだけど……な」

「ダメ、大事な話だから目をそらさないで」

「むぅ、レーンの世界消滅を回避出来た、それからみんなしあわせに暮らしましたでいいじゃん」

「よくないからね」


 ……おかしい、誕生日おめでとうの流れで嫁と認めさせる計画だったのに、失敗して、しかも説教をされている。


 何故だ? と首を傾げていたら、ジーンに笑われた。


「まあいいよ、側にいるなら幸の体調に気を付けて、なるべく多くのモノを食べさせるから」

「それ既にハノイさんにくらってるから、お腹パンパンになるからね、もっと別の方向で健康管理して?」

「運動するとか? 過度に動くと逆に魔力を消費するから難しいな」


 頭を悩ませるジーンに、隙ありと寄り掛かった。


「私はね、君が側にいると元気になるから、君がすることはそれでいい、側にいてくれたらいいの」


 くっついているだけでしあわせな気持ちになれるんだから、なんてお手軽。私はこれでいいのだ。

 普段会えない分、私はここぞとばかりジーンの腕にしがみついた。


「そういえば誕生日プレゼントとかないな。欲しいものとかあれば自治区で買えるけど、何かある?」

「ティッシュペーパーとトイレットペーパーが欲しい……」

「この世界に無いものはムリだ」

「冗談だよ?」


 ジーンが困った顔をするのを見て、私は立ち上がりジーンの頬にキスをする。


「じゃあこれでいい、おめでとうのキスで終わり」

「コウからするのでいいの?」

「うん」


 一件落着したのでまた巻き付こうと、ジーンの腕を触っていたら、グイッと顔をつかまれた。


 ……あ、顔が近い。


 とっさに封印のピアスを手でガードしたら笑われた。ピアスは無関係らしい。ではなんだろう? と、ジーンの顔を見た時にはキスをされていた。

 ただ口が触れているだけなのに、心が溶けるような感じになるのは何故なのだろう?

 頭が痺れるような感覚に溺れて、顔が離れてもしばらく動悸が止まらなかった。


「キスは好き……気持ちいいよね……」


 それを聞いたジーンは何故か、眉間に手をあてて落ち込んだ。


「あっ、ごめんね、竜の体だからしないって言ってたよね、それでいいよ、無くてもいい、ゼンゼン、別に……」

「本当にな、何でこの体なんだろうな……」


 ジーンは苦笑して手を広げるので、私はジーンに抱きついた。

 腕より体の方がギュッってするのが心地よいなぁ。と、しみじみ思っていたら、ペシリと頭をはたかれる。理不尽。


「幸さんがエロいことを言うから心配事が増える……レーンは事ある毎に幸に手を出すし、幸自身もこんなんだしどーしたらいいのか……」

「こんなこと信としかしないからね!」


 キスの話をしただけでそんなことを言われるのは心外だ。

 真っ赤になってジーンをにらんでいると、ジーンは信のように優しい顔で笑った。


「……十六才、おめでとう」


 そうして二人はもう一度キスをした。

 窓の外には銀の水を湛えた月が輝き、夜を銀色に染めていた。



◇◇


 浄化の塔の中腹で、俺は幸と話をしていた。

 城内は外よりはいくぶん暖かいが、それでもじっとしているのは寒い。

 幸とキスをするついでに、俺は幸が冷えすぎないように、体温維持の魔法をかけていた事は、多分気付かれていない。


 体が離れると、幸は上気した頬を冷ますように、頬をペチペチとはたいた。


「そういば王は君に給料払ってないって言ってた」

「守護竜に給料を払う王はいないよ」

「なんで? 竜って、お金つかわないの?」

「うん、食べない寝ない老廃物出ないなので、服さえあればなんとかなる。自治区で活動してるとなんか金貯まるけど、使い道はあまりないな」

「もしかして君は寝てないの? 服もその体は作れる筈だよ?」

「いやぁ、無理だろう……服は着るものと決まっています」

「せっかくのファンタジー世界なのに、常識が枷になってるねぇ、君は……」


 それは常々思っていた。

 もしこの体をレーンが使えたら、レーンは守護竜の力を存分に使うだろう。

 魔法が使えないはずの俺の体で好き勝手出来るのだから、この体にレーンが入るとかなり怖いことになると見た。


「この体……入ったときは指さえも動かなかったし、なんのマニュアルもないので、使い方がわからないんだ……各地の竜みたいに特殊能力とかがあるのだろうか?」

「そいえば、体に入ったフレイも特に何も出来なかったよ。ほぼ人間だった」


 ……やはり、中身で変わるらしい。


 俺は自分の常識を煩わしく思い、フッと自嘲した。すると頭を撫でられて、じっと顔を見つめられる。

 幸は至極真面目な顔で俺の瞳を覗いた。


「……寝てないの?」


 俺は頷く。

 魔力切れで倒れた時以外は眠った記憶はない。この体は睡眠を求めない。そして、眠る勇気が無い。


「皆、お仕事無いとき寝るのよ?」

「寝たら、もう二度と目を醒まさない気がするからね」

「死にかけた時の後遺症なのね……」


 幸はふぅ。と息を吐いて目をつむった。

 どうしたのかと頭に触れても、幸の心が全く読めない。制御ピアスをつけていても、頭部に触れれば考えが分かるの筈なのに。


「幸? 寝た?」


 幸がゆっくり目を開けた時、この体がブルッと震えた。

 色白のキメ細やかな肌、まっすぐな黒髪が頬にかかっている。新緑のような瞳の色も、月明かりの下だと夜の森のように落ち着いた色合いに変わって見える。

 大きな目は優しげに細められ、長い睫が頬に影を落としている。


 ……いや世界樹、そんな狂ったように幸を分析しなくてもよかろうに。


 俺はこの体の視界にサーラジーンの干渉を思い、フッと自嘲した。



 銀色の月明かりの下、幸は何も言わず微笑んでいた。


「……フレイ?」


 女はゆっくり頷いた。

 所作が違うせいか、幸が大人びて見える。思わず幸のデータを確認したが、体は全く変わりがない。

 そのフレイの手が伸びて、俺の髪をそっと撫でた。


「眠れないのね?」


 フレイが微笑んで、コツンと額に額を寄せる。フレイから伝わるものは、小さな子どもを慈しむような、穏やかな気持ちだった。

 フレイは俺の頭を引き寄せて、そっと膝に押し付けた。


「目をつむって?」


 フレイは俺の髪を撫で続ける。

 この体は普段はとても鈍いのに、撫でられて心地よいと思うのが不思議だ。

 俺は幸のやわらかな体温を感じて目を閉じた。


 ……ずっと昔に、こんなことがあった気がする。あれはいつだったのか……白いシーツ、窓から入る日射し、髪を撫でる優しい手……消毒薬のにおい……ああ、母だ……。


 俺は、幼い頃に死んでしまった母を思い出した。


「その体を動かしてくれてありがとう」

「…………」

「貴方には本当に迷惑をかけているわね……。貴方には何の責任も無いのに、過酷な現実を受け入れて、最善を選択するその姿には本当に助けられているわ」


 俺は目を開けて、その女の瞳を見た。

 身体は幸と同じ筈なのに、緩く微笑むような穏やかな表情と、ゆっくりとした動きから、幸とは別人格だと分かる。この幸を子どもだと認識する人は少ないだろう。


「レーンは幸がこの世界の生け贄になると思っています。幸は向こうに帰れますか?」


 フレイはゆっくり頷いて、俺の頭をそっと撫でた。

 

「もちろん貴方も、ちゃんと帰しますよ」

「そんな方法があるのか」


 フレイの手が止まった。


「まあ、あの子次第なのよ? 私たちがこんなに苦労してるのに、あの子ったら泣いてばかりで全然分かってくれないのよ」


 フレイが言うあの子とは、レーンの事だろう。


「貴方が直接会ってあげたら良いのでは? 今のように」


 そう言うと、おでこをペチりと叩かれる。


「会ったら甘やかしちゃうじゃない、あんなに可愛いのだもの、ダメよ」

「俺はいいんですか?」


 ……なんだかレーンに悪い気がする。出来るものなら代わってやりたい。


「頑張った子は誉められるべきなんですよ。さあ、ちゃんと目をつむって?」


 素直に目を閉じると、彼女は小声で歌を歌い出した。エレンママがよく歌う、ミュージカル映画の子守唄だった。


 ……そうだ、この人はエレンママにも似ている。


 その歌を聞いていたら、自然と意識が遠くなった。



◇◇


『……お前ら、何やってんだ?』


 まだ暗い朝の塔を、大きな竜がはい上って来た。

 声を掛けられて目を覚ますと、私の膝に頭を乗せて、ジーンが寝ている。


「えっ、何で?」


 私はあわてるが、起こしてしまいそうだったので、じっとしていた。

 寒い塔で寝ていたようだが、ジーンが体温調節をしていたらしく全く冷えてはいなかった。

 セレムが寝ている男の顔を覗き込んだ。


『こいつが寝てる姿を見たのは初めてだ』

「ずっと寝てないって言ってた、昨日……」


 私はその髪を撫でた。


「セレム、朝のお勤めにジーンさん必要?」

『いらねーよ、守護竜完全体を馬鹿にすんなよ?』

「ふふっ、頼もしい。ファリナをよろしくね」

『おう、まかせろ』


 水竜が消えて暫くしたら、浄化の塔に金色の光が降り注いだ。

 キラキラと漂い天に昇っていく光を見ていると胸が熱くなる。

 私は胸がいっぱいになって、ウフフと笑っていると、膝の上の頭が動いた。


「おはよ」


 挨拶をすると、彼はニ、三度瞬き、気まずそうに起き上がった。


「……ごめん、寝ていた」

「いつもと逆だね、また寝たい時はおいでって、フレイが言ってたよ。むしろ、毎晩部屋においでよ、昔の恩返しになるし」

「毎晩、あの部屋に寝にいけと?」


 ジーンがいぶかしげに眉をひそめるので、私は頷いた。


「す、睡眠の話しだよ?」


 ジーンは顔をひきつらせて笑う。

 

「外聞悪すぎませんかね……それ」

「だって君は守護竜でしょう? セレムだってアレクだって一緒に寝てたし!」

「黒竜は人間の姿だった?」

「うん、かわいいよ」

「……うわぁ」


 ジーンは青年姿のアレクを想像して頭を抱えた。


『NO.7、黒竜は赤子の姿だったぞ、こいつに取り入るために猫とか鳥とか苦労してた』


 螺旋階段の上からセレムが下りてきた。


「セレム、ありがとう、毎日御苦労様」

『おうよ』


 ねぎらいついでにセレムの顔にしがみつく。セレムは私を顔に乗せたまま、階段を下りて行った。

 ずるずると下りて行く水竜の長い体を見ながら、ジーンはつぶやく。


「なんで変身とか出来るんだ……」

『お前の持つ異世界の常識のせいで、竜の体に制限が入るようだな。頑張れよ、裁定者』

「裁定者……」


 ジーンは下りて行く二人の姿を見送って、ため息をついた。


長かった9章は終わりますが、なんということでしょう、10章も11章もファリナです

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