9-18、籠る
レーンによるファリナ襲撃の後、城はあわただしかった。
倒れた人々が元に戻るまで三、四日かかり、その間国政はほぼ停止状態だった。
懸念事項のジーンとレーンの判別は、樹木のマーキング表示に任せる事にした。
そもそも「レーンはNo.7の体には入れないのだから、No.7はジーンということで良い」。そう王が判断して、聖地からジーンゲイルをファリナ城に戻した。
レーンは国中から結晶の抽出をしたと言っていたが、実際の抽出範囲は城の中だけだったようで、城下の人は無事だった。
セダンの救護室のように、広くあたたかい部屋に寝台を置き、倒れた人を並べて寝かせた。
結晶量の少ない者から目を覚まし、翌日には大半の城仕えの者が動けるようになった。しかし、魔術師団と、長のザヴィア、そしてアーヴィン殿下は起き上がるまで五日かかった。
一番ダメージを浮けたのは幸のようで、幸はあれから一月程寝込んでいた。
ジーンは幸の部屋から出て、階段を上がり王の私室に行く。
「どうだった? あの子どもは」
ジーンは王にお茶をついで、部屋の隅に立った。
「意識はあるのですが、起き上がる気力が無いようです」
「まあ、凍った水で泳いだ後の心理戦が本当に酷かったからな……。あれはワシでもこたえる」
王はジーンに向かって肩をすくめた。
「すみません、黒竜の消滅直後に入ったので大体記憶にあります」
「あれは何なのだ? 本当に神なのか?」
ジーンは頷いた。
「彼を神と言うなら、幸もそうなるでしょう。この世界に古くからいる精神体で、今入っている体は異世界の人のものです」
「それはお前の体なんだな?」
「はい」
「ふむ……」
王は茶を飲みながらしばらく考えていた。
「荒唐無稽な話だが、竜のお前が言うのなら誠なのだろな……」
王は飲み終えたカップをカチャリと置いた。
「しかしまあ、お前たちの力で国に水竜が戻って、大地の浄化力が正常に戻った、礼を言う」
王は立ち上がって外を見る。
外は晴れ上がり、屋根から雪解け水がしたたり落ちている。雪で真っ白だった風景も、所々雪がまだらに剥げ落ち大地が顔を出していた。
王はふっと笑う。
「まさか、春が来るとはな……」
「多分、これについては、水竜だけの力ではなく、幸本人から常に魔力提供がされているようです」
「ふむ」
王が振り向いた。
「寝込んでいるのにそれは、大丈夫なのか?」
「多分、問題ないと思います。そもそも怪我でも病気でもないようなので……」
「それはどういう事だ?」
ジーンは言うか言わないか悩んで言った。
「あー、あれです。女性特有の症状みたいです」
「要領をえんな……」
ジーンは口を手で隠していう。
「生理のようです」
「……は?」
「女性が子どもを産む準備をする……体のシステムみたいな、あれです」
王は笑った。
「そこまで詳しく言わんでもわかるわ。むしろ、子どもとそれが結び付かなかっただけだ」
「幸さん、実は姫より年上……十五才……」
「そうだった、それ巣で聞いておったわ。その後の行動が子どもにしか見えないので忘れておった」
「幸さんは、たぶんそろそろ十六才……」
王はそれを聞いて大笑いした。王はひとしきり笑い、それがおさまってから言う。
「これでお前はお役御免と言うわけだが、これからどうする?」
「前は自分の体を探しに行こうと思ってましたが、今では場所も分かりますし、私があの体を取り戻してもどうにもならないことが分かりましたしね」
王は何も入れてない紅茶を一口飲んだ。
「あいつは死体だと言っておったな」
「はい、向こうの世界で死んだと思ってましたから、それは想定内でした。むしろレーンがそれを普通に動かしていることの方が不思議です」
「あいつ、服がころころ変わっとった」
「それですが、彼は時間を操れるのだと思います。過去の私が着ていた服や、触ったものをこっちの世界に取り出せるんじゃないかと」
王はうーんと唸りながら思い出す。
「小さな飛び道具を出してた」
「あれは拳銃といって、私の世界では国を守る兵士が持っているものです。父親が兵士だったので触れたことがあります。あれは過去の私が触ったことのある数少ない武器の一つです」
「……数少ない?」
「そうです、あちらの世界って平和なんですよ。人生で武器を持つことは殆どありません。外敵は天災くらいです。特殊な事情で戦争が無い国でしたからね」
「魔物はおらんのか? 狩りは?」
「魔物はいないし、街で見かけるのは猫や犬や鳥くらいです。なので狩りもしません」
「……それで民が生きていけるのが不思議だ」
「もちろん強力な兵器や爆弾というものもあります。一発で町を壊滅させるものも。しかし私は触ったことがないから、この世界に持ち込まれることはないと思います」
もっと早くに異世界人だと打ち明けていれば異世界を視覚でお見せできましたね、とジーンは笑う。
「レーンの怖い所は、むしろあの命令出来る魔法だと思います。あれは竜さえ自在に操れるし、最悪世界を滅ぼせます」
「対処方法はないのか?」
「基本的に屈しなければ耐えられると思います。ファリナ王に命令魔法を使わなかったのはそのせいでしょう。より確実に防ぐには幸に血を貰うことでしょうね」
「……血?」
「この世界の魔力源のサーの結晶は、どうやら異世界人のサーの体そのもののようです。同様に、幸も、多分私の体も魔力源になります。サーの魔法が赤、レーンが青、幸が緑のようですね」
王はウームと考えた。
「しかし、ちょっと走っただけで死にそうなあの娘の血を貰う気にはならんな……」
それを聞いて、ジーンは微笑む。
「ありがとうございます」
「……ん?」
「もし王が幸を利用するといわれるなら、ここでお別れしようと思っておりました。やはり王は私の見込んだ方です」
ファリナ王は苦虫を噛んだように顔をしかめた。
「お前ら、あんま人に期待するなよ? 無駄に長生きしているだけの老いぼれだからな?」
「あのレーンに対峙できるだけで、稀有な存在ですよ、心のそこから信頼していますよ」
「……うわ、気持ち悪い。そーゆーのはセシル並みの見かけで言ってくれ」
「無茶をいわれますね、無理ですよ。私は変身出来ないので」
ジーンはニッコリと微笑んだ。
◇◇
密閉された部屋に、薄ぼんやりとライトのスクロールが灯されている。
セレムは小さなヘビに変身して、幸の部屋にいた。
幸はここ最近殆ど寝ていたが、時折うなされるので揺り起こして、また寝るを繰り返していた。
幸は現在出血しているとNo.7は言っていたが、特に血が出る様子もない。
そして幸が寝ている部屋は創始のような濃い魔力に満ちていた。セレムは幸の体調不良と同調することを些末な事として、濃い魔力源の中にいるほうを好んで幸の部屋で寝ていた。
セレムが気がつくと、幸はベットの上に座って呆けていた。セレムは飛んでいって、幸の頭をつつく。
『ねぼけてんのか?』
扉を叩く音がしてジーンが部屋に入って来た。ジーンは持っていた水瓶と手拭いを机に置く。
「珍しく起きてますね、具合はどうですか?」
ジーンはセレムの反対側から幸の顔を覗いた。
幸は寝ぼけたまま少しだけ顔を動かして、虚ろな目でジーンを見ていた。しかし幸は何も言わないし、ボーッとしているだけなので、ジーンは手に持っていた水を幸の口元につける。
「幸、水飲んで」
幸は一口飲んで、頭をジーンの肩に預けた。
「信……?」
「はい」
幸はジーンを見て日本語で言う。
「私、信のことすきだよ。だから泣いたらだめ……」
ジーンは驚いて、思わずセレムを見た。
『いや、こっち見られても困るし……』
セレムは居心地の悪さを感じて部屋をあてもなく飛び回った。
『……俺、出ていったほうがいい?』
「いや、ここにいてください、幸さんもう寝てるんで」
セレムは幸を覗いて、幸の隣に着地した。
ジーンは幸をベットに寝かせると、水竜に言う。
「セレムさん、後で自治区に付き合ってもらえますか?」
『もう個別行動はできねーんだけど、お前あそこのこと、王に言った?』
「言いました。再結集しないよう、バラけさせて国に戻せとお命じに。お別れついでに貴方の姿を見て頂きたくて」
『巨竜を盾に脅迫する気か?』
ジーンは苦笑した。
「逆ですよ、今の貴方を見て、ファリナを好きになってもらいたいなーと思いまして」
『お前もコウと同様に甘ちゃんだよなぁ。この姿に惚れる奴は幸と王しかいなかったぜ』
「平和な国で育ちましたので、勘弁してください」
ジーンはそう言って扉を閉めた。
◇◇
根雪が完全に溶ける頃、私は動けるようになった。
ここ一月ほどの記憶はかなりおぼつかない。
セレムの話を聞くと、毎日ジーンが面倒を見に来てくれていたそうだが、残念ながら記憶に無い。そしてお礼を言おうにも、寒さで朝の浄化鑑賞を禁じられているので、まだ何も言えていなかった。
私が動けるようになったことをお祝いしてくれて、ハノイが私に服を縫ってくれた。
今までの膝上スカート+ズボンではなく、ドレスっぽい長めのスカートだ。肩がけっこう開いているが、肩掛けがわりの柔らかい生地のマントもあるので寒くは無かった。
……ここに来て二年くらい経過してるよね? 向こうで言ったら高校生だし、少しは成長したかな?
鏡の前で新しい衣装を着た自分とにらめっこをしてみたが、自分ではあまり違いは分からなかった。
そんな私にハノイが少しだけ紅を差してくれる。
「よし、ちゃんと女っぽくなったよ!」
ハノイが景気付けに私の腰を叩いたので、私はコロコロと床に転がった。
「あっゴメン、病み上がりには強かったね」
「スミマセン、予想以上に体が萎えてました、運動しないとダメですね」
アハハと苦笑する私を、ハノイはギュッと抱きしめた。私はハノイのあたたかさを感じつつ、ハノイに聞く。
「……ハノイさん、実は」
私は自分に性知識が欠けているらしいと打ち明けて、ハノイからざっと結婚から出産までの話を聞いた。
赤ちゃんが出来るような行為は、なんと生理と深く関係しているらしい……キスはあんま関係なかった。
どーりで信に飽きれ顔をされるわけだよ……と、私はため息をつくが、具体的に何をすればいいのか、とまでは理解出来なかった。
……まあ、信のはもちろん、自分のだって見たこと無いからなぁ。保健体育の教科書のお腹の断面図しか頭に浮かばないし、今ここで自分の体を確認する勇気も無い、無理。(その視覚を共有されたら恥ずか死ぬからね!)
私は今得た知識を、ひとまず記憶の棚に押し込めた。
私はハノイと一緒に久々に城の中を歩いた。
前はアーヴィン殿下の側近くらいしか挨拶してくれなかったが、ほかの兵士達からも声を掛けられるようになった。
久々にメイド部屋に行くと、女性達にもみくちゃにされる。
「あらコウ、もう起きて平気なの?」
「あいかわらずちっさいわねーちゃんと食べてる?」
厨房の奥からハノイが出てきて私に言った。
「コウ、王が呼んでいたから、行くついでにこれを持っていって」
「はーい」
小さいお盆に手紙をのせて、私が階段を上がると、踊り場にアーヴィン殿下がいた。私はペコリと会釈して通りすぎようとする。しかし殿下が私の腕をつかんだので、お盆が手から落ちて階段を転がった。
「お前、妙に血色がいいな、まだ熱があるんじゃないのか?」
前に声を封じられていたせいか、無言で首を横に振って否定する。
「はいこれ」
「……あ、ありがとうございます」
下に落ちたお盆と手紙を目の細い従者の人が渡してくれた。
「熱じゃ無いよね、お化粧したんだよね」
「うわ……はい、そうです」
普段してないことを指摘されるとなんとなく気まずい。私は会釈をして、早足でその場を立ち去った。
◇◇
逃げる子どもの後ろ姿を目で追っていた従者がつぶやくように言った。
「気持ち大きくなりましたね、あの子ども」
「いや、わからん、興味がない」
「興味が無い人の容態を気遣うような方では無かったような気がしますが、ここは殿下の成長も喜ぶべきでしょうか?」
「ぬかせ、勝手に喜んでろ」
早足で騎士塔に向かう主人に、従者は素早く間を詰めた。
「殿下はもっと女性に関心を持たないと、妃を迎えた時に苦労しますよ」
「いや、俺は王になりそこねたので、妃を迎える予定は完全に消えた」
「殿下ぁ……王族をやめないでくださいよ、この年で無職に戻るの辛いので」
「自分の心配かよ」
アーヴィンは笑って目の細い従者を小突いた。
「再就職先くらいは見つけてやるから安心して仕事しろ」
「私は殿下が農民になったって付きまとうのやめませんからね!」
「好きにしろ」
振り向かずに手を左右に振る主人の背中を見送りつつ、従者は置いていかれた事に気が付いて主人の後を追った。
◇◇
アーヴィンは、あの日の幸の行動がずっと理解できずにいた。
なぜ彼女が血を流したのか、そして契約者でもないのに水竜を召喚し、メグミクの宝具を完璧に使いこなせたのか、それをずっと考えていた。
親父にそれを聞いたら、「言葉も魔法も彼女が発案したものだからだ」と、何食わぬ顔で言った。
……そして、あの少年が言った言葉
「ファリナ王は一人も子を成さなかった」
その言葉にアーヴィンはずっと頭を悩ませていた。
シェレンが王の血を引いていないのは聞いていた。しかし自分もそうだとは思っていなかった。
……じゃあ、俺の父親は誰なんだよ。
アーヴィンはイラついて、爪をかじった。
◇◇
「失礼します」
私は執務室のドアを叩いて中に入った。ファリナ王はひとり、窓から外を見ていた。
「もう動けるようになったのか?」
「はい、その節は助けて頂いてありがとうございました。何度思い出しても、王がいなかったら切り抜けられなかったと思うのです」
恐縮して言う私の頭に、王は手を置いた。
「こちらも、水竜を呼んでくれて助かった。礼を言う」
「……か、勝手にやったことですのでっ」
レーンがしでかした事にお礼を言われるとは思って無かった。突然感謝されると、レーンが来た日を思い出して涙腺が緩む。
私が涙ぐんでいるのを察したのか、王はメイドに茶を頼んで席についた。私も席を勧められたので座る。
「これからどうするのだ? セダンに戻るのか?」
「いえ、セダンに行く事は考えておりません。セダンは三の姫を連れていっただけなので」
「へぇ、アスラの王はセダンにいるのか」
「今アスラに国はありませんので、三の姫が寂しがらないように、です」
へぇ、と感心して聞いてくれるけど、今言った事が嘘か本当かはセレムに確認して貰えばいいよね。
私は手を揃えて背筋を伸ばした。
「ここでお世話になるのはセレムの成長までという約束だったのに、長居をしてすみません。実は私はジーンさんと、彼の本当の体を探して旅をしていました」
「出会えたようだな、体にも中身にも」
確かに両方に会えた。しかしそれでおしまい。とはいかなかった。
ジーンが懸念していたように、信の体は既に死んでいて、レーンが時間の巻き戻しをしないと使えない状況だ。
……私はこれから、どうしたらいいのだろう?
「……何か心配事が?」
「私はずっと、彼をあっちに返さなければならないと思っていました。彼には帰還を待つ父親も、その他の人も皆待ってくれているので。でも、レーンが彼の体が既に死んでいると言ったのを聞いて、どうすればいいのか分からなくなりました……」
「邪神の言うことを真に受けるのはどうかと思う。あいつ、嘘ばかり言っていたからな」
「でも、信……彼が肩に重症を負っているのは事実なんです。あの怪我は私にはどうにもならなくて」
王はふむ。と、腕を組んで言う。
「水竜がお前の耳を治したようにはならんのか?」
「いえ、現在レーンの側には、双竜と火竜がいます。特に黒竜は怪我の治癒は得意なんです。私も何度も治してもらいました」
アレクは菊子さんの状況でさえ治療した。なのに、信の体を治せないというのなら、それは……。
「……治癒魔法は、死んでいるものは治せないのではないのかと思い至りました」
ファリナ王は重々しく頷いた。
「死者をよみがえらせるには、奇跡が必要だな……」
「奇跡……」
この世界にはサーラジーンが奇跡と呼べる魔法を起こせるが、サーにも出来ない事がある。
それは、失われ枯渇しつつあるサーの結晶を増やす事だ。
サーの本体は寝たきりなので、私のように食べて寝れば回復。と言うわけにはいかないのだ。
サーが全能なのはこの世界の上だけの事だ。日本やイギリスでは効果がない、もしくは魔法を使えても、効果が激減する。それはこの世界の位置関係によるものらしい。
私は下を向いて黙った。そして、手をぎゅっと握って顔を上げる。
「だからもう、レーンの体はすぱっと諦めました。あの体は彼が使えばいいと思うのです。レーンも怒らせなければ悪いことしないし、アスラで火竜と楽しそうにやっていたし、あっちはあっち、こっちはこっちでなんとか生きていこうかと思います。自治区とかで働いたりしてっ! 頑張りますよ」
私はうでまくりをしてふんっ、と息を吐く。王はそれを聞いてぶはっと吹き出した。
「そういえばジーンに給料を与えたことが無かったな。あいつ、物を食わんし。お前の食い扶持くらいは、あいつに側近として給料を払えば何とかなる気がするぞ? あと、水竜奪還の報償金を与えてもいい」
私はぶんぶんと首を振った。
「いえ、いえっ、それには及びませんっ! 只でさえ一月も寝っぱなしだったのですし、自分のことは自分でなんとかっ!」
「律儀なのか、働くのが好きなのかいかんともしがたいが、お前が嫁に行くくらいの間なら養子にしても良いぞ。そしたら大手を振って寝込んでいても構わん」
私は首を横に振った。
「……あの、私がいると、多分レーンが来ます。それでセダンでも沢山の人が怪我をしたし、ここのお城も大変な目に遭いましたよね。あれ、全部私のせいなんです……。私が彼を怒らせたから、構いにくるのです」
「ワシにはそうには見えなかったがな……。邪神は、お前が好きで手にいれようとしているように見えたぞ」
「それは、私の前世のフレイが、彼の母親みたいな感じだからで、彼が求めているのは私ではないと思います」
「……そうかなぁ? まあワシには人の惚れた腫れたは分からんからな、そーゆーのはシェレンとハノイに任せている」
ハノイさんとシェレン姫が恋の話に花を咲かせている様子を思うと、とても微笑ましい。
私は王と目を合わせて、クスッと笑った。
「この世界の竜は全て、サーの命令により活動しています。今は殆ど喋ることの無くなったサーですが、七竜と王の再生の指令とかはサーによるものだと思うのです。実際に私もサーに導かれてこちらにきましたが、サーは゛見守れ゛とか゛レーンを守れ゛とはいいましたが、その他は何も命じませんでした。」
そう、サーラジーンも書庫のジーンさんも私に「世界を再生しろ」とは言ってない。なのに現地に来ると皆が私が世界を再生すると思っている。この違いはどうしたらいいのだろう?
「わたしは、これからこの世界で何をしたらいいのでしょう?」
王はそれを聞いてゲラゲラ笑った。
世界の存続の話なのに笑うのはヒドイ。
「深刻に悩んでいるのですよ?」
「いや、すまん……。神だの魔女だの創造主だとかあいつらがいうからどんなものかと思っていたら、本人は非力で何も出来ないというこの差が酷くてつい笑いが……」
まあ、そうだよね。私だって自分が世界を再生出来るとは思ってないし、はたから見ると滑稽なんだろう。
ファリナ王は笑いをこらえながら私の肩に手を置いた。
「……いいぞ、気に入った。このままここで匿ってやろう。邪神が来たら、ワシと水竜で追い払おう。ここに滞在するに、お前が望む立場をやる。ワシの養子でも、客でも、ジーンの嫁でもすきなのを選べ」
「えっ、竜って結婚できるんですか……?」
王は笑う。
「世間的には無いが、ワシはセシルを嫁扱いしていたからなぁ……。無理も押し通せば通じる気がするぞ。まあ、ジーンがどう言ったものかわからんが」
「嫁だったら、いつも側にいてもいいですか? 会える頻度あがります?」
王は軽く吹き出した。
「仕事をしてない時ならな」
「私、頑張って話してきます!」
私はお礼を言って、部屋を飛び出して行った。王はいつまでもクスクス笑っていた。