表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
九章(ファリナ)
122/185

9-17、戦いの終わり


 扉から現れたレーンは、私を捕まえて抱きしめた。私は泣きわめいてレーンを叩く。


「離してレーン、アレクを返して!」

『あたた、バカ……落ち着け、コウ』


 制服の少年が日本語でそう言って、私を落ち着かせようと、強く抱きしめた。

 二人の後ろから遅れて王と水竜が追ってくる。


「水竜、マイロード……大丈夫ですから攻撃しないで、こっちに氷剣向けないでください……幸が凍える……」


 制服の少年は、私の頭を抱えるように抱いて、その耳に日本語でささやいた。


『俺だ、コウ、ちゃんと見て……』

「……うあぁ」


 私は少年にしがみついたまま、ポロポロと涙を流す。少年は私の頭を胸に押し付けたまま王に説明した。


「先日謁見室で倒れた時に、フレイがこの日の事を伝えてくれたんです。だから聖地でレーンが来るのを待っていました」


 どうやらレーンはファリナに行くときは陸路だったらしい。だからダウンジャケットを着ていたのか。


 ファリナ王は唖然とし、じっと少年を凝視していた。


「もしかして、ジーンか?」

「はい、今表に出ているのはジーンゲイルなのですが、まだ中にレーンも同居してるので、幸を俺から引き剥がしてクダサイ……」


 それを聞いた水竜が、私の服をくわえて引き寄せた。私は尻餅をついて、そのまま床にへたりこんだ。

 そのまま何も出来ずに伏せて泣いていたら、信は気になるようで、話ながら私の頭をポンポンする。


「ファリナ王、私は幸と同じ世界から来た普通の人間でした。でも、ここに来たときに何故か聖地に置いてあった竜の体で目が覚めました。後は王もご存じの通りです」

「守護竜が裸ではぐれてたのも驚いたが、まさか異世界人だったとか、正直信じがたい」


 聖地でNo.7を拾ったファリナ王はうーむと唸った。


「私が竜の体に入ったのと同時期に、ずっとこの世界でくすぶっていたサーラレーンがこの体に入りました。私は私の体に入れますが、レーンは竜の体に入れなく、今の状況になります」

「成る程ね……。で、どうしたらうちの民の結晶を返して貰える?」


 信は「あ」、と言って、手に持っていた結晶を上に掲げた。


「ジーンゲイルの名で命ずる、ファリナの結晶よ、元の体に戻れ」


 信が詠唱したが何も起きなかった。


「……あれ?」


 信は何故魔法が発動しないのかと、手にしているファリナ国民の結晶をまじまじと見る。

 私は鼻をすすりながら言った。


「信の魔法は、信の名前でなければつかえないの……」

「まじか。日本人は魔法を使わないと言うのに。ってゆーか、幸はフレイの名前で魔法を使うのに、理不尽」

「私の魔法は私が使ってるわけじゃないから、名前はなんでもいい……のかもしれない……私とフレイのナンバー同じだし……」


 信は解せぬと首をかしげていたが、コホン、と咳払いをしてもう一度言った。


「羽間信の名で命ずる、結晶よ元の体に戻れ」


 すると信の足元に青い魔方陣が光り、掲げた結晶が弾けて地上に飛んでいった。

 信は頭を抱えて地面に膝をつく。


「……ぐぅ……目眩がする。ただでさえ魔力削ってたのに、一気に減った……」


 王と水竜は洞窟の天井をすり抜けて、空に昇っていく光をじっと見ていた。

 光を見つめながら王が呟く。


「広間の者どもは元に戻ったのだろうか?」

「さあ……? 実際にいかないと、なんともいえません」


 王は、信を上から下までじぃっと見つめた。


「本当にジーンなんだな……、子どもなのに、なんか、苦労性な感じがヤツっぽい」

「判断基準が酷くないですか?」


 信は眉間を揉んでため息をつく。

 話の間中私は地面に突っ伏していたので、信は私に近寄り大丈夫かと肩に手を置いた。


「幸、具合悪い?」


 私は突っ伏したまま首を横に振った。

 

「もう、信とレーンの見分けがつかなくなった……。意地悪してくるのがレーンって事しかわかんない……」


 私はよろよろと水竜の顔にしがみついて立った。信は私に手を伸ばして、優しく微笑んだ。


「取り合えず聖地へ行こう、ここは寒すぎる」

「……えっ?」


 私はキョトンとして、その手を取ろうとするが、水竜は私の服を咥え軽く引いた。


「……やめておけ、アイツがどっちかわからんからな」


 王が信と私の間に割り入って、私の手を払った。

 信の顔をした少年は、ちっと舌打ちをして笑った。その笑顔は信そっくりだった。


「計画が失敗したんだ、ここで物語が終わる筈だったのに……。延長するんだから、それくらいくれたっていいじゃん」


 水竜が私をくわえたままで話す。

 

『……やっぱりレーンか、本当に見分けつかんな』


 レーンは軽い足取りで扉に向かい、数歩進んで振り返る。

 

「本体の俺もさ、体を乗っとれば勝てると思っているだろう? お前にも思い知らせてやるよ」


 そう言って笑うレーンの左肩が、次第に赤く染まって行く。


「……ひっ」

「あの日、俺はアイスピックで菊子に肩を刺されて、君の家でNo.5に肩を食われたんだ。さらに、学校で同じ場所を日本刀で斬られた。コウ、覚えてる?」

「……ア、アア……」


 私は忘れていたあの夜の事を思い出した。

 信が肩を刺されて、校庭で同級生が倒れ、ママが殺されて、血が……校庭に、大量の血が……。


「キャアアアア!」




◇◇


 幸の絶叫が水竜の巣に響いた。

 それに合わせて水竜が『うわぁ』と天を仰ぐ。ファリナ王が素早く動いて幸を気絶させた。

 倒れた幸を抱えて王は水竜を確認する。水竜は頭を項垂れているが、『大丈夫』とヒレをパタパタ揺らした。


「わー、対応が早いね、さすが長生き王……しぶとい……」


 レーンが肩から血を流しながら、手を叩いて楽しそうに笑う。


「双竜は、セシルという名前の竜の死の思いを食らってかなりの間動けなくなったのに、すごいね、新しい水竜は……強い」


 セシルの名を聞いて、ファリナ王はレーンの顔を睨み付ける。その王の頭を、今の水竜がそっとつついた。


『大丈夫ですよ、王。コウ対策は前任がバッチリしてたんで、なんとか、イキテル……』

「精神特Aとか言うやつか。性格は前のほうが好みなのだが……」


 なにおう? と、セレムは王の頭を鼻先でがしがしつついた。

 レーンは黒竜の結晶を手に抱き、くるりときびすを返し、手を振った。


「なあ、ファリナ王、俺に伝えといて。お前の()()は俺が使ってやるから、お前はここでの垂れ死ねって」


 王は何も答えなかった。

 レーンはそのまま立ち去り、聖地への重い扉が音を立てて閉まった。



 邪神が去った後、凍てついた地底湖はしんと静まり返っていた。

 王と水竜は、レーンが去った扉をしばらく見つめていた。呆けていた水竜の背がピクッと跳ね、扉に向かって湖を泳ぐ。


『聖地への扉を封鎖しよう、そうしよう』

「待て、まだジーンが戻ってない」


 水竜は動きを止め、ゆっくりと振り返り主を見た。


『……ねぇ、王はジーンとレーンの見分けつく? 俺はサーラジーンとサーラレーンとジーンゲイルの見分けがつかんのだが……』

「誠か」


 王は困って首をかしげた。


「なら身体を拘束しておいて、目覚めた時に大丈夫そうならジーンってことで良いのでは?」

『いや、アイツ転移魔法使えるから、そんなんじゃ意味ないよ……聖地はとりあえず閉めて、先にコウを寝かせて来る……』


 水竜は幸をくわえて部屋に運んだ。

 残された王は深いため息をついた。


「ギリギリ撃退出来たか? 正直何が起きたのかよくわからん……」


 王は凍てついた水竜の巣を見回して、フウとため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ