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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
九章(ファリナ)
121/185

9-16、湖で

 

 レーンが繰り出した結晶の抽出魔法により、広間にいる人々が次々と床に倒れた。

 レーンは容器をかかげ、その結晶を回収する。


「レーン!」


 私はレーンが持つ容器を奪おうと飛びかかるが、レーンはひらりと避け、不敵に笑った。


 そんな私の肩を押して、ファリナ王は私を脇に退かす。

 ファリナ王の手には抜き身の愛剣が握られていた。


「まさか人生の終わりに、神と対峙する事になるとはなぁ……長生きはするもんだ」


 王は剣の刃を撫でながら目を細める。


「そんな棒で俺が倒せると思うのか?」

「やってみんと分からんだろう、相手は神といえど身体は子どもだ、案外なんとかなるかもしれん」


 レーンはずっと発動させていた命令魔法を解除して、新たな魔法を詠唱した。彼の手に何重もの魔方陣が浮かぶ。王はその隙を見て、レーンに剣を振りかざした。

 レーンは魔方陣を盾にし、その剣をかわす。


「魔法使いは、術の発動が遅いのが弱点だ」

「だよね」


 レーンは魔方陣から細身の美しい剣を取り出した。長く細いその剣は、菊子さんが持っていた日本刀に似ていた。

 焼け焦げて、崩れかけた広間に金属音が鳴り響いた。

 ファリナ王の重い剣を、小柄な少年が舞うように受け流す。

 私は初めて見る剣の戦いに驚き戸惑った。


 ファリナ王の剣には氷の魔法がかかっているようで、剣が触れたところから白い冷気が吹き出した。

 何度か刃がぶつかり合うと、冷気によりレーンの刀が氷に覆われ使えなくなった。

 レーンは剣を投げ捨て後ろに飛び、魔方陣から次の武器を出す。それはママが死んだ夜に、信が父親の同僚から盗んだ拳銃だった。

 レーンはハンマーを起こし、素早く王の左肩を撃ち抜いた。王は水竜と契約しているので、肩の損傷程度では動きを止める事は出来ない。


「飛び道具か、随分小型だなぁ……」

「近付くと凍るようだから仕様がないだろう」


 レーンは地面を走る氷の斬撃を避け、王の頭を狙って銃を撃つ。弾は細い王冠に当たって弾かれた。王は頭部に強い衝撃を受け、バランスを崩して床に膝をつく。


「レーン! やめて、王を撃たないで! ファリナ王も戦うのは止めてください!」


 私は二人の間に入って、両手を伸ばした。

 レーンは拳銃を構えたまま言う。


「……どけ、お前に当たる」


 私は顔を涙で濡らして首を横に振り続けた。

 

「退きません」


 王は剣を杖にして立ち上がり、私の体越しにレーンに聞く。


「なあ神よ、この娘は何者なんだ? 主でもないのに、水竜を呼び寄せたぞ?」

「知らないでかくまっていたのか、彼女は女神だ、この世界を作った張本人。言葉も生物も国も魔法も、全て彼女が発案して、サーラジーンが創り出し世に配置した」

「水竜は緑の魔女と言っておったぞ?」

「そう、俺はNo.3と共に彼女に体を造った。この世に体を得た彼女は、外に出た途端そう呼ばれて殺された」


 ……そうか、No.5以降の後続ナンバーの作成には、火竜だけでなくレーンもいたんだ。フレイの願いをサーラジーンが叶えたように、レーンが発案したものを火竜が造ったんだ


 王の周りに氷の柱が隆起する。王はその氷を剣で払った。


「森の魔女は、アスラ王都を破壊し、セダンを森で覆ったと聞く」


 レーンは目を細めてククと笑う。


「その時代のNo.8を運用していたのは俺だ。俺はアスラを灰にして、セダンに森を生やした」

「……何故だ?」

「己の体に寄生する虫を叩き潰すのに理由が必要か? あれを罪と呼ぶなら、アスラは王と守護竜を放棄し、セダンは女神を消し去ろうとした。サーラジーンの体をもらって生きているのに、サーを軽んじること自体が罪なんだよ……」


 ……アスラが王を……アマミクを追い出したから、レーンはフレイの体で都を灰にしたの?


「レーンは、アマミクの知り合いなの?」

「いや、知り合ってはいないよ、俺は君と竜からしか見えなかったからね」


 ……やはり、夢でフレイの側にいた顔の無い子どもの幽霊がレーンなんだ……あの、無垢で純粋な魂が、置いていかれた事で歪んで変質した


「サーはあなたを守れと言うの。これ以上誰かを殺さないで……ここはあなたの世界でもあるのよ?」

「同列ではない、こいつらと一緒にするな、寒気がする」

「レーン……」


 ……どう説明しても通じないのは、それだけレーンが傷付いているからだ。


 いくら説得しようが、レーンに銃口を下ろさせることは出来なかった。

 せめて王の盾になればいいと、銃口の前に立ち王を隠す。

 その瞬間、ファリナ王は私との距離を詰めた。

 レーンはとっさに銃口を王に向けるが、王は屈んで私を盾にしたために、レーンは撃つことは出来なかった。

 王は背後から私を抱えあげた。


「えっ!」


 驚く私を無視して、王は私を盾にしたまま王座まで後退した。ファリナ王は抱き上げた私に向けてニヤリと笑う。


「場を移動しよう、ちょっと付き合ってくれ」

「は、はい!」


 私は頷いて、ファリナ王につかまった。王は王座の後ろの壁掛を押して、奥に進む。そこには背の高い王がギリギリ通れるくらいの狭い通路があり、通路は薄暗く果てが無いように見えた。


「……隠し通路?」

「水竜の巣に繋がっている、舌を噛むから口を閉じてろ」

「はいっ!」


 私は口を閉じて気を引き締めた。振り返ると後ろからレーンが追って来ているのが見える。


「水に潜るぞ」


 目の前に深い暗い穴があり、王はその穴に飛び込んだ。

 落ちる感覚は一瞬で、足から水にドボンと落ちた。王は水中で私を捕まえて、陸に向かって投げる。私は陸に上がり、陸から王に手を伸ばし、体重をかけて王を水から引き上げた。

 ふたりが落ちた所は、聖地への扉のある広い地底湖だった。

 王は水に濡れて重くなったマントを剥ぎ取り地面に落とす。そして、水面に剣を突き立て目を閉じた。その剣から冷気が放射状に水面をはしり、瞬く間に湖は凍りついた。


「うまく氷に叩きつけらてくれると良いがな」


 王は私の手を引いて走り出す。私の吐く息は白く、水に濡れて凍えていた。

 

「すまんな、ザヴィアがいないから乾かせん」

「大丈夫です」


 凍る湖の上を、濡れたまま二人は走る。私は裸足だったので、一歩一歩、足が切れるようにいたかった。


「わわわっ……」


 氷に滑って尻餅をついた。ファリナ王は振り返って私に手を伸ばす。

 その瞬間、後ろで大きな音が響いた。

 振り向くと、レーンが氷の上に立っていた。


「氷解」


 王が氷に手をついて言うと、氷が割れて、レーンは水に落ちた。

 私は王に抱えられ、通路に登る。ずっと走り続けていたので、私は息が切れて、心臓が飛び出しそうだった。

 これは私と同じ人間の体を持っているレーンだって辛いはずだ。

 私はレーンが心配になって振り返った。

 すると、水から手が伸びて、私の足をつかみ水に引き込んだ。


 凍りついたように冷たい水が肌に刺さって手足が動かない。

 私はそれでも必死で水面に上がろうともがくが、冷たい腕に絡めとられてどうにもならなかった。

 私の息が切れて、泡を吐きながら水中に沈む。

 私がもうだめだと思った瞬間、大きな影が水の底から浮かび上がり、私の体は一気に陸へ引き上げられた。


 私は凍えながら、朦朧として周囲を見渡した。水竜の巣の通路の上で、巨大な竜が水から顔を出して私を覗き込んでいた。

 水竜は私の顔を鼻でつついた。すると私の体が黄色く光り、体から水が蒸発して内から温かくなる。

 私は水を吐き、げほげほとむせた。


『……王、こいつ弱っちいから雑に扱わないでくれ』


 水竜が主人に文句を言うが、王はたいして悪びれる様子なく言った。


「すまん、余裕が無かった。神に追いかけられていたのでな」


 王が再び剣を手に命ずると、辺り一面凍りついた。

 凍てついた氷の上に人影が見えないことを確認して、王はふぅ。と息を吐く。

 セレムは王に近付き、レーンに撃ち抜かれた肩の傷を治し、濡れた王の体を乾かした。ファリナ王は大きな水竜の鼻先を撫でて礼をした。


「さあこれで神とやらも大人しくなってくれればよいがな」

『民から集められた結晶も凍りついたぞ』

「その辺は助かってから考えよう」


 私はセレムにしがみついて、よろよろと立ち上がる。


『妙に体が熱いな、温度間違えたか?』


 セレムが鼻で私をつつく。

 私はセレムに顔を寄せて涙をこぼした。


『どうした? 怖かったか?』

「ううん、セレムが大きくなって、うれしいの……」

『長らく、心配かけて、すまん……』


 私はセレムに抱きついて鱗に顔をすりつけた。乾かしたのにまた濡れると、セレムが私から離れる。

 セレムの大きな顔が動き、じっと転移扉を見ている。つられて私も顔を向けると、僅かだが扉が開いていた。


『……ええ? さっき使った時ちゃんと施錠したよ? 何で許可してないのに勝手に開くのぉ?』

「また他の竜が来るのか……」


 無断で解錠されたらしく、水竜はのけ反って驚く。

 王は剣を手に、来客者を見極めようと目を凝らした。しかし、扉からは誰も入って来なかった。


「何だ? 誤作動か?」


 王が呟く矢先に、水中が赤く光る。

 レーンがいると思われる箇所に闇が沸きだし、その水域だけ見えなくなった。


「新手が潜んでおったか……。今度は何だ? 地か、風か?」

『そうか、No.7がレーンの時間の魔方陣を解読したように、うちの国の鍵の情報がNo.7からレーンに抜かれていたんだ』


 フムフムと感心する水竜を王は肘でつつく。

 私は目に涙を溜めて、通路の先を凝視していた。


「アレク……再生していたの……」


 水竜が王に告げる。

 

『黒竜だ、能力は触れたものの抹消』

「はあぁ? 何故そんなものに狙われるんだ? 水竜は外で怨みを買って歩いていたのか?」

『まさか、あいつに恨まれる覚えはないさ。あるとしたら女神の奪還だろ?』


 王はチラリと子どもを見た。


「因みに、ここで女神を取られるとどうなる?」

『世界がまるっと消え失せる』

「……了解した」


 こちら側が臨戦態勢で緊張していると、黒い霧が晴れて、中から長身の黒い服の男が制服姿のレーンを胸に抱いて現れた。

 レーンは意識が無いようでぐったりしている。


「……なんか、アレ、ジーンに似てるな」


 のんきな王に、水竜が突っ込みを入れる。


『気を抜いてんじゃねーよ』

「何を言う。何時でも緊張しないのが我の長所だ」


 ファリナ王は胸を張った。

 私は苦笑する。こんな状況でもこの人は頼もしい。


「アレク、この国の人達の結晶を返して……それは大切な物なの……」


 私は真っ直ぐに黒竜を見て言った。

 黒竜は動かず黙っている。

 アレクは背がとても高く、何の感情も読めない黒目がちなつり目には、私は映っていない様子だった。


 ……多分、一度結晶化をしたので、記憶が消えている。あのアレクは私の知っている猫のアレクセイではない。


 水竜は身を乗り出す私の服を口でつまんだ。


『水に落ちるなよ』


 私は足場と水竜を見て頷いた。黒竜は無表情で答える。


「結晶は水中、現状では取り出せないそうだ」

「お前らが出ていき次第氷を溶かすから、さっさと帰ってくれないか?」


 王の提案に、黒竜は頷いて扉のほうに移動する。

 扉の前で黒竜が振り返らずに言った。


「レーンが体を向こうに返すと言う。今はアスラでないと、向こうにはつなげられない。刀の女を起こさないといけないのだろう? コウも戻るなら来い」


 ……名前を読んでくれた! もしかして、私の事を少しは覚えているの?


 確かめようとアレクに近付くと、セレムが私の寝巻きの裾を咥えた。


『アホか、騙されんなよ』

「だって、竜は嘘をつけないわ」

『竜は嘘を言えないが、嘘を伝えることは出来るんだよ、よく話を聞けよ』

「向こうからの扉がアスラに繋がったのは事実よ?」


 セレムはしょーがねーなーと、溜め息をついた。


『その事実を知って、交渉に利用しているだけだろ、ってことは、あのチビ起きてんぞ』


 王は水竜を見て驚いた

 

「セシルはこーゆーとき、すぐに騙されてたなぁ」

『精神面が激弱な前任と比べないでくれよ』

「そこが長所だったんだよ」

『ノロケだった……』


 水竜はケッと言った。


「下ろせ」


 セレムの言う通り、レーンは意識があったようで、レーンはひらりと黒竜の腕から飛び下りた。扉の前に立つレーンの手には赤い結晶が見える。


「扉を開けろ、No.6」


 アレクは黙って、聖地に繋がる扉を開ける。寒い地下室に、聖地神殿のあたたかい空気が流れ込んだ。

 レーンは私に向かい、笑って手を差し出す。


「コウ、帰ろう」


 ビクッとする私に、水竜が頬を寄せた。

 私は水竜の顔にしがみつく。


「コウは俺を連れ戻しにこの世界に来たんだろ? ここでふたり戻って、刀の女を起こせばコウの望みは全て叶う」


 私は顔を水竜の冷たい鱗に押し付けて、首を横に振った。


「……レーンは信じゃないよ、信がいないと帰っても意味がないわ」


 レーンは信のように困った顔をして、私に言う。


「来ないと、君の大切なものを一つずつ破壊するよ?」

「……!」


 私の体が硬直する。


「……ひとつ目」


 レーンはそう言って、何も無い場所から刀を引き抜くと、アレクの腕を斬りつけた。

 アレクの肘から下がぼとりと床に落ちた。腕は黒い霧に変わり消えて行く。


「あ、ああ……」


 ガタガタと震える私をファリナ王が支えた。


「見るな」


 王はそう言って、私の目と耳をふさぐように、私の顔を王の胸につけた。

 レーンは舌打ちをして黒竜に言う。


「……もういい、お前はお前を破壊しろ」


 黒竜は何の反応もせず、黙ったまま霧散して、赤い結晶に変化した。


『おいおいおい、黒竜が自滅したぞ……』


 セレムが呆然と王に言う。

 私はガタガタと震えて涙を流した。


「うむ」


 ファリナ王もレーンの行動を固唾を飲んで見ていた。

 レーンは二つの結晶を手に、扉をくぐった。


「……次は、聖地にいるNo.7だな」


 扉の先からレーンの笑い声が聞こえた。


「やめて!」


 私は守ってくれていたファリナ王の手を振り切って、扉に向かって走り出した。

 水竜が慌てて追いかける。

 私が扉をくぐる時に、扉の向こうから手が伸びて、私を捕まえた。

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