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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
九章(ファリナ)
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9-14、夜会

 

『倒れた? ジーンさんが?』


 私は妃の部屋で目覚め、枕元にいたセレムに話を聞いた。私は地竜のピアスを外していたので、セレムはベッドにだらしなく伸びて目を閉じていた。


『お前、なんか覚えてないか? お前が謁見室に入って、あいつを触ったら、あいつの中身が消えたんだ』


 私は知らないと首を振った、昨夜ベットに入ってから今までの記憶は全く無い。


『やっぱ、あれ、フレイだったんだな』


 セレムは首を傾げてうーんとうなる。


『口を訊けないようにしてたから、一見わからなかった、喋ればすぐに分かったのに……』

『今、ジーンさんの体は神殿の育成ポットにあるの?』

『うん、まぁ今まで通りの光景になっただけだな』

『あの体はずっと聖地に置かれてたみたいだしね……。でも中身が入って沈黙してるのか、それとも何処かに行ったのか確かめたいな、今から聖地に行ける?』


 セレムは馬鹿言うなと私の顔をつついた。


『聖地はレーンが来るからダメだ』


 私はぷーっと、頬を膨らませて不満を表した。


『守護竜が倒れたらファリナはどうなるの?』

『長かった王の命が終わる』

『えっ……』


 ……セシルがあんなに大切にしていた人の命が、あと十日で消えてしまう。


 それ思うと私は、いてもたってもいられなくなり、ピアスをつけて通路に飛び出した。

 城の中は誰もが忙しく働いていた。今の王が亡くなれば体制をアーヴィン殿下に移行しないといけないらしい。

 ハノイさんは見あたらず、知り合いのメイドさんに何か出きることはあるかとメモを見せるが、私に出来ることは無いと追い払われた。


 何も出来ない私は、城のエントランスホールの隅に腰掛けて、過ぎ交う人を見ていた。

 ふと視界が陰ったので上を向くと、目の前にアーヴィン殿下が立っていた。


 ……メグミクが現れて、成人するまで、この人が王さまになるのか


 私は口を開けてボーッと殿下を見ていると、不機嫌そうな殿下が私に問いかけた。


「お前、昨日あいつに何をした?」


 私は声が出ないので、首を横に振って答える。

 アーヴィンは私を見て、フウとため息をついた。


「まあいいか、遅かれ早かれいつか来る事だ……親父の長い命もここまでか……」


 何も言わない私と殿下の脇を、人々が慌ただしく行き交った。

 私は部屋から持ってきたメモ帳と鉛筆を出して、書いたものを殿下に渡した。


『メグミクの顕現が三年後と、水竜が預言しました。それを耐えればファリナはなんとかなります』


 その紙を見て、私は字が書けないと思っていた殿下は驚く。


「お前、ここの文字が書けるのか」


 私は頷く。ここの文字を考えたのはフレイだった。

 アーヴィンは紙を返して質問する。


「昨日、謁見室に来たのは本当にお前だったのか?」


 私は首を横に振りながら、カリカリと鉛筆を動かす。


『私の中には、緑の魔女がいて、たまに出てきます』

「緑の魔女……あれが……」


 殿下は呆然として呟いた。


「……緑の魔女が竜を殺したのか?」

『わかりません。でも、魔女は何も出来ません。いつもただ見ているだけです。彼女の目を通して、サーラジーンが願いを叶えているようです』

「サーラジーン……そうなのか……」


 私が手を出すので、アーヴィンは紙を戻す。


『守護竜は邪神にあてられ、弱っていました。元から仮の守護竜です。本来無かったものが消えただけ。ここは国が自力で立ち上がらなければなりません』


 アーヴィンは書かれた内容を見て、目を見張った。


「……お前、何歳だ?」


 私は苦笑して、手で一と五を作る。それを見てアーヴィンは笑った。


「十五か……シェンより年上だったか。まああまりかわらんがな」


 私は笑われたので、頬を膨らませて紙を奪った。殿下は笑って私の頭を撫で回した。


「いいか? もしファリナに何かあればセダンに戻れ? 一の王に庇護してもらえ? ちゃんと食べて、しっかりデカくなれよ」


 そう言って、アーヴィンは従者を連れて喧騒の中に戻った。残された私は、ずっとそこに座って周りを見ていた。




◇◇



 ――また夢だと、私は思った。



 今度のフレイは肉体を持っていた。

 視点はいつもと同じで、場所は世界樹のドームだが、いつもとは違って体が重かった。

 私は隣にいる顔の見えない子どもの霊に話し掛ける。


「……体に入って気が付いたわ。この髪は長すぎるわね、切っていいかしら?」

『だめだよ、いつものままがいいよ』


 目も鼻もない子どもは口だけで笑い、私のまわりをぐるっと回った。


『火竜はうまくやってくれた。いつものあなたそっくりな体が出来た』


 子どもは胸をそらせて誇らしげに笑う。

 フレイはその子どもに手を伸ばすが、手は空を切ったので、哀しげに自分の手を見つめた。


『手がどうしたの? 何かへん?』


 心配するこどもに、フレイは苦笑する。


「……これじゃあ、あなたを撫でられないわ」



 夢が一瞬真っ白になる。

 視界が戻った時また顔の無い彼が隣にいた。場所はいつも同じ、世界樹の見えるドームで、彼は地面に座って顔を伏せている。

 フレイは隣に座って『どうしたの?』と尋ねる。


『火竜が僕に体を作ってくれたけど、僕にはつかえなかった』

「まあ……」

『ピクリとも動かないんだ、あれじゃあフレイに触れない』


 フレイは隣に座る。


「でも、体っていいものじゃないわ。だって、物にぶつかってしまうのよ? 木には髪がよくひっかかるし、転ぶと痛いし、とても不便だわ」

『それでも僕は、あなたに触れてみたいんだ』


 そういって、子どもは悲痛に口を歪めた。



 視界はもう一度白くなる。

 今度は神殿ではなく旧セダン城だった。新しいセダン城と建物の違いは殆ど分からないが、アマツチやアマミクが今よりも年上なので、多分昔の風景だろう。

 顔の無い子どもはセダンでも常にフレイの側にいたが、今は反応が無いので寝ているようだ。

 

「どうしよう、サー……。私、おしまいの日がきてしまうわ……」


 庭が見えるテラスに立ち、私はひとり空に向かって口を開く。


「あの子をおいて、ここを去らなければなりません。あの子はここでは私にしか見えないのに……」


 サーラレーンは、光がまたたくように、心の中に答える。


『私と竜達がいるから、大丈夫だよ』

「いいえ、それは違うわ。彼は竜を仲間だとおもっていないし、単なる道具だと思っているの。だから、彼にはサーしかいなくなっていまいます」


 サーは最近、話しかけても答えてくれる回数が減ってきた。これでは彼が寂しがる。


「この世界の人が彼を認識してくれればいいのに」

『彼は私達と違って元の体が無いから、竜の体にも入れないようだね……』

「どうしたら、彼に体の動かしかたを教えられるのかしら?」

『一度君が入ったその体なら入れるかもしれない』

「そうね、どうして思い付かなかったのかしら、それはきっとうまくいくわ。私が去った後はこの身体を彼に使って貰いましょう」




◇◇



 私は目を覚ましたとき、自分が泣いていた事に気が付いた。

 妃の部屋は閉めきると真っ暗になるので、時間は分からない。灯りのスクロールをつけようと、寝返りを打つと、手に何かがあたった。


「……セレム?」


 セレムにしては大きい気がする。

 私は暗闇を手でまさぐった。その指先に何か柔らかくて、表面がカサッとした感触があった。


「きゃっ!」


 軽く悲鳴をあげて気が付く。

 

 ……私、声がでてる!

 

 私は久々の声が懐かしくて闇に向かって「あー」と言う。すると、闇がくすりと笑った。


 ……やっぱり、誰かいる……。


 私はベットから下りて部屋の灯りをつけた。

 窓も扉も閉まっているし、部屋に異常はない。怪しいのはベッドの上だ。


 私は恐る恐るベットに近寄り天幕をめくると、そこには防寒着を着た信がいた。

 信は中一の時に着ていた、フードにボアがついた青いダウンジャケットを着ている。どうやら手に当たったのはダウンの化繊のようだ。下は黒のジーパンで、これも信が気に入ってよく履いていた記憶がある。


「信……?」


 私がその名前を呼ぶと、彼は頷いた。


「自分の体に戻れたの? だからNo.7が倒れたのね?」


 信は素直に頷くので、私は「わぁ」と喜びベットに飛び乗った。そして、信の前にペタリと座ってその顔を見る。


 ……信の、いつも微笑してるようなわんこ顔がかわいい。良かった、元に戻って。


「私ね、さっきまでレーンの夢を見ていたの。レーンは、竜の体に入れなかったの。それで、私はとても心配していたの」


 信はベットの端に腰かけて、優しい顔で私を見ていた。


「……それで?」

「でね、フレイはママに呼ばれたの。ここは胎児の私が見ていた夢のような世界だったから、私が産まれるときに戻らないといけなかったの……じゃないと死んじゃうからね」

 

 私は、先程見たフレイの夢を思い出す。

 

「でも、フレイはレーンをここに置いてくことを、とても、とても心配していたの。それでサーに相談したのよ。そしたら、フレイが使っていた竜の体なら入れるんじゃないかと言われて……そこで夢が終わったわ。ねえ、その後レーンはどうなったのかしら?」


 ……レーンと同化したことのある信なら、その後の事も知っているよね?


 私は信が教えてくれるのを待っていたが、何も言ってくれないので、さらに聞く。


「その後のフレイはセダンでアマツチに殺されて、私として産まれた事しかしらないのよ、何か分かる?」


 信は微笑んで、話す私をじっと見ていた。

 

「分かるよ……」

「ホント?」


 私は期待して信の顔を覗く。


「フレイの体を貰ったけど、そんなものは欲しく無かったので、フレイの体を破壊してセダンを呪った」

「……えっ」


 ……体を破壊して、呪ったってどういうこと? 沢山の人々が魔女を殺せと熱狂していたあの怖い夢は、フレイではなく、レーンの夢だったの?


 私が口に手を当てて考えていたら、信がその手を取って、私の注意を引いた。目の前に信の焦げ茶色の瞳が見える。


「……六年前に突然この体に入った時は、何が起きたのか分からなかった。サーは相変わらず寝ているし、君はこの世界にいなかったからね」

「そう、フレイはレーンの事を心配してたの……ずっと、レーンのことばかり考えていたわ……」


 信はくすりと笑って私の手に口を付ける。そして、その手を信の頬に当てて、目を閉じた。


「俺も君の事ばかりを考えていた……」

「信……?」


 私は言い様のない違和感を感じて、心がざわりと粟立った。

 信は、私の手を両手で持って包み込んだ。


「理解した。コウとフレイは同一人物だ。ただ、記憶がリセットされていて、幼体なだけだ」


 ……この言い方、この人は信じゃない。

 

「レーン……?」

「君が、フレイでもコウでもあるように、俺もシンでも、レーンでもどちらでも構わない」


 私は青くなって、彼から離れた。


「だって、今、信は意識をうしなって、聖地で……。じゃあ、竜の体に入っていた信はどこにいるの?」

「ここにはいないな。でも、あと二、三回同化すれば、俺もシンも同じ存在になるよ。いつでも君が望む方の俺になれる、どっちがいい?」

「レーン……」


 私は困惑してその名を呼ぶ。

 レーンは微笑んで、そっと私を抱きしめた。

 私の肩にレーンの体重がかかり、レーンは私をベッドの上に倒して、その顔を覗く。

 レーンは私の心臓に耳をあてて、目を閉じていた。


「……ずっと、こうしていたかった……。怯えさせるのではなく、君の隣で、君に触れてみたかったんだ」


 私はフレイの夢を思い出してその髪を触った。でも夢の中の柔らかそうな髪ではなく、太い、頑丈な手触りだった。


「ねぇ、レーン……私、その体を向こうに返したいの……」


 書庫のジーンさんにはレーンは入っていなかった。だとしたら、レーンと信は切り離すことが出来るんだ。

 それは、私と信との別れを意味するのかもしれないけれど、信のものは信に返さないといけない。


 レーンは何も答えなかった。

 薄暗い部屋に私の鼻をすする音が響く。


「どうして私は、信をここに連れて来てしまったの? 信はこの世界には関係がないのに……」


 レーンは起き上がり、私の頬に流れた涙を手で拭う。


「関係無くはないさ、ヤツは率先してこの世界に関与している。君が思い悩む事ではないよ」

「違う、全部私のせいよ……!」


 私はレーンから顔を背けて、両手で顔を覆った。


「信がレアナに傷つけられたのも、体を失ったのも、菊子さんが目を覚まさないのも、ママが死んだのも、全部私のせい……」


 それだけじゃない、セダンが森に覆われたのも、アスラが灰になったのも元を辿れば全部私のせいだ。

 レーンは泣きじゃくる私の頭をそっと撫でる。


「フレイのせいではない。君が誰かを傷つけた事は一度も無いよ」

「あるわ! 私はレアナを傷つけたし、あなたをひとりここに置いて泣かせたわ、あなたはたったひとりで、何百年も泣いていたのでしょう?」

「今、君がここにいるなら、それでいいんだ」


 レーンは私の頬に触れて、口で涙を拭う。

 私はレーンの手をギュッと握り、レーンに詰め寄った。


「レーン、あなたは全部知ってるの? 信を返す方法も、この世界を滅ぼす方法も」

「知っている」

「信を返して、世界を救う方法も?」


 レーンは目を真開いた。

 そして、ため息をついて言う。


「知っているよ……」


 私は起き上がって、レーンの腕をつかんだ。


「じゃあ、そうして……! 信を返して、この世界を守ろ? だったら私、あなたについていく。ずっと一緒にいるし、私をあなたが好きなようにしていいよ」


 私がそう言うと、レーンは頭を伏せて黙った。レーンがそのまま動かないので、私はレーンの肩に手を掛ける。


「……レーン?」


 私はレーンに這い寄り、レーンの顔を覗き込むと、レーンは私の手をつかんで自分のほうに引き寄せた。

 私はバランスを崩してレーンに覆い被さる。そのままレーンは、私をきつく抱きしめた。


「レーン、く、苦しい……」


 レーンは私の顔の横に顔を寄せて匂いをかぐ。そして、耳に、頬に、口付けた。

 レーンの体が小刻みに震えている。どうやらレーンは泣いているようだ。また泣かせてしまったらしい。


「どうして、泣いてるの……?」


 私はレーンの頬を両手で包む。そして、泣いている彼の瞼にキスをした。

 泣いている理由が知りたくて、じっとその瞳を覗くと、レーンは目に涙を溜めてこう言った。


「この世界を守ることは出来ない。俺は、君を泣かせてでも世界を壊すよ……」

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