表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
九章(ファリナ)
116/185

9-11、帰還


 外はしんしんと雪が降っている。

 あの子どもがこの城に来た時は和らいでいた寒気も、冬季に近付くにつれて、また雪に覆われるようになっていた。


 ……それでも、近隣の町や村に比べて、王都は格段に過ごしやすい。


 王宮魔術師が言うには、ファリナ王都には大地を温める魔法がかかっているらしい。そのために、城は地下にいくほどにあたたかい。



 まだ夜も明けやらぬ時刻に、アーヴィンは薄暗いファリナ城をひとりうろついていた。

 エントランスホールに行くと、地下から夜勤明けの兵士が上がってくる姿が見えた。兵士はアーヴィンを見て一礼する。


「お早いですね、徹夜ですか?」

「まさか、単に目が覚めただけだ。それより異常はないか?」

「今交代したばかりですが、異常はありません」

「そうか、御苦労」


 アーヴィンはそのまま地下に行く。

 以前ここは水竜の巣だったが、今は空だ。新水竜は毎晩どこかをうろついているらしく、明け方に地下の扉を出入りすると言われていた。


 ……もしかしたら、水竜が出てくるかもしれない。そうしたら、あの子どもの消息が聞けるかも。


 アーヴィンは長い階段を下りる。すると、交代した筈の兵士がおらず、地下室の扉が開いていた。

 アーヴィンは警戒しながら入ってみる。

 灯りは申し訳程度にしかついていないので、地底湖は青く暗かった。

 闇に目が慣れてくると、門番が水際に立っているのが見えた。


「おい、どうした? 鍵が開いていたぞ」

「殿下、子どもが……」


 アーヴィンが兵士に近寄ると、兵士が水面を指した。

 そこには、子どもが流れ着いたように岸に手を掛けて、意識を失っていた。



 アーヴィンはその子どもを抱えあげ、子どもが使っていた部屋に連れて行った。

 途中で早番のメイドを見かけたので世話をまかせた。

 部屋から出てきた治療師がいうには、水も飲んでおらず、気を失っているだけらしい。

 次第に夜が明けてきて、通路の窓から、金色の光が空に向かって立ち上る。いまは守護竜の朝の浄化の時間なのだろう。


「……守護竜は毎朝、死んだ者の魂を清めている」


 あの子どもが南西の村で言っていた事だ。王宮魔術師に確認したら、その通りだと言う。

 守護竜に一番近い王族の一員であるのに、その事を知らずに生きていた。朝の光はよくある自然現象で、意味など考えた事も無かった。


「信仰が無いと守護竜が弱体化するというなら、あのチビ竜がデカくならないのは俺のせいだ」


 ……いや、でもヘビはなぁ。


 そんなことを考えながら歩いていたら、城のエントランスに出た。ここからあの子どものいる部屋は近い。

 騎士塔に行く前に容態を確認するか。と、アーヴィンは階段を上った。




 アーヴィンは妃の部屋に入り、寝ている子どもを見る。子どもはスウスウと穏やかな寝息をたてていた。


 思えば出会いから奇妙な子どもだった。

 自治区で奴隷として売られていたし、崩れ落ちる遺跡に自ら飛び込むし、南の村では、どの老人よりも古い知識を有していた。

 父がいうには、「緑の魔女の再来」らしい。

 緑の魔女の再来とは、二番目の妃、エレノア妃もそうささやかれていた。


 アーヴィンはこの城に来たときのエレノア妃を思い出した。

 真っ直ぐな長い黒髪は同じだけど、普段からボーッとしているこの子どもと、竹を割ったような性格で、男性のようにふるまうエレノア妃。二人の性格は反対だった。とても同じとは思えない。


 アーヴィンは子どもの露出しているおでこを触る。熱はないか確認して、頬も触った。

 アーヴィンは子どもの肌に触れたのは初めてだったので、その体温の高さと柔らかさに驚いた。


 触ったせいか子どもが動いた。

 その目がゆっくり開き、長い睫毛が数回動いた。新緑の色をした大きな瞳を、アーヴィンは暫く見ていた。

 思えばエレノア妃もこの色をしていた。その娘のシェレンは黒いのに。緑の魔女の緑は、この瞳の色の事なのかもと思う。


 子どもは自分を見て驚き、周りをキョロキョロ見回していた。

 目覚めた子どもに、アーヴィンは不機嫌そうに聞いた。


「ここはファリナ城。エレノア妃の部屋で、今は明け方だ。分かるか?」


 子どもは目をまんまるにして、ひたすらコクコクと頷く。


「お前、今までどこに行っていた?」


 子どもは説明しようとしたが、口をパクパクするだけで、声は出なかった。




◇◇


 聖地でひとりで隠れ住んでいたのに、目を開けると目の前にアーヴィン殿下の眉間の縦皺が見えた。

 私は心底驚いてセレムを探すが見当たらない。


 日の入らない部屋に、魔法の光がぼんやりと室内を照らしているのが見える。

 どうやらここは、ファリナ城の妃の部屋のようだ。私は寝ている間にもといた場所に戻されたらしい。


 ……なんでここにいるのか知りたいのに、声も出ないし、聞ける相手も見あたらない。


 これは風邪を引いた時に声が出ないやつではない。喉の痛みは全く無いのに、アーと言っても喉が振動しないのだ。


 私が声が出ないと知った殿下はザヴィアさんを引っ張って来たが、声が出ない理由はザヴィアさんでも分からない様子。

 

「なんでしょうね、病気や怪我では無いようです」


 ふくふくと柔らかそうな中年のおじさんがベッドに座って私の喉を見ている。


 ……いや、ザヴィアさんって、このお城ではかなり偉い人だよね? こんなことの為に呼び出していい人じゃないよね?


 殿下とザヴィアさんにベッドの脇を固められ、さらに入り口には殿下の従者の姿も見える。

 私はおそれ多さに震えながら、ザヴァアさんの質問に、首を縦横に振って答えていた。


「耳は聞こえてますね? 筆談はできますか? 南西の村で消えた後、どこに誰といましたか?」


 ジーンやセレムから指示されていなくても分かる。私が聖地にいたことを、殿下やザヴィアさんに教えてはいけない。

 私が聖地神殿に隔離されていた理由は嘘がつけないからだ。声が出ないのもきっと、セレムとジーンの仕業だろう。だとしたらこの筆談で書くべきことは。


 私は英語で「Thank you」と書いて、紙をザヴィアさんに返した。



◇◇


『アイツ、ヘマしてねーかな』


 ファリナ城の屋上、塔の先端にジーンとセレムはいた。

 太陽は大地から離れ、日の出からはそれなりに時間が経過している。


 ジーンは朝の浄化のついでに、水竜の巣に幸を置いて、さも流れ着いて来たように門番に報告をした。

 地底湖に外部から何かが侵入することは無いが、「守護竜は真実しか言わない」というこの世界のしくみのお陰で信じて貰えた。


 ……ファリナ王にはバレる気がするけど、まあセーフ。


 隔離部屋は扉を閉めれば幸の声は届かないが、殿下が対応をしているせいか扉はずっと開いている。

 ジーンはその隙間から幸の感覚を盗み聞いていた。


「どうやら大丈夫なようですよ、筆談も他の世界の言葉を書いて、追求を逃れています」

『アイツにも一応、考える頭があるんだな』


 ふよふよと、セレムは晴れた空を泳いでいたが、ふと動きを止めてじっとジーンを見た。


『聖地で王の資質のある人間を探してみたが、ろくなやつがいねーことが分かった。よって、お前に同行するのはここまでだ』

「そうですか、じゃあ別の王様探しは諦めて、今のファリナ王の命を預かってください」

『ジジイだからやだ!』


 プイッと顔を背ける小さな白い竜を、ジーンは困って見ていた。


 ……幸がこの世界に来てからというもの、伝説の王やセダン王と知り合って、この世界の王のチートさを学んだ。

 あの方々の相手をするには、アーヴィン殿下だとかなり荷が重い。新水竜の王選定と言っても、メグミクが産まれるまでの短期間なのだから、今の王で妥協してくれないものか。


 王という、国の責任者がいないと、命の浄化が出来ないのだ。それは出生だけではなく、大地や動植物といった、この国に生きている全ての有機物の問題だ。


 既にファリナの国力は落ちるところまで落ちているのだから、好き嫌いでワガママいわないで欲しい。


 いつまでも大きくならないこの国の守護竜に、ジーンは頭を悩ませていた。



◇◇


 聖地から幸を城に戻すのは、ジーンとセレムが決めたようだ。

 私の最大の懸念、魔術師のウソセンサー対策に、喋れないよう喉の振動を調整した。

 種を明かせば、ただこれだけの事だが、嘘をつけないと言われている竜達が上手く立ち回った為に、私が一人で流れ着いたと思われたようだ。



 私が戻ってきたことに、メイドのハノイは喜んでくれたが、声が出ないことを知ると涙を流した。


「わたしゃ、あんたみたいな小さいのが病で死んで行くのを何度も見たよ。あんたはガリガリだから、行方不明になったと訊いて、ホント死んだと思ったんだ、生きているだけで御の字さ」


 それからというもの、ハノイは私を太らせようとあれよこれよと食べさせてくる。

 中学の校庭で信と別れてから、あまり食べ物が食べられなくなっていたので、大量に皿に盛られても困る。

 しかしハノイのほうが上手で、量が食べられないと知ったら、食事回数そのものを増やされた。


 喋れなく、筆談さえも出来ない事にしたので断れず、私は泣く泣くハノイが持ってくる食事を食べ続けた。



◇◇



 ――その夜、私は久々に聖地の夢を見た。




「あら、また来たの?」


 そう話しかけるのは、髪が足まである黒髪の女だ。女はボクを見ると、嬉しそうに笑った。

 いつも大きな樹の下にいるその女は体が半透明に透けていた。でもお化けとかの怖い感じは無くて、いつもおだやかにその場所に佇んでいた。


 座っている女は、自分の隣を叩いてボクに手招きをする、ボクが隣に座ると、本当に嬉しそうに笑ってくれる。ボクはこの人の笑顔が大好きだった。なので、目が覚めた時は出来るだけここにいるようにしている。


 彼女の隣に座って上を見ると、大きな樹木の枝が空一面に伸び、視界をその葉が覆い尽くしていた。

 木漏れ日がキラキラと耀き、彼女の体を突き抜けて地面に光を落とす。


 この人は不思議な人だ

 体があるようにみえるのに無いんだ。

 触ろうとしても触れないのに、ちゃんといる。いつもここでニコニコしている。


 ボクにお母さんはいない。

 だから、お母さんってしらないけど、もしいるとしたらこんな風にいつも笑っているといいな……。


 ボクは、これが夢だってわかってるんだ。

 永遠に終わることのない夢を見続けているんだって。

 そして、多分この人もそうなんだ。

 だからボクたちは出会って、同じところで同じ夢を見続けるんだ……。


◇◇


 目が覚めた時、私は泣いていた。

 いつも夢でみるフレイは手と足しか見えなかったが、フレイの全身が見えたので視点が違うのだろう。

 多分この夢は、フレイの夢じゃない、レーンの夢だ……。


 ……どうして、レーンの視点の夢を見たんだろう


 私はまだ夜が明けてないのを確認して、防寒具を着こんで、塔に向かう階段で彼を待った。



 しんしんと雪が降り積もり、音が全くしない。その中で、微かな足音が聞こえた。

 暗いなか、目を凝らして階段を見ると、黒い人影がゆっくりと上ってくるのが見えた。彼は既に私がいることを知っていたようで、私に向かって軽く手を上げる。私はジーンに駆け寄った。

 ジーンにさっきの夢の事を聞こうとするが、声が出なかった。

 ジーンの手が伸びて、私のピアスを外す。


「どうぞ、話してください」


 私は心のなかで会話をした。


『ここ、ファリナのお城よね? 私聖地にいたのに、どうしてここにいるの? 全然覚えてないし、声が出ないから誰にも聞けなかったの』


 ジーンは微笑したまま私の額を手のひらではたいた。ヒュッと息を飲む音がしたが、私の喉から声は出ない。


『怒ってるの? なんで?』


 私がはたかれた額を触ると、ジーンは私の体を抱え上げた。


「幸が盛大に聖地の浄化をするから、回収出来なくて二の王の手を煩わせたし、幸自身もずっと寝ていたよ」

『そんなことをした記憶は無いんだけど……』


 私はうなって、ジーンの首に巻き付いた。


「自治区の空を、先代の水竜が飛んでいるのを見たよ。幸はセシルの夢を見なかったかい?」

『見たわ! セシルが世界樹の周りを楽しそうに飛んでいるのを。セシルはずっと神殿を綺麗にしたかったんだって』

「夢の中でやらかしたことが、リアルに影響するのか……無意識であれを……」


 ジーンが深いため息をつくので、私は心配してジーンの頭を撫でた。


『そういえば、いまさっきレーンの夢を見たの、貴方は見た?』

「彼が神殿に忍び込む夢はよく見ているよ」

『彼はフレイと同じ幽霊だったのね?』

「そのようだね」


 二人は階段を上りながら話をする。

 

『じゃあ、サーやフレイと同じように、向こうの世界に体があるのかしら?』


 ジーンは階段を上りながらしばらく考えていた。


「レーンは、自分は体が無いと思っているから、死んで迷い込んだのかも?」

『だからずっと、ここから出られないのね』

「そうみたいだね……」


 ジーンは私を床に下ろして、屋上への扉を開ける。吹き込む冷たい空気に私が震えたので、ジーンは私のピアスをはめて、私の頭にフードを被せた。


「少しだけ、静かにしていてください」


 ジーンは外に出ていき、朝のお勤めを始めた。



 私は昇り行く朝日を見ながら、レーンの事を考えていた。

 サーとフレイが作ったこの世界に毎日遊びに来ていたのに、父みたいなサーは眠ってばかりいて、それがどんどんひどくなり、母親みたいなフレイは自分のミスで死んでしまった。

 レーンはある日突然一人ぼっちになる。

 そのまま、自分を認識してくれる人がいない世界に、一人ずっといなきゃいけなかったら、それはどんなに寂しいだろう……。

 どんなに哀しいだろう……。

 フレイは、レーンをどうしようと思っていたんだろう……?



「お待たせしました」


 私が気が付いた時、朝の浄化は終わっていた。


 ……考えてて、朝日を見そびれちゃった。


 私がしょんほりしてたら、ジーンが口に軽くキスをした。


「……?」


 私はビックリしてジーンを見て、口をパクパクして気が付いた。

 

 ……そうだ、喋れなかった!

 

 私はピアスをはずそうとするが、出がかじかんでいてうまく外れない。ジーンは私の手に口付けた。


「……!」


 私が驚いているとそこが緑色に光り、かじかんでいた手が動くようになる。体もポカポカあたたかい。


 ……そうか、これはあれだ。二の王が作った唾液で発動する私専用のスクロールと同じ原理だ。最初のキスは魔力補給だったんだ。


 ジーンはそのまま何事もなく階段を下りていくので、私は慌てて追いかけた。


 ……待って!


 制御ピアスをしたままでも、強く思ったら通じたようで、ジーンは塔の階段の中程にある踊り場で足を止めた。

 私はジーンに追い付いて、慌ててピアスを外す。ジーンはよろけて、壁に手をつけた。


『私はここで気を付けなきゃいけないこととかある? 君が秘密にしたいのは、自治区の館の事?』

「そうですね、館の存在は誰にも言わないでください。まあ、言えないでしょうが。筆談もしないで」


 ……良かった。ザヴィアさんに字が書けないフリをしたのは合ってた。


 私はホッとして、ジーンを見た。

 ジーンは壁に背中をつけて座り、目を閉じている。私は座っているジーンの前にしゃがんだ。


『私は、ここにたどり着く前はどこにいたことにすればいい?』


 ジーンは目をとじたまま言った。


「それを言えない為に声を封じています。どうしても答えなければならない時は`サーが助けてくれて、サーの御下´にいたことに」


 ……それは、住所どこ? って聞かれて、地球の上って言うのと同じだねぇ。


 私はそんなんでごまかせるのかな? と思い首をかしげた。悪いことしてないんだから、ちゃんと王に相談すればいいのにね。


 私が困った顔をして笑っていると、ジーンが動いて私の頬に触れた。そのまま近距離で目が合うので、私の心音は跳ね上がった。


 ……目が、手が!


 ジーンは私の耳に触れる。たかがそれだけの事なのに、私の胸は軋んで悲鳴を上げた。


「……これ、頭部に触れてないと効力が無いんだな」


 ……なに? 何て言った?


 自分の心臓の音がうるさくて、よく聞こえない。私は閉じていた目を開けると、目の前に世界樹の石が見えた。ジーンはそれを私の額にくっつける。


「……爆音を立てる心音と息苦しさが消えた。幸の体っていちいち大変だなぁ」


 ジーンがピアスを持ってないほうの手で頭を撫でるので、私はジーンの手を押しやる。


『さっきから君は何をしているの?』

「これをつけようとしているよ」


 真顔でしれっと言う。だったら早くつけなさいと。

 ひとまずピアスは取り戻そうと、ジーンに手を伸ばすが、「針が危ない」とかわされた。


「今つけるから、動かないで」


 ……ひえっ


 ジーンの顔が近付き、また耳を触るので、私は肩をすくめて目を閉じた。


 ……ピアスの穴を開けてもらった時とか、人に耳に触られるのは何度かあったのに、どうして今だけこんなに胸が苦しいんだろう。


 しかし待てど暮らせどピアスを刺す感触が無いので、また目を開けると目の前にジーンの目がある。

 今まで、信とこんな近距離で見つめ合った事は無かった。信はいつも他所をむいていて、私の事なんて見てはいなかった。

 こうして真っ直ぐに自分を見てくる人は、レーンしか思いあたらない。目の前にいる人は本当に信なのだろうか?

 私が混乱してると、ジーンが言う。


「幸、ちょっと昔の俺のこと思い出してみて」


 私は頷いて、日本での信を思い浮かべた。

 幼稚園で、桜の花びらを頭にくっつけて笑う信。

 映画を見ている信。

 好物のスイカを食べて笑っている信。

 昼寝をしている信。

 一通り思い出すと、ジーンは頭を抱えた。


「幸さん視点の俺かわいいな……道理で弟とか言われる筈だ……くっ……俺こんなだったっけ……?」


 私はこくこくと頷く。

 ジーンは困って、私の髪をくしゃくしゃにする。私が心のなかで文句を言うと、笑っていたジーンの顔が近付いてきた。

 ジーンは私を壁に押し付けてキスをした。


「……!」


 一度口が離れ、ジーンは言う。


「コウ、目を閉じていて」


 私は突然の事に驚いて、文句を言おうとするが声が出ない。そしてまた口を塞がれた。

 ジーンは手で私の視界を塞ぎ、長いキスをした。

 私が力が抜けてへたり込む。ジーンはぱっと後ろに離れ、立ち上がった。ジーンはそのまましばらく階段に立ち尽くしていた。


『どうしたの? なんだかおかしいよ?』


 私が心のなかで話しかけると、ジーンは目を真開いて言った。


「自分がどんな人間だったのか、思い出せない……」

『えっ?』


 私はジーンが何を言っているのかが分からなくて、階段に佇み、呆然とジーンを見ていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ