表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
九章(ファリナ)
108/185

9-3、ファリナの生活2

 

 ピアスの穴を開けた時から外出癖がついたセレムは、昼間は殆どいなくて、夜だけ私の部屋に戻って寝ていた。

 セレムはジーンの朝のお勤めを見ると、毎日ふらりとどこかに飛んで行った。


 私は竜のお世話から解放され、日中は殆どメイド部屋に入り浸っていた。部屋で一人でいると暗いことしか考えないので、仕事があるのはとても心強い。

 今日も朝食後の休憩のお茶をありがたくすすりながら、かしましい女性達の会話を聞いていた。


 ここにいるのは二十歳以上の女性で、殆どがお城で寝起きしているらしい。城下町と違ってお城は寒くないので、就職先としてはとても人気があるとか。

 ここでの女性の会話の中心は恋愛話だった。

 なかには凄く生々しい男女間の会話もあって、私はびっくりして聞いていた。


「ねぇ、新入りちゃんは好きな人いないの?」

「……ひぇ」

「まだ来たばかりだし、こんな小さいんじゃ相手がいないでしょ」

「ねぇ、コウって何才なの?」


 集団での女性の会話にはいったことのない私は、震えながら下を向いて答えた。


「十五です……」

「エエッ?」


 部屋の皆が驚いて私に詰め寄った。

 

「十五って姫よりも年上じゃない!」

「なんでこんな小さいの?」

「胸とかお肉ついてないじゃない」


 そう言いながら触ってくる。

 私は抵抗出来ず、されるがままにもみくちゃにされた。


「ほらほら、新入りをかまってないで仕事仕事! こんな小さいのをいじめちゃだめだよ」


 ハノイに言われて、女性達は飲んでいたカップを手に、蜘蛛の子を散らすように持ち場に戻る。

 残された私は、机を綺麗に拭いて息を吐いた。


 ……フレイが体を貰ったとき戸惑った気持ちが、ひしひしと分かるなぁ……人付き合いは怖いし緊張する。


 私が台ふきを洗いに水場に行くとハノイがいた。ハノイは私の頭をぽんとたたいて笑う。


「あんたは食事が悪かったんだろ? 大丈夫だよ、アタシにまかせなさい。立派な女にしてやろうじゃないかい」

「りっぱなおんな……」


 私は真っ赤になって、ハノイにないしょ話をする。それはセダンでジーンに言われた事だ。ニンソン関係の……。


「えっ、あんたそんなこともしらないのかい?」

「ごめんなさい」

「いいよ、このハノイにどーんとまかせときな! 息子もいるし、アーヴィン坊からシェレン姫まで、何人も子どもをとりあげてきたからね!」

「よろしくお願いします!」


 よくわからないけど、たのもしさを感じて、拍手をしてハノイさんを褒め称えた。




◇◇


 セダンでもエレノア姫は逸話が多かったが、ファリナでも同じように語り継がれていた。

 姫と聞いて思い出すのは、清廉可憐なシェレン姫で、楽しそうにカウズの世話をしてる姿だ。

 しかし聞こえてくるエレノア妃の話はシェレン姫とは全然違った。


「あそこが、エレノア妃がお手製の弓で開けた穴です」


 門の兵士が、天井の高い所を指していう。


「祭りの踊り子が怪我をして、エレノア妃が飛び入りてで優勝を……」

「魔法学の権威を理論で返り討ちに」

「弓の大会に王に無断で出て優勝」


 ……どんな人やねん!


 思わず大阪弁でツッコミたくなってしまうほど、エレノア妃の話は多岐に渡っていた。


 ・眉目流麗

 ・文武両道

 ・成績優秀

 ・饒舌多弁

 そして、歩くびっくり箱!

 弓が得意だったようで、妃に弓を習ったという兵は、「上手くなったじゃないか、見違えたぞ」と、誉められたらしい。喋り方が男性っぽかったという。


 ……エレノア妃とセシルはどうだったのかな? セシルは恋敵とみなして妃と喧嘩とかしてなかったかな……? っていうか、そんなハキハキした人相手に、優しいセシルは怖じ気付いて何もいえないんじゃないかな?


 私は会議室で配膳の仕事をしながら、ぼーっと妃の事を考えていた。はっと気がついた時にはお盆を落とし、床に派手に食器をばらまいていた。


「……す、すみません」


 あわてて割れた食器を拾うと、案の定指を切った。


「いたぁ」


 セレムがいなくてよかった。いたら怒鳴られている所だった。セーフ。

 私が一安心していたら、頭の上から怒声が飛んできた。


『お前は手袋を常時つけといたらどうだ?』


 頭の上にセレムが乗っていた。

 いつもなら問答無用に「アホ!」と言い逃げだすのに、セレムも痛みに慣れたのかな?


『慣れんわ、アホー!』

「あっ、ゴメンね!」


 私はハンカチを傷にあてて、ギュッと押さえた。

 セレムに気をとられていたら、背後から黒いものが私の側を通過して、すれ違いざまに私の頭を触って行った。視界が一瞬赤く光る。


「……?」


 私は触れられた頭をさすり、その後ろ姿をじっと見た。その人は振り向かずに王座に行き、垂れ幕の後ろに入った。


『……あいつ、覚えんの、はえーなー』


 私の首に巻き付いたセレムが言う。

 私が「何?」と言って、手の傷を見ると、傷はすでに塞がって綺麗になっていた。


 ……あ、ジーンさんでしたか。


 お仕事中の初すれ違いでしたが後ろ姿しかみられませんでしたね。彼は信みたいに、どこにいるのかとか分からなくて悔しい。


 会議を見ていたら、ザヴィアさん達魔術師の後ろにジーンが立っていた。その顔はあまりにも無表情で人形のようだった。


「……遠いなぁ」


 私は今の信と自分の距離を心で図って、ため息をついた。



 私は妃の部屋に戻り、寝巻きに着替えた。浴衣っぽかったセダンの寝巻きとは違って、ヒラヒラフリフリ、布地が柔らかくて裾の長いネグリジェだ。まさにお姫様スタイル。

 中学の時なら嫌がって着なかったけど、最近きせかえに抵抗無くなった。というか、信の真似をする意味が消え去って、自分の服の好みが行方不明だ。


「……ヒラヒラのほうがジーンさん好きそうだなぁ」


 私はママとダンスしていた日を思い出して、妃の部屋で一人で踊っていた。

 暫く踊ると息が上がる。私は肩で息をしながら、体力が低下していると素で落ち込んだ。


「……運動しないとダメだなー。ここには長い坂が無い」


 私は日本で住んでいた家が坂の上にあったので、知らずと体力がついていた事に気がついた。前は一時間くらいならママに付き合って踊れたのに。


『……なにしてんだお前、暇なのか?』


 セレムが私の頭に乗っかってくる。私はセレムを腕に落として、抱っこしたまま踊るようにくるくる回る。


『……アハハ、目が回る……フワフワで愉快』

「人は運動しないと体力が衰えるのですよ」

『……ふーん、やっかいだな。あの魔術師とかさっぱり動かんから、早く死ぬかな? 楽しみ』


 私はセレムの口の悪さに閉口して足を止めた。


「魔術師の偉い人を悪く言ったらいけないよ」

『だってー、あいつ自分のことしか好きじゃ無いから、国の役にはたちそうも無いもん』


 ……自分大好き人間といえば父の隼人だが、あれよりかはマシなのでは?


「ね、毎日君はどこで遊んでいるの?」

『遊んでいるのではない。任務続行中だ』


 セレムは少し憤慨して抗議する。私はゴメンね、と、セレムのヒレを指でなぞった。


「それで、昼間はどこにいるの?」

『聖地に王を探しに行ってる』


 まさかの聖地!

 

「ジーンさんも、一緒に?」

『うん。あいつよく察してよく働く。ふらふらしてた一の王やお前と大違いだな』

「そんな、乗りごごちで比較されても……」


 私はセレムをベッドに置いて隣に座る。


「私もついていきたいなー」

『邪魔』

「もー、はやく成体になってよ、そうしたらジーンさんは自由になれるから」


 私が呟くが、セレムはもう寝ていた。


 ……疲れてるのかな?


 私は生えかけてきたセレムのヒレを指でそっと撫でた。


「おやすみなさい、セレム」


 私はライトを落として、闇の中に薄ぼんやりと光る白いヘビを見ていた。




◇◇


 昨夜はよく眠れなかった。私は明け方にベッドを抜け出し、ファリナで借りているワンピースに砂漠で作ったマントをかぶって部屋を出た。

 ここに来たときの記憶をたどり、地下に行く。所々に立つ兵隊さんに挨拶がてら道を聞きながら歩いていたら、迷わず来たときの扉にたどり着いた。

 私は扉の前に立つ兵士に話しかける。


「すみません、ここって昔は水竜がいたのですか?」


 扉の番兵さんは見知った顔だったので、邪険にされずに答えてくれた。


「そうだよ、よく知ってるね」

「立ち入り禁止なのですか?」

「他国へ通じる扉があるから鍵がかかっているよ、でも、竜がいないと他国へは行けないので番兵している意味はあまりないんだけどね」


 説明しながら兵士が笑う。


「ここを見学したいのですが、どなたの許可が必要ですか?」

「王と守護竜かな……あの黒いほう」

「……セシルの棲みか、ちゃんと見てみたかったな」


 私がしょんぼりしてると、兵士は背筋を伸ばして直立した。


「こんな時間にどうされたのですか?」


 兵士は槍を立てて敬礼する。

 兵士の視線を追うと、階段脇の通路にファリナ王が立っていた。


「竜の娘か、こんな夜中にどうした? 帰りたくなったのか?」

「眠れなかったので、セシルのお家をみたくて……」

「成る程」


 ファリナ王が近付くと兵士は道を開けた。ファリナ王は手に持っていた鍵をガチャリと回す。兵士が扉を開けると通路に冷気が流れてきた。

 ファリナ王は先に中に入り、私に手招きした。


「わしも、眠れないので涼みにきたんだ」


 私はファリナ王の後を歩いて、水竜の巣に入った。


「わぁ……綺麗」


 前にジーンとここを通過した時は、最低限の光しかついておらず薄暗かったが、今日は王がいたので、蒼い光のスクロールが多く点灯されている。魔法の光を反射して、水がキラキラと光っていた。

 沢山の氷の柱にその光があたって、プリズムのように水面を七色の光で照らした。その光景は幻想的だったが、ここに棲んでいただろうセシルを思い出して、私の涙腺は緩んだ。


「ファリナ王、セシルはいつもどこにいたのですか?」

「そっちのほうにいつもいたな」


 私は走って王の指さすほうに行ってみる。手すりのある段差があるので、私は階段を降りて、キラキラ光る水辺に行った。


「水に落ちるなよ」

「……はーい」


 王がぶっきらぼうに声を掛ける。私は王に向かって手を振った。


「ここですかー?」

「……そう、そこだ、いつもなぜかそこにいた」


 王が軽く片手を上げる。私は大きく手を振り返した。

 私は水に触れたり、暫くその辺を探索していた。セシルが言うには、王とふたりで会うときは大抵ここだったらしい。

 私は王と会えてしあわせなセシルを思って、鼻唄をうないながら、一人くるくると踊っていた。

 王は段差の手すりにもたれて、水面を見ていた。

 私は階段をかけのぼり、現場に来て気が付いた事を王に報告する。


「王、あそこにいると、天井の岩が反射して、王の声がよく響きました。だから、セシルはあそこにいたのですね!」

「そうか、三百年もそれに気がつかなかったな……」


 王は失ってしまったものを思い出し、目を閉じて悔やむ。


「なんで、あいつは我を選んだのだろう……」

「かっこいいからですよ!」

「は?」

「セシルは、国が守護竜を追放したときに、ショックで哀しくて氷になっていたのですって。そこに王が現れてセシルを必要だといってくれたから、一生ついていこうと思ったって言ってましたよ!」


 私は少し照れて、えへへと笑う。


「この話は百回以上聞かされていたので間違いないです」


 王はセシルの美しい姿を思って、水竜の巣を見ていた。


「一目惚れならこちらも同じだ。本当に美しい竜だったよ……人間の女がかすむくらいにな」

「だからずっとお一人でいたのですね」


 王は手すりにもたれて、フウと息を吐く。


「ザヴィアが余計なことをするから彼女を泣かせてしまったよ……失ってから後悔しても遅いがな、本当、後を追いたいくらいだ……」

「追ったらダメですよ!」

「……?」

「セシルは王の幸せしか考えてないんですから、王にはいつも幸せでいてもらわないとです。その結果、どうしてあんな口の悪いこが出来たのかは謎ですが、セシルですもの、ちゃんと考えているに違いないです。だから王は後ろを振り向かずにセレムをギャフンといわせてください!」


 国の守護竜への言いように、ファリナ王は苦笑する。


「また選ばれる自信はないなぁ……新水竜はがさつで、色気じゃおとせなそうだし」

「そこはもうびしばしと! とりあえずきちんと浄化するように言っちゃってください! ジーンさんでは浄化しきれてないですよ!」


 シュッシュッとボクシングのような素振りをする子どもを見て、王は笑う。


「……びしっと」

「そうです、びしっと。今度の水竜は簡単にへこたれませんよ。精神力特Aの最高振りだって、本人がいってました」

「それはたのもしい。まあ成長してからだな、全ては」

「そうね、まずは大きくなってもらわないと」


 二人で顔を見合わせてくすくす笑う。


「いや、すまん、なんだか気が楽になったわ。まさかこんな子どもに相談したとか、ザヴィアにはいえん」

「大丈夫ですよ、気持ちの上だけなら、この世界では私が最高齢ですからね。なんたって、世界が出来た日から見てますから。カウズ超えです。暗闇が天地に別れた時からですよ」

「……上には上がいるもんだ」

「体は十五ですが心は千才なのです」


 得意気に胸をそらす私の頭に、王はポンと手を置いた。その顔は少し戸惑っていた。


「十五……シェンより年上なのか……もうちょっとデカくならんのか?」

「もうちょっと伸びてくれるとは思います。ママは背が高かったのですが、父は背が低かったので何とも言えません」


 アハハと笑う私の頭をポンと叩いて、ファリナ王は入り口に向かって歩いて行った。私は慌てて王を追いかける。

 

「……ちなみに、異世界の成人年齢は?」

「はたちです。二十才で成人のお祝いをしますね!」

「成る程、ではそなたが子どもであることは変わらないな」


 ……結婚は十六で出来るけどね。


 思えば二十歳で成人って不思議だ。大学行ったらまだ学生だし、既に働いて家庭を持っている人もいるだろうし。勝手に大人と子どもの線引きされても困る話だ。


「まあいい、ザヴィアには年の事を言うな。面倒な事になる。しかし嘘はつかんように。年齢を聞かれたら未成年で通しておけ」

「……は、はい!」


 王は多分、シェレン姫に起きた面倒ごとを懸念したのだろう。子どもがいない世界にとっては、子どもを産める可能性のある若い女は貴重なんだな。

 ボーッと考えていたら王に置いていかれた。少しずつ消えていく光のスクロールのせいで、夜の給食室のような怖さがある。


「……人いないと怖い」


 私が慌てて扉に向かうと、岩につまずいて転んだ。


「痛い……」

「ひえっ?」


 誰もいないはずの洞窟から、男の声が聞こえて私は震えた。慌てて王の後を追いかけると、また転びそうになり、後ろから抱き止められた。


「ひゃああっ!」


 私が悲鳴を上げたので、扉の向こうにいた王と門番が振り向いた。王がこっちを見て笑う。王の視線は私よりも上に向いていた。

 

「おやおや、今頃帰還か?」

「時間ですので」

「……えっ?」


 振り返ると、後ろにはジーンがいた。

 竜の扉からファリナに帰って来たジーンは、私の頭に触れて転んだ怪我を治し、私を見ずに通り過ぎていった。

 私はジーンの後を追いかけて廊下に出る。扉から出てきた黒衣の守護竜を見て、王はニヤリと笑った。


「いい加減に城で寝たらどうなのか?」

「時間が惜しいので」


 ジーンは振り返らずに歩いて行く。置いていかれた私は、付いていきたくてオロオロしながら王を見た。

 

「竜の人って、夜寝ないんですか?」

「分からん。聖地で寝ているのかもしれん。ワシはあいつが寝ている姿は見たことがない」


 ……よく倒れてはいるけどね。

 

「あの人、聖地で何をしているんだろう?」


 ……そういえば書庫のジーンさんは聖地に出入りしていると言っていたな。セレムも聖地に行っているらしいし、何をしているのかな?

 

 ジーンの背中を見送りながら、うーんと唸る。

 そんな私を見て、王はニヤリと笑った。


「あいつは聖地生まれなんだ。自治区に知り合いでもいるのであろう」

「自治区って、銀の水が浄化されてないから空気が汚れてドロドロしてますよ? 守護竜がそんなところで何しているんですか?」


 浄化してやればいいのに! と、私は頬を膨らませる。

 王はそんな私の頭をポンポン叩いく。


「あいつに聞け。何を企んでいるんですか? って。なんか聞けたら教えてくれよ」


 守護竜と主の関係はもっと密なものだと思っていたが、お互い分からない所もあるらしい。

 それよりも、ジーンはこのあと浄化に行くはずだ。追いかければ確実に会える!

 私ははやる心を押さえて、王にお礼を言った。


「セシルの棲みかを見せて頂いてありがとうございました。私、これから竜の人の浄化を見てきます!」


 そう言って私が駆け出すと、王は私を捕まえて抱えあげた。


「……!?」

「まだ明け方には半刻ほど時間がある。肌着や防寒着を着込まないと、竜共に凍死するぞ」

「あー……」


 腰を捕まれて宙に浮いた足を、私はプラプラ揺らした。その様子を見て、門番の兵士は笑いを堪えていた。


「王、外に行かれるなら防寒の魔法をかけますよ」


 兵士の呼びかけに、王は私を抱き抱えたままうーんと考える。


「ワシはいらん、寒いからな。行くのはこの子どもだ。しかしさっきの黒いのが、異世界人に魔法をかけると魔力消費が多いとかぬかしておったぞ?」

「防寒くらいは問題無いのでは?」


 笑って言う兵士に、王はうーんと悩む。


「服を沢山着るから平気ですよ!」


 そう言う私は、普段着にフード付きマントを被っているだけなので、説得力は皆無だった。


「お前ここは朝までか? もうすぐ交代か?」

「夜明けまでですね、だから大丈夫ですよ」


 私の意見を無視して話は進んで行く。

 王は私を地面に置いて、その肩に手を置いた。


「ではやってみろ、倒れたら日の出までワシがここにいてやろう」

「倒れませんって!」


 私は背の高いファリナ王に肩を捕まれて、鎧を着た兵士の前に立たされた。私は緊張して唾をのんだ。


「……いきますね」


 兵士は私の頭の前に手のひらを向けて、赤い魔方陣を展開した。その光が私の体を包むが、私の体に何の変化も無かった。

 

「あれ? 不発? 陣に間違いは無かったのに」


 もういちど同じことをしようとする兵士の手を、私はそっと押し戻した。

 

「魔法の無い世界にいましたから、効きが悪いんです。無くて平気ですよ! お気にせず!」

「……?」


 兵士は自分に魔法をかけていて、それは成功していた。

 王は身を屈めて小さな私を覗き込む。


「面白いな、異世界人には魔法が効かないんだな」

「効きますよ! 傷を治して貰った事もあります」

「へぇ……誰に?」


 私は指を折りながら言う。


「黒竜と、水竜、地竜、アーヴィン王子のおつきの術師さん、あとさっきの黒い服の人も!」

「守護竜ばっかだな。しかも黒いのは治癒魔法もっとらんだろ」


 私はエヘンと胸を張る。


「セダンで地竜に教わってました! なので王がいつ怪我をされても大丈夫ですよ!」

「へぇー……」


 王はまた、私の頭を大きな手でポンポンと叩いていた。


「お前は守護竜が好きなのか?」

「はい、竜はみんな好きですが、守護竜はとりわけ好きです!」

「ふーん……守護竜に順番をつけるなら誰が一番かな?」


 私は満面の笑顔で断言する。


「断然セシルですよ? 虹色の鱗がキラキラして綺麗だし、歩いた時の音も素敵だし、なんといっても優しいですから!」

「奇遇だなぁ。ワシも同じ意見だ」


 ファリナ王は目を細めて私の頭を撫でた。


「守護竜はやはり後続ナンバーのほうがデザインが幻想的なのです。地竜は現実世界の恐竜につられて地味だし、火竜は岩そのものだもの。風竜から機能に合わせて装飾をいれるようになったのです。そのせいか、風竜と水竜は性格が女性的でした」

「へぇ……知らなかった。他の国の守護竜には会えないからな。ちなみに、No.5以降はどうなんだ? 残りは人の形をしているが」


 私はうーんと腕を組んで唸る。


「後続ナンバーはフレイは関わって無いのでよく分からないのです。でも双竜の竜体は見ましたよ! 白黒のパーツが半分に別れていて、六枚羽でとても綺麗でした」

「……じゃあ、No.7も竜になれるのかな?」

「いや、どーなんでしょーね? ちなにNo.8のフレイは変身出来ませんでしたよ。魔法も使えなかった……あ」


 私はため口になってしまい、パタンと手で口を押さえた。


「どうした?」

「すみません、私、竜の事だといっぱい喋っちゃうんです。王様相手に失礼かなーと……」

「…………」


 王は黙って私の頭を両手でかき混ぜた。

 私は驚いて、頭を押さえて逃げる。王はクスクス笑って、私に手を振った。


「浄化を見に行くのはいいが、倒れるなよ」

「はい! ありがとうございます!」


 そのままファリナ王は、ジーンとは逆の方向に去って行った。私は扉の前の兵士に、ペコリとお辞儀をしてその場を立ち去った。

 曲がり角を曲がり、王から見えなくなると、私はダッシュで自室に戻り、朝日を見に塔を上った。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ