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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
八章(セダン・再)
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8-9、セダン(終)

 

 セダン城の会議室にセダン王と兄たちか大きな卓に座っている。そこに、アマツチとアマミク、私、そして地竜、水竜、ジーンと全員が揃っていた。

 セダン王は一同を見回して話を切り出す。


「アマツチ、アスラの状況はどうだった?」


 アマツチは席を立って報告した。


「旧アスラ城は、三の姫の言うように紫の瘴気で覆われていました。火竜の要請により、瘴気の発生源であった紫の魔法結晶を探し出し消去したので、アスラ城の瘴気は消えたのを確認しております」

「おお、瘴気消してくれたんだ! ありがと!」


 ミクが喜ぶ声を聞いて、アマツチはクスッと笑う。


「南のアスラ城から北上して気がついたことは、アスラは五年前に比べて砂漠がかなり減っています。オアシスが増え、その周りには植物が見られるようになっていました」

「そうね、オアシス涌いたのここ最近よね、前はどこもカラッカラだった」


 アスラに住んでいたアマミクの同意を得て、アマツチは報告を続ける。


「北に行くほど緑は増え、アスラ北西には密林がありました。そこには建造物と放牧地や畑などが見られ、その周辺には魔物が多数生息しておりました」

「なんと!」


 一同驚きの声をあげた。

 アマツチは続ける。


「今、世界に人間の子どもは殆どいません。人口を統括する黒竜がいうには、アスラに人口が片寄っているらしいです。守護竜は単独では人口を増やしたり、町を建造するなども出来ません。しかし昨日、白竜と黒竜を統括する者がこの城を襲撃したと聞きました」


 アマツチがセダン王を見ると、王は頷いた。


「これは予測ですが、滅亡したアスラに、その者が魔物の国を造ったのだと思います」


 以上。と言って、アマツチは席についた。

 会場はしばらくざわめきがおさまらなかった。

 セダン王はコホンと咳払いをして、場を静めた。


「今回の魔物の襲撃は、負傷者はいるのものの死者はゼロなんだ。その負傷者も火事や家屋の倒壊で怪我をしたのもが多いと聞く」


 王の兄である将軍も同意した。


「魔物は徹底して民との戦闘を避けておりました。あれは何だったのか……」

「それはおとりでしょうね。他国への進撃は禁止されているから、手を出せなかった可能性もありますが」

「では、敵の目的は何だったのですか?」


 王はチラリと私を見た。

 

「恐らく、黒竜の奪還でしょう」

「……えっ」


 私は呆然としてセダン王を見た。


「黒竜はこの世界の人口を司っています。まあ不在期間が長すぎて、実質の働きはありませんが、人に分ける他国の命の光を魔物に流すには必要不可欠な守護竜だったのでしょうね」


 それを聞いて、私はカタカタと震えた。


「……私が、アレクをレアナから引き出したから、ここに連れてきたから、レーンはここに来たのですね。自分の契約した竜を連れ戻しに」


 その言葉を聞いて、地竜が補足する。


「王、こやつは守護竜を番号や役職でなく名前で呼ぶ。白はレアナ・マクリーン、黒はアレクセイ・レーン、レーンは邪神の名前でサー・ラ・レーンだ」

「……へぇ、オージン以外にも呼び名があるのですねぇ」

「竜の名前は魔女が勝手につけただけなので、殆ど定着しておらぬ。番号順にオージン、ジルヴァ、フィロー、セシルで、新しい水竜はセレムらしい」

「うちの守護竜の名付け親が魔女だったとか、知らなかった、妹が勝手に呼んでいると思っていた」


 王の言葉を聞いて、地竜はムスッとして答える。


「守護竜はシステムではないとアヤツが主張するからじゃ。ワシは何と呼ばれようが気にはせん。ついでに言うと国の名も四王の名も、主要な名付け親はあの女だ。言語も、文字もな」


 その場にいた一同が驚いて顔を見合わせた。セダンでは、魔女といえば悪役だと思われていたが、守護竜の口から創世に関与していると聞いて、一同は慌てる。


「……ま、セダンに来たあとアレはおかしくなったのじゃよ。邪神にそそのかされるようでは、あながち善とも言えんな」


 私は壊された国の守護竜の意見を聞いて、ごめんなさい、あの人も結構アホなんです。と頭を下げた。

 王は皆が落ち着くのを待って、話を続けた。


「双竜は、四国の民の誰もが契約できない決まりがあると、地竜が言っていたよ。アマツチ、その双竜を従えて、アスラで魔物を統括できる者は誰だと予測する?」


 アマツチは起立して、面倒くさそうに答えた。


「さっきコウが言ったじゃん、敵の大将はサーラレーンだと。地竜の言う、アスラの都を灰にした邪神だろ?」


 言うことを言うと、アマツチは椅子に座る。それを聞いた者は全員がざわついていた。

 セダン王は苦笑する。


「邪神とか、存在を聞いたことは無いんだけどなぁ……本当にいるんですか?」


 前から邪神説を唱えていた地竜が言った。


「旧セダンが滅びた時は肉体を持っておらなんだと聞く。アスラの浄化はここ二、三年の話だ。最近邪神のほうで事情が変わったのであろう」


 地竜の言葉を聞いて、私は胸を押さえて下を向いた。息苦しいのか、白いヘビが顔を出す。

 その事情とは、五年前の黒竜の帰還と、信がここに来た事だろう。レアナははじめから、レーンの体を探すことを目的に日本に来ていたんだ。


 フレイの帰還だけならアレク一人で十分だった。そこにレアナを向かわせたのは、きっと書庫のジーンとサーラジーンであるエディだ。

 書庫のジーンは自分の体をレーンに貸す事を許していたんだ、だから、レーンは信の体を信の許可無く使えるし、レアナは日本で執拗に信を狙っていたんだ。


 胸に白いヘビを入れて、会議室の机のすみっこに座っていた私は、ボーッとしながら会議を聞いていた。

 その私の顔を、地竜とジーンは見ていた。


『コウ、アスラにメグミクはいなかったぞ! 魔物がうじゃうじゃいただけだった』


 セレムが私の胸元から話しかけた。


「ねえ、セレム。自分の国土になにか建造されても、守護竜って気がつかないものなの?」

『普通は気付くな。人口も検索すればすぐにばれる』

「人嫌いの火竜がそんな検索しないよね」

『あいつ、一生引きこもる気だからな』

「蓋とかいらないよね、元から外には出ないんだし。なんで蓋をしたんだろうね?」

『さあな?』


 そこでアマミクが何か思い出した様子で私を見た。私は何だろうとアマミクの言葉を待つ。


「蓋、それよ! 火竜が自分でやったって白竜が言ってた! サーが滞在したお礼にとくれた結晶を火竜が巣の上で捨てたからそうなったって! これどうなの? 白竜って嘘つけるの?」

「えっ、レアナがそんなことを言ったの?」


 サーラジーンは実態が無いから、滞在したというならレーンだろう。そうだ、火竜の巣にあったのかまどや鍋や調理器具、あれは五年前にレアナが作らせたと言っていた。なら、五年前にレーンは信の体に入って、レアナと共に火竜の巣に滞在して、そのお礼に火竜に信の結晶を与えた? それが、赤の魔法と混じって紫に変化して蓋になった?


「……火竜の巣の蓋に誰も利点が無いのは、偶然から生じた事故だったから?」

「なぁにそれ、ゼンゼンわかんない」


 ミクが呆れ顔で私を見るが、私の思考を読んだのかオージンやジーンは理解したようで、お互い頷いていた。

 セダン王は会場を一瞥してパンと手を叩く。その場にいた全員がセダン王を見た。

 

「まあ、昨日の襲撃を見ても、邪神はセダンを害する気は無さそうだ。昨夜の目的は黒竜の奪還と自己顕示だろう。たとえ黒竜がこちらにいても、民は増やせない事を地竜から聞いたし、現状は変わらない。よって、当面は魔物への警戒を強めるとして、しばらくは相手の出方を見て対応する。それよりも今は、残された民の命を大事にしたい、以上」


 そこまで言うとセダン王は、入り口側に座っていた黒衣の男を見た。


「折しも今日はファリナから客人が見えている。名を名乗ってもらいたい」


 ジーンは立ち上がって一礼する。


「私はファリナ王の側近のジーン・ゲイルと申します。先の水竜に代わり、現在は仮にですがファリナを守護している守護竜です」

「竜?」

「人ではないのか?」


 会場にいる人はざわめいた。


『守護竜、No.7、そやつは聖地に放置してあった残りの竜だな』


 嘘がつけない地竜が竜であることを保証するので、一同は黙った。


「ファリナは先日守護竜を失い、大地の浄化が足りず国が荒れております。私の力では四国の守護竜の代わりにはなりません。ですので、此方に滞在している水竜をお返し頂けないかとお願いに参りました」


 会場の人は、ジーンと私を交互に見た。いや、私の胸元から顔を出している白蛇を見ていた。

 セダン王は苦笑する。


「水竜を連れているのはその娘で、セダンが水竜の処遇を決める事は出来ないよ」


 ジーンはセレムに聞く。


「水竜は、ファリナに戻られる気はありますか?」


 水竜は、私の胸元から這い出し机の上に移った。


『もう全国見てきたからな-、やっぱ、四の王はこの世界にはいねーわ。あの凍てついた国は、残った民だけでなんとかしねーといけないってこと。メグミクの力無しで終末を迎えること、覚悟しておけよ』


 私はセレムを小突いた。


「それはあなたの問題よ、あなた自身が覚悟しないといけないことじゃない!」

『アホか! 世界全体の問題だっつーの』


 子どもの言葉を聞いて会場には笑いがおきる。私は注目されて赤面した。

 ジーンは水竜に一礼する。


「では水竜は、我が国に戻って頂けますか?」

『あいよー』


 セレムが投げやりに呟いた。セレムの返答を確認して、ジーンは王を見て一礼する。


「我が国の水竜の崩御と再生にあたり、ファリナは一の王に多大な助力を賜りました。現在水竜がこうして再生しているのは、彼の力添えあってのことです。それにあたって、ファリナ王から感謝とお礼をしたいと申しておりますが、お受けいただきますでしょうか」

「……へ、俺?」

「そうだよ、セレムが元気なのは君のお陰だ、ありがとうアマツチ」


 お礼と称賛の拍手をアマツチに贈ると、会場も私につられて、アマツチに拍手をした。


「この機会に乗じて、ファリナはセダンへの国交を再会したいと思っておりますが、水竜が正式に王を選んでおらず、まだ我が国の情勢は落ち着きません。つきましては、提案にとどめておき、水竜の選ぶ新たな王がたってから改めて国交再開を求めたいと思っております」


 そこまで言って一礼し、ジーンは席についた。セダン王は一度頷いて席を立つ。


「大変喜ばしい事だ、是非受けたいと思う。しかし、交渉に竜のみを寄越している時点で、提案を手放しに受け入れることは出来ないよ」


 王はジーンの側まで来てジーンに言う。


「交渉には現在の王が立ち会うこと。それを、向こうの王に伝えてくれないか」

「はい、承りました」

「……あと」


 セダン王は席を立ち、ジーンに耳打ちした。


「……はい、承知致しました」


 ジーンは王と会場に頭を下げて扉に向かう。私もセレムを連れて、ジーンの後を追いかけた。

 二人が出ていったのを見て王が言う。


「あの子どもはあの黒い竜について行きそうだけど、アマツチと三の姫はどうするんだい?」


 アマツチは笑う。


「俺はもう、お役御免でしょ? あの子に頼まれたことは全部かなえましたよ」

「ほんと、よくやってくれたよ……、水竜、黒竜の再生、そしてファリナとの国交回復だもんな、よくやったな一の王」


 王の兄がアマツチを誉め、髭を触ってニヤリと笑う。

 セダン王は席を回り、アマツチの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。セダン王はアマツチの隣にいたアマミクにも声を掛ける。


「三の姫はどうされます? あの子どもについていかれます?」

「あら、私? 私寒いの苦手なのよね。それに、コウにはあの男がついているだろうし、ワタシつまらないわ」


 セダン王は、ミクとアマツチの後ろから二人を見ていた。ミクは足を高々と組み替える。


「このまま故郷に単身戻って邪神と魔物の国をもろとも焼き払いたい所だけど、邪神の体って大切なんですって、あの子に止められたわ。まあ邪神自らアスラの掃除をしてくれてるみたいだから放置でいいのだけど」

「……下手に姫が行ったら、また焦土に変わるからね、アスラ」


 軽口を叩くアマツチに、ミクは拳骨をめり込ませた。


「なので私暇なの。世界滅亡という非常時ですもの、用心棒としてでも置いてくれたら助かるわ。 私、棲みかもないし、配下もいないの」

 

 アマミクの態度は王に対しては失礼だが、先日の戦闘での活躍を思うと、それが彼女の魅力のようにも取れてかえって好ましく思える。


「三の姫、我が国を救ってくださって有り難うございました。今後もよろしくと言っていいかな?」


 三の姫は妖艶に微笑み、うやうやしく手を差し出した。

 

「よしなに……」


 セダン王はその手を取って口付けをする。アマツチはやれやれと肩をすくめた。




 ◇◇


 私は部屋に戻り、ここでの生活でたまった荷物の整理をした。

 姫の衣服を綺麗に洗って箪笥にしまう。寝具を洗ったり、干したりと、一日中掃除に明け暮れていた。

 着物は何着か作って貰ったけど、ファリナでは着られそうもないので置いていくことにした。

 私はミレイに貰った服を身に付け、あっちの世界の日用品が入ったリュックを背負った。


 廊下ではジーンが待っていた。

 ジーンは私の荷物を持つと、そのリュックをしげしげと眺める。


「なんか懐かしいな。向こうのアイテム」

「工場製品は形が歪みないよね。こっちのは手作り感あって、それもまたいいんだけど」


 ジーンはリュックを背負って、肩を上げる。


「しかし、こんなものを持って旅しているのか」

「砂漠スタートだったからね。今はお水が少ないから軽いよ、水筒一本分だけだもん」

「キャンプ装備なんだな。いつか中身を見せて」


 私はいいよと言って笑った。


「さっきの会談の最後に、セダン王は君に何て言ったの? 何か難しい事を言われちゃった?」

「いや、エレノア妃の死因を知りたいらしい。これはファリナ王に聞かないと分からないからね」

「……セダン王は本当に妹姫の事を気にしているなぁ。私も何回か聞かれたよ、エレノア姫の事」


 私は廊下を振り返り、姫の部屋を見て頭を下げる。


「……エレノア姫、ずっとお部屋を貸してくださってありがとうございました。長らくお世話になりました」


 ジーンは私の頭を引き寄せて、グリグリと撫でた。



◇◇

 

 深夜地竜の巣に人が集まっていた。

 地竜をはじめ、セダン王と二番目のお兄さん、ヨシナさんを先頭に、女官一同と食堂の人、そしてアマツチとアマミクと、セダン城で私が知り合った人たちが揃っていた。


「夜中に出発してすみません。夜明けには向こうにいないといけないので……」


 ジーンは転移の扉の前に立ち、集まった顔ぶれに詫びた。地竜がジーンに笑いかける。


「いいってことよ、事情は鑑みれるしな。仮の体は頼りないが、引き続き北国の浄化に励め」

「ありがとうございます」

 

 私は寝ぼけたミクに捕まっていた。


「……ミクさん、重い、重いよ」


 背中にミクを背負うと真っ直ぐには歩けない。うっかり転びそうになると、アマツチが支えてくれた。

 アマツチはすこししゃがんで、私に握った手を差し出した。


「君の母親の石、落とさないようにピアスにしたから、あっちでつけて」

「ありがとう、アマツチ、ほんと、ありがとう……」


 私はなんだか泣きそうな気持ちになったが、背中のミクさんが先に鼻をすするので、涙がひっこんだ。

 そして、すうすうとミクの寝息があたりに響いた。アマツチは苦笑して、「持つよ」と手を差し出す。私はアマツチにミクの世話を頼んだ。


「アマツチはちゃんとミクを捕まえたほうがいいと思うの、ミクさん、貴方のこと好きだよ」

「アハハ、俺は好き勝手やってる姫がいいから今後もほおっておくよ」


 私はプゥと頬を膨らます。

 

「王にとられちゃうよ?」

「差し上げる気はありませんよ?」


 アマツチは私を見て晴れやかに笑った。アマツチは私の耳に口を寄せる。


「コウちゃんこそ、ちゃんと捕まえておきなよ」

「……が、がんばる」


 ふんっと、気合いを入れる私にアマツチが抱き付いた。


「ああ、やっぱ、こどもの体温ぬくい…」

「やめて、セレム潰れちゃうし、ミクの髪の毛がからまるから。あなたミクさん背中にいること忘れないで」


 そんな別れの光景を、ジーンは扉の横で黙って見ていた。

 私は笑顔で皆に手を振って背中を向けると、ジーン目掛けて走った。


 地竜のレリーフが彫られている転移扉にジーンが手をあてる。すると扉は緑に光り、鈍い音を立てて扉が開いた。


「皆さん、お世話になりました。いままでありがとうございました!」

「元気でね!」「何かあったら戻っておいで」


 私は扉の前で集まった人たちにペコリとお辞儀をして、竜二匹と一緒に扉をくぐった。



◇◇

 

 セダンの地竜の巣から転移の扉をくぐると、一面の湖に出る。空はまったく見えず、天上は岩で覆われていた。どうやらここは地底湖のようだ。

 その湖に真っ直ぐにかけられている白い橋のような通路を、私とジーンは並んで歩いた。


「うわぁ、広い……」


 果てが見えないような広い地底湖を見ておお、とため息が漏れる。

 橋の周りには氷でできているかのような美しい透明な柱が沢山並んでいる。その橋に青く光る魔法の光がついていて、地底湖を美しく浮かび出していた。

 気温はひんやりとしているが、寒いという程でもない。


「ここは水竜の巣だよ」

「ここにセシルが住んでいたの?」


 ジーンはこくりと頷いた。


「わぁ……」


 フレイは一度もファリナに入った事は無いので、夢でも来たことがない親友の国だ。

 私はセシルの話していた世界に来たんだなと、胸を踊らせてセシルの巣を見学した。


 ……水、結構深そうだな、底が見えない


 通路に手すりはなく、転んだだけで簡単に水に落ちそうだ。じっと水面を見ていたら、ジーンにフードを捕まれた。


「落ちないように」

「ありがとう」


 目が覚めたのか、セレムは私の胸から飛び出して、飛び魚のように水面を跳ねた。そんな楽しそうなセレムを見て、フフフと笑う。


「幸、言っておくけど、ここでは俺……いや、私は無口で通しているからあまり話しかけないで」

「ん? キャラ作ってるの?」


 ……高校でびゅーみたいな。クールキャラなの?


「違う。そうじゃなくて、聖地で幸に会うまで感情があったことを忘れていたから、王もまわりの人も、私は喋らない竜だと思っている」

「それシェレン姫が言ってた! 君は王様の返事しかしないって! ふーん、意外……喋るワンコと言われていたのに」

「まあ、そんな感じで印象の悪い人で通してるから、知らない人のフリを頼む」


 それを聞いて、私はふふっと笑う。


「なるほど、中学校みたいにしてたらいいのね、君は知らない人……」


 ジーンはその言葉を聞いて立ち止まった。私はどうしたんだろう? と、顔を覗く。


「中学とか、懐かしいと思って……」

「私には去年の事なんだけど、どうして信の時間は五年も経っているんだろう?」

「向こうと、こっちの時間の流れが違うんじゃないかな?」

「同い年だったのになぁ……」


 そうして歩いていると、長い通路は終りに差し掛かり、白い階段の先に青い大きな扉が見えた。


「では、仕事モードに入りますね」


 そう告げるとジーンの顔から、ふっと表情が消えた。

 ジーンが扉を叩くと、扉の向こうから声がした。ジーンはしばらく扉に話し掛け、扉は外から開かれた。

 扉の先には槍を持った門番がいて、ジーンに敬礼をした。


「……小さいな、子どもか?」


 私は頭から足までスッポリとフード付きマントをかぶっているので、はた目からは歩くてるてる坊主みたいに見える。

 兵士はいぶかしげに私と私の頭の上にいるヘビを見ていた。


 ……これは何か言わないといけないのかな? 身分証とか持ってないけど、どうしたらいい?


 困っていたら、ジーンが紙を取り出して兵士に見せた。


「王の命令により、セダンから水竜と来客をお連れしました。これが証書になります」

「あっ、えっ? これ水竜!?」

『頭が高い!』

「ひぇっ!」


 セレムがふざけて心話で怒鳴ったので、兵士は飛び上がって驚いた。でも訓練されているのか、すぐに体勢を戻し、ビシッと敬礼する。

 私は門番さんに頭を下げて、扉を通してもらった。

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