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消えた幼馴染みを探しに異世界転移します  作者: dome
八章(セダン・再)
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8-4、動乱

 

 日は暮れ、辺りは薄闇に包まれる。

 普段は夜も賑やかなセダン城だが、アマツチが不在のためか今夜はいくぶん静かだ。


 私は猫の姿のアレクを連れて地竜の寝床に行った。

 黒竜が成体になっていた事がヨシナさん経由で王に伝わり、頼みたいことがあるらしいと言伝てを預かった。

 地竜の巣は地下深くにある。

 聖地神殿の螺旋階段とは違い、ビルの階段のような石の階段を下りる。

 フレイの夢ではこの階段を上がっていた。だとしたら、牢屋も地下にあるということだ。


 ……国の守護竜の巣の側に牢屋って危なくないのかな?


 なんて事を考えていたら、広い部屋に出た。

 そこには槍を持った兵士がいて、扉を守っている。その人に聞くと、この奥が牢屋で、地竜の巣はさらに下にあるらしい。


 ……エレベーター、エレベーターがほしい。西の塔みたいなものをつけて。


 くだりはよい、しかし帰りにここを上るのが地獄だ。なんて事を思って階段を下りていたら、辺りの景色は変わり、岩をくりぬいたような洞窟に出た。


「神殿の地下もこんな感じだよね、セシルは鍾乳洞っぽいところにいたのよ」

「ニャッ」


 寂しさ紛れに口に出したらアレクが答えた。私はそのままアレクに話し掛け、怖さをごまかしつつ、地竜の巣を下りた。

 最奥っぽい洞窟の終点で、地竜は座り込んでうーうーと、唸っていた。


「どうしたの? 具合が悪いの?」


 聞くと地竜は振り返り猫を見た。


「おぬしはいつまで獣のふりをしとるのか」


 アレクはぱっと成体に戻り、そして高みからちいさな地竜を見下げる。


「……この姿は重い。それに、好んで老人の姿を常としているNo.1には言われたくない」


 ……ああそうか、地竜は老化したのではなく、好んで老人のふりをしてたんだね。


 地竜が「ケッ」と言って、言葉を返す。


「自分の足で歩け? 嘆かわしい」

「事情がある」


 アレクの言う事情とは、青年の姿でいると、私が挙動不審になるからだろう。小さなアレクを抱っこさせてくれるのも、撫でるのを嫌がらないのも、私がそれを好んでいるのが伝わっているからなのだ。

 何も言わないけど、アレクはいつも最大限に優しい。それをありがたい事だと、私はサーに心の中でお礼を言った。


「ファリナから、扉の解除要請が来ておるのだが、何かに引っ掛かって開かんのじゃ」

「向こうから閉じられている。あちらから解錠するしかない」

「お主暇じゃろ? 北へひとっ飛びしてこい」

「断る」


 この二人は仲良くないなぁ……。

 剣呑な空気を感じて、私は苦笑した。


「騒いで邪魔しちゃったら悪いので、私は部屋に帰りますね」


 私がそう言うと、アレクが振り返り私を見た。私は「バイバイ」と、軽く手を振る。アレクは不本意そうに目を閉じて、老人に向き直った。


 ……復帰後の初のお仕事だね、がんばってね。


 私は心のなかでアレクを応援をして、部屋に戻った。



 私は寝る準備を終えて、短い浴衣のような寝巻きに着替えた。壁に設置されている光の魔法を消す。すると、真っ暗になる筈の室内が一瞬微かに光った。


「……何か光った?」


 私は窓辺に行き、木の扉の鍵を外し開いた。窓の外はいつも通りの光景で、満月に照らされた庭園が見えた。


「光ったのは、雷とかだったのかな?」


 私がベットに戻ろうとしたとき、城内がざわざわと騒ぎはじめた。


「魔物が表れたぞ」

「南の空だ」

「空を飛んでいる、矢を放て」


 私は窓に移動して南の空を見た。南の空は赤く光っていて、その夜空を何か黒いものが動いて見えた。


「あれが、全部魔物なの?」


 私が部屋から外に出ようとすると、部屋のドアが乱暴に開き、ミクが入ってきた。


「コウ、あんた大丈夫?」


 短い浴衣みたいな寝間着の私に対して、ミクさんは砂漠でお馴染みの、赤いノースリーブのドレスを着ていた。しかも、ちゃんとズボンもはいてた。ミクさん偉い、美人!

 私が心のなかでミクを褒め称えているとミクが部屋の中を見回す。


「黒猫はどこへいったの? なんかいないけど」

「アレクはオージンさんの所、なんかお仕事してるみたい」

「外になんか来たみたいだけど、あんたは絶対ここ出ちゃダメだからね? あんた何の役にも立たないし、ケガしたら竜がうるさいからね。ちゃんと隠れてるのよ」


 ……何が起きたかを知りたいのに、外に出る事を止められてしまった


 ミクは水瓶に布を浸す。


「もし城が燃えるようなことがあったら、これ被って地下にいくのよ? ケガしないようにね」


 ミクは水瓶ごと布を私に渡すと、窓から飛び出していった。

 私はアマミクがくれた濡れた布に触れる。


「ミクさんなのに、細かい気配りを……」


 砂漠でやみくもに大剣を振り回していたミクが、街で人に触れて、こんなに変わった。私はミクの成長を親のような気持ちで噛み締めていた。



 ◇◇


 二階から庭園に飛び出したアマミクは、真っ直ぐに南の城門に向かう。途中セダン兵が見えたので、見晴らしのよい、足場が安定している所を教えてもらい、城壁を一息にかけ上った。


 辺りに燃えるものが無いのを確認し、アマミクは背中から燃え上がる大剣を出して、石の床に刺す。そして、仁王立ちで敵を目視した。


 空からは多数の羽のついた魔物が飛んで、セダン城に向かってくる。それは翼竜といったよくみるものから、二足歩行の野獣にコウモリの翼がついたもの、虫のような羽や、植物のような触手を持つものなど、今までに見たことがない魔物がたくさんいた。


「あのセンスに覚えがあるなぁ。犬に羽をつけたやつが作ってるかも。もしかして、アスラで増えている人口とやらはこういった新種の魔物達なのかしら」


 ……だったらあれらは、私の国民ってこと? あらやだ私魔物の王?


 アマミクは不敵に笑う。


「王の許可なく私の国に居座る子なんて許さないからね」


 アマミクの剣が篝火のように赤々と燃え上がった。



◇◇


 三の姫アマミクが灯す火は、兵士の心も照らした。

 兵士は町に下りようとする魔物を弓で落としていく。

 大きな体躯の魔物には、三人がかりで大きな弓をあてた。

 魔物の数の多さに数匹は射ちもらし、魔物は城にたどり着くが、城に取りつこうとする魔物は、三の姫の炎で焼き払われた。


「ごめん、消火おねがいね!」


 壁から壁を飛び交う三の姫は、下にいる兵士達に声を掛ける。兵士達は、水と土を運び、三の姫が打ち落とした魔物の死骸にかけた。



◇◇


「……しかし、すごい数の魔物だなぁ」


 セダン王は遠くが見える魔術具を目にあて、城のテラスから南の空を見ていた。


「地面や城壁には地竜が魔物避けをしこんであったけど、空から来るとはねぇ、魔物もやりますねぇ」


 のんきな王に、領南を治める兄が呆れていう。


「こんなときに敵を誉めるな」

「兄上、あれ魔物ですよ? あの数と統率された動きはもう軍隊と呼んでも差し支えないですよね? この世界の国同士の交戦は禁じられているので、我が国初の戦争ってことですよ?」

「お前、ずいぶん楽しそうだな……」


 目を輝かせて笑う弟に、兄は呆れて頭をはたく。

 セダン王は国の地図を広げて、色がついた石を地図の上にばらまいた。

 黒い石を魔物、青を長男の軍、赤を次男、緑は自警団で城下町に配置させる。黄色は隣に立つ兄の色にして、城壁の外に置いた。

 石を並べるうちに気分が高揚してきて、部屋に王の鼻唄が響いた。



 この世界の国境は守護竜によって厳重に管理されている。

 セダンの国籍を持たない者が国内に侵入すれば、地竜に察知され、国境兵に追われることになる。場合によれば守護竜が直接処刑をすることもある。

 魔物も同様に地竜の監視下にあるはずなのに、守護竜の察知をすり抜けて、国境からかなり遠い、王都に侵入されている。


 セダン王は南門の側の黒い石を指した。


「南門の近くに転移陣を設置されたかな? だとすれば敵は、守護竜並の魔力と権限があるということですね」

「……守護竜並?」

「そう、転移陣ってコストもさることながら、座標の計算がとても手間がかかるんですよ。そして設置するにはその国の守護竜の許可が必要です」

「じゃあ、地竜が許可をしているということか?」

「それは聞いてませんよ、オージン老が魔物の侵入を許可するはずもない」


 では誰が許したんだ、と憤慨する兄に、セダン王はニコリと笑った。


「神か魔王か異世界人でしょう」

「……は?」

「地竜よりも権力があるもの、もしくは、この世界の規約に縛られていないもの、でしょうね」

「では、あの子どもが引き入れたということか?」

「それは無いでしょうね、あの子どもが複雑な魔方陣を展開することは考えられません。可能性が高いのは邪神ですよ」

「……邪神?」

「初夏にあった魔物の農村襲撃事件ですが、その魔物が邪神の供物を求めていたらしいです。その邪神が直接ここに略奪に来た可能性がある」


 セダン王は、セダン城下町の地図を広げてある机に手をついた。


「私は魔物って、個々で生きている野生生物だと思っていたのですよ。それが、種族を越えて徒党を組み、地竜の網を飛び越えてくるなんてすごすぎます。それがこの世界のルール内で運用出来るなんて面白いじゃないですか。戦争みたいですよ!」

「お前な、遊んでいるんじゃないぞ?」


 興奮気味の王をなだめるように、ヨシナがお茶を置く。


「坊っちゃん、面白いがってないで作戦を考えなさいよ」

「はいはい」


 お茶を片手に、セダン王は楽しそうに兄たちの布陣を敷く。


「城門では伝説の王が敵を払ってくれるから、弓が不得手な兵には消火をさせましょう。長兄は城で三の姫のおもり、中の兄は自警団を率いて城下の消火、あなたは商人ギルドと共に街道の警ら。魔術師を連れて敵の侵入経路を探し出しなさい。あとは町にも特別警戒を発令して、動けるものは消火を、病人や怪我人は地竜の巣に隠れて貰います。城のものは看護の準備と民の誘導をお願いします」


 側で聞いていたヨシナが呆れて言う。


「……坊っちゃんは何をするんで?」

「私は戦いのお役には立てないので、ここから指示を飛ばしますね。既に城下に出ている長兄に、定期的にテラスを見るように伝えてください、皆様よろしく御願いします」


 セダン王は楽しそうに微笑んだ。



◇◇


 三の姫が百を越える魔物を焼き払ったとき、空の上から白く光る鳥が表れた。白く耀く白鷺は、城の屋上に優雅に舞い降りた。


 それを見たミクが壁を飛び越えて上にいく。ミクが屋上にたどり着くと、そこには鳥ではなく、真っ白な女がいた。

 引きずるほど長い真っ白な髪に、前髪は左右に分け、顎のあたりで鋭角に切り揃えている。瞳と唇は血のように赤く、見目麗しい女だ。


「三の姫……というより、火花娘ね。お久しぶり……私の相方を返して貰いにきたわ」


 白い女は長い髪をかきあげて、優雅に微笑んだ。

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