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朱音が急いで着替えてリビングのドアを開ければ、入ってくるのがわかっていたようにソファー近くから冬真が笑みを浮かべ近づいてくる。
家の中なら上はシャツだけの時が多いのに、今日はカジュアルな明るい青のシャツに紺のジャケット、明るめの茶のパンツ姿。
イギリス貴族のご子息がプライベートでおでかけ、という感じがする。
そんな姿を見て、念のためワンピースに着替えておいて良かったと朱音は心の中で自分の選択を褒めた。
冬真は朱音の前に来ると穏やかに微笑み、朱音の胸が異様に高鳴りだして戸惑ってしまう。
「お手をどうぞ、お姫様」
手のひらを上にした状態で前に出され、朱音は条件反射でその上に右手を乗せてしまい慌てて手を引っ込めようとしたら、きゅっと大きな手が逃さないように力を入れた。
「この僕から逃げようなどとは、もう二度とお考えにならないことです」
朱音の前に顔を出すようにして冬真がにこりと笑う。もちろん手は掴んだまま。
ここはもしかしてイギリスで何か夢でも見ているのだろうか、あれだ、いわゆる転生もの的な。
目の前の麗しい人が綺麗なグレーの瞳で見つめてきて、お姫様、なんて呼んでくれば現実なのかと疑ったって仕方が無い。
そうまるであの時の王子様が目の前に・・・・・・。
朱音は冬真を見たまま今駆け抜けた感覚に困惑した。
もうおぼろげになりそうな彼の顔や姿を必死につなぎ止めているが、何故か冬真とあのロンドンでの王子様が重なって見える。
髪の色も、目の色も違うというのに。
いや、目の色は一度青くなったのを見たことがある。
でも普通目の色が変わるなんて事は無い。
朱音は彼のことが忘れられず、冬真と無意識に重ねてしまっているのか自分自身でもわからなくなるが、ついその疑問を口にしてしまった。
「冬真さんってロンドンに行ったことってありますか?」
唐突に聞いてきた朱音の顔も声も怖々聞いているのがよくわかる。