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「口を開けて」
朱音がわからず口を開けた途端放り込まれた何かを思わず咀嚼すれば、チョコレートの甘い味が口に広がりとてもほっとする。
「何かアレクに軽食を用意してもらいましょう。
僕も小腹が空いてしまって」
くすくすと笑うチョコレートを放り込んだ張本人が優しく言うと、朱音は恥ずかしさと怒りたい気分が混ざったような複雑そうな表情をした。
「そうそう、7月2日の夜は空いてますか?」
「え?あ、はい」
朱音が部屋に戻るためにリビングを出ようとしたとき冬真が声をかけ、朱音は不思議そうに振り返り返事をした。
「その日、朱音さんの誕生日でしょう?
考えてみればウェルカムパーティーもしていませんでしたし、健人も参加するのでここでみんなで夕食にしませんか?
もちろんケーキも用意しますよ」
「良いんですか?!」
「彼氏とご一緒じゃ無ければ是非僕たちと」
「いないって知ってて言うの、酷いです」
「もし当日までに出来た場合はこちらをキャンセルして構いませんからね」
「しませんっ!っていうかありえないです!」
むっとしたように言っているが朱音は嬉しそうで、部屋に戻ります!と言ってリビングを出て行った。
「朱音さん、部屋に戻りましたよ」
そう言って氷が小さくなった冷茶を飲んでいると、冬真の後ろ側にあるダイニングへのドアが開き、そこに健人が腕を組んでもたれかかった。
「何ですか?ずっとそこから怖い視線送っていましたが」
「随分上手く誘導したな。
あいつはお前を余計に優しい人間だと誤解してしまっただろうが」
健人はかなり早い段階でダイニングの扉を少し開け、ずっと話を聞いていた。
二人の座るソファーからはダイニングへのドアは後ろになるため見えないが、冬真はずっと健人が聞いていることにもちろん気が付いていた。