18
「父は私が大学に進学するのを反対しました。
ですが母と進学を約束していたし、せめて短大は行きたいと言いましたがなかなか許してもらえず、奨学金で行くこと短大を卒業したら見合いをすることを条件に逃げるように父を一人置いて実家を出ました。
短大に通っているときの仕送りはもらったのですが社会人になれば返せと言われていたので、今しているのは父への仕送りと言うより無利子で借りたお金を単に返しているだけです。
父が、自分の給料が高ければ、ずっと最初の会社に勤めていれば、母を勤めに出さず過労死させることも無かったと責めているのかもしれないと思うと、見合いの話しが来ても最初からは断る勇気なんて無くて。
だから冬真さんの話を聞いて、正直どうしていいのかわからないんです。
こうやって贅沢なほどしてもらっていて、たったそれだけのことを嫌になってた自分が情けないし、私がいて冬真さんは辛い過去を思い出し苦しい気持ちでいるのかと思うとその・・・・・・」
朱音が夜一人で帰ることを許そうとしないのには何か理由があるとは思っていた。
だがこんな話を聞いて冷静になって考えれば、自分はしてもらっていることばかり。
父親の束縛は朱音のその後の人生を朱音の意思に関係なく決定してしまうことだが、冬真の行為はあくまで一人で帰ってこないで欲しいと言うだけで、何時に帰宅しろというものではない。
小さく感じていた違和感が、今日同僚に指摘されたことで不満に思っていたことに気が付き、冬真が迎えに来たことで一気に父親からされている行為に結びつけてしまった。
朱音は話しながら自分がどう思っていたのかを初めて気が付いた気がして、どんどん自己嫌悪に陥っていく。
「朱音さんは優しすぎて心配になります」
おずおずと朱音が顔を上げて冬真を見ると、何故か困っているようだった。