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美しいグレーの瞳はただの綺麗なガラス玉の様で、そこには何も映っていない感じがする。
「彼女は、日本は楽しい、安全だ、と言っていました。
確かに日本は諸外国に比べ遙かに安全です。
でもあまり男性が優しくても信用しすぎないこと、それと遅い時間に帰ったりしないようにと伝えていました」
冬真は話しながら前を向いている。
「そんな矢先、彼女の父親から連絡が来たんです、『日本で娘が殺された』と」
びく、と朱音の身体が強ばる。
見ていた冬真の横顔が一瞬別人かと思うほど、全ての表情が消えたように見えたからだ。
「彼女は大学の友人達と食事をした帰り、何者かによって殺害されました。
事件が起きたのはおそらく夜の八時半頃。
現場が住宅街ということもあり目撃者も無く、未だに犯人はわかりません。
日本ならそんな時間はまだ安全な時間帯だと言えるでしょう。
僕も危ない遅い時間とは終電近い時間のことを言っていましたから。
だからあんな時間に彼女が事件に巻き込まれたことは、日本は安全だと信頼していた常識が崩れ去った瞬間でした」
冬真が時間が早くても一人にさせない理由がわかった。
わかったが、それだけなのだろうか、という疑問を朱音は抱いていた。
それが何の違和感なのかはわからないが。
「どうしても、彼女に早い時間でも注意すべきだと言わなかったのか、誰かと一緒なら、誰か迎えに行っていたらあんなことには、と思ってしまうんです。
だから朱音さんがこちらに来たとき、家主である以上僕が朱音さんの安全を守る立場になったのだと思いました。
何かあっては朱音さんのお父さんに申し訳が立ちません。
最初に魔術であんな怖い目に遭わせておいてと思われるでしょうが、魔術的なものならある程度防御することは出来ます。
朱音さんには既にそういった対策は取っていますが完全に防げる物ではありませんし、魔術などより人で守ることにこだわってしまったのは、またあの後悔を味わいたくないという僕自身の勝手な気持ちからで、結果的に朱音さんの自由を縛ってしまいました。
今後は一切なくします。
本当にすみませんでした」