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「少し、リビングに行きませんか?
きちんと朱音さんと話しがしたいんです」
朱音は俯いたままだったが、少しして頷いた。
リビングに来ればすぐに何か持ってくるアレクは入ってこない。
ソファーで冬真と朱音は少し離れて並んで座っているが、朱音は下を向いたままで冬真はそんな朱音に声をかけた。
「声を出さなくても良いです、可能なら僕の質問に答えてはもらえませんか」
冬真の声は静かで怒りを含んでいる物でも無い。
それがわかっても朱音は俯いたまま、どうしていいのかわからず黙っていた。
「さっきの彼とあの後デートの予定だったのですか?」
再度同じことを聞いてきた冬真に、朱音は首を横に振る。
「では、僕があそこまで迎えに来たのが嫌でしたか?」
朱音は俯いたまま、膝に置いた手がきゅっと握られるのを冬真は気づいた。
朱音は何も答えず、冬真は質問することも何も言うことも無く沈黙が続く。
カチカチとリビングにある置き時計の音が妙に頭に響くようで、朱音はこの沈黙が怖くて仕方なかった。
「こんな勝手な質問をするのではなく、僕が謝るのが先でしたね」
冬真はそう言って朱音の方に身体を向けると、
「朱音さんの自由を縛ってしまい、申し訳ありませんでした」
そう言って頭を下げた。
俯いていた朱音はその行動に驚き思わず顔を上げる。
「い、いえ、私が」
「朱音さんが謝る必要はありません。
見苦しいのですがそんなことをしてしまった理由を、聞いてはもらえないでしょうか」
いつもの優しい笑みは消え、冬真は朱音の顔を見た後、少し間を置いて口を開く。
「昔、僕の友人が帰宅途中に殺されました、この日本で」
突然の冬真からの言葉に朱音は目を見開いた。
「何年か前になりますが、殺された彼女はイギリス人の親戚で、僕がハーフということ、日本にいたこともあったので、よく日本の素晴らしさを話したりしました。
彼女は元々日本文化やアニメなどが大好きで、大学生の時、日本に短期留学をすることになったんです。
その時僕は既にイギリスで仕事をしていたので、時々連絡を取るくらいでしたが」
ただ淡々と話すのをみて、朱音は何か怖い、と感じた。