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さっきまで朱音と男が密着していても周囲は無関心だったのに、女性達は皆冬真が気になるようで一斉に視線を向けている。
「知り合い?」
男に聞かれ、えっと、と口ごもっていると目の前に冬真が来た。
平川は割と自分を悪くないルックスだと自覚しているし持っている物もブランド物なのに、目の前の男はそういう物を超えた印象を持つ。
なにより近づいて初めて気が付いた、自分より目の前の異様に顔の整った男の方が遙かに背が高いことを。
外国人なんだ、身長が高いのも普通だろうと平川は自分を納得させた。
じろじろと不快な視線を平川が冬真に向けても、冬真は変わらず笑みを浮かべている。
「僕は朱音さんの保護者みたいなものです。
送ろうとしていただきありがとうございます。
後はこちらが引き受けますので」
終始笑顔で答える冬真に男は最後、ふぅん、と小さく呟いた。
間違いなく良い品々に身を包んだ美しい男が、わざわざ飲み会の場所までこの女を迎えに来ている。
簡単に持ち帰れそうだと思って声をかけたつもりだが、そんな女なら余計に落としてみたいという気持ちが男に沸いてきた。
「相良さん、また改めて食事でも。
これ名刺。俺のメアドと携帯も載ってるから連絡待ってるね」
そう言って鞄に入っていた名刺入れから名刺を一枚引き抜いて朱音の手に置くと、じゃぁと去って行った。
朱音がぽかんと名刺を持ったまま立っていると、冬真は知られぬようこっそりため息をつく。
朱音が男の意図を理解していない様子を見て、簡単に誘い出されたことは容易に想像がついた。
そして自分がわざとらしく牽制したのに、怯むこと無くわざわざ名刺まで持たせるあたり、草食系男子が多いこのご時世に珍しく肉食系の男なのだろう。
度胸に加え女慣れしている点でも、すれていない朱音など一瞬で食べられそうだ。
店まで迎えに来て本当に良かったと冬真はしみじみと思った。