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朱音がそろりと鞄からスマートフォンを出してみれば案の定冬真からLINEが届いていて、残業ですか?迎えに行きますよ、という内容を見て心が痛む。
朱音は迷った後、急遽飲み会に誘われ連絡できなかったことと、飲み会の場所だけ書いて急いで送信する。
なぜなら声をかけられ、それ以上書くことが出来なかった。
「相良さんだっけ?」
「あ、はい」
「俺、平川。こんなに人数いたら覚えてないよねー。
相良さんって酒苦手なの?さっきからウーロン茶しか飲んでないし」
気が付けば平川と名乗る男が隣に来て笑顔で話しかけてくる。
朱音とそんなに年は変わらなそうだが、自分はモテるというオーラがチャラさを引き立て、話し方からしても女性の扱いに慣れているようだ。
おそらくイケメンなのだろうが、この人が笑うのと冬真が笑うのでは天と地も差があるのは何故だろう。
きっと格好いい人なのになんでこんなに安っぽくなるのか、朱音は真面目にその理由を考えていた。
平川が少しくらいと酒を勧めてくるので、すぐに酔って気持ち悪くなるんです、と答えれば、可愛いね~と言われた朱音が恥ずかしそうな困ったような表情をしたのが男の何かをくすぐった。
朱音が内心、可愛いと言われたのに、冬真に言われる場合とこんなにも感じ方が違うんだな、などと酷いことを思っていることなど露にも思わずに。
平川は軽く笑うと、朱音に顔を近づけ小声で声をかける。
「俺、もう帰ろうと思ってるんだけど一緒に出ない?」
「そうなんですか?私も早く帰りたいので助かります」
冬真のことが気になっている朱音からすれば渡りに船だ。
男は、そうしようというと、壁のハンガーに掛けてあるスーツのジャケットを着て財布を出している。