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「・・・・・・くしゅん!」
「風邪か?」
洋館のリビングで本を読んでいた冬真が突然くしゃみをしたので、サンルームのお気に入りソファーに座りながらタブレットでイラストの下書きをしていた健人が声をかける。
「多分朱音さんが僕の噂をしているんです」
「なんだそりゃ。
そういや今日、朱音は友達と会ってんだよな」
「そう言っていました。
誕生日も近いのでそれを兼ねているのでしょう。
朱音さんは普通に友達と会うだけのつもりで出かけたんでしょうが」
「・・・・・・おい、誰の誕生日だ?」
「朱音さんですよ」
本を読むのを再開しながら冬真が答えれば、健人が驚いた顔をして冬真を見た。
「いつだ?」
「7月2日です」
「すぐじゃないか!
なんでお前は知ってんだよ」
「大家なので」
未だに本に視線を落としたまましれっと答えた冬真に、健人の頬が引きつる。
「お前のことだから既にプレゼントとか用意してんだろ?」
「もちろん」
健人のイライラしたような声を聞いても冬真は気にせず本を読んでいる。
「・・・・・・お前、朱音と二人だけでどっかに出かけるつもりだったな?」
その言葉に初めて、冬真は本から視線をゆっくりとあげて健人を見た。
「ん?健人も混ざりたいですか?」
にっこりと微笑んだ冬真を見て、健人は嫌そうな顔をする。
朱音の前では優しい人ぶって朱音も信じ切っているようだが、こいつの性格は本当にねじ曲がっていているとしみじみ健人は痛感しながら、ふと朱音の誕生日を思い出し23歳だと言ったことから生まれた年を逆算して、その生年月日に覚えがあった。
『彼女』の事件があった後、しばらくして冬真が言ったのだ『同じ生年月日の女性と条件が揃えばもしくは』と。
それが何を指すのかはわからなくても、あの時の冬真の目が忘れられない。