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そんな朱音を見て冬真は優しい顔をするので、朱音も怒るに怒れない。
「僕の魔術師としての仕事の一つには、害を及ぼすジェムの情報を収集したり回収することもあるんです」
「あれは幸運を呼ぶ宝石じゃないんですか?」
「主役を取れたからそう思ったんですね。いえ、違います。
彼女は自分の将来にうける幸運を前借りしたのです、それも他人の幸運を削って。
本来あの主役は加藤さんが実力で叶えたものです。
それは色々な幸運で成り立っているものでもあって、それをあのジェムで曲げてしまいました。
主役となった彼女には将来不幸が重なるというだけではなく、他人の幸運を削った罰も背負うことになるでしょう。
だから早く回収する必要があるんです」
なんとなくジェムと呼ばれる宝石は魔法の石のような漠然とした印象が無かったため、そんな恐ろしいことを引き起こす物だと朱音は思わなかった。
「ジェムって、幸せを運ぶものは無いんですか?そんな恐ろしいことにならずに」
「ありますよ」
その冬真の答えに、朱音は安心した。
美しい宝石が魔術師によって悪い物に変えられてしまうなんておかしい。
きっと宝石は幸せを運んでくれる物であるべきだと思うのに。
「あのジェムは悪意に満ちているんです。
それは・・・・・・排除しなくてはなりません」
ソファーの背に身体を預けていた冬真は抑揚も無くそう言うと目を閉じた。
ただ目を閉じているだけで、その横顔はとても素敵だ。
なのに朱音はそんな横顔を見て不安に襲われた。
その不安はどこからくるのかわからないけれど。