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穏やかな顔で、呼んだときは必ず来てねと言いながら帰った理恵子を冬真と朱音で見送り、部屋に戻ればアレクがカップなどを片付けている。
少し後ろをついてきていた朱音が、何か言いたそうにしていることに冬真は気が付いた。
「聞きたいことは遠慮しないで」
笑って冬真が言うと、朱音はばつが悪そうに頷いた。
冬真はリビングに朱音を促すと、大きなソファーに並んで座る。
「どうして加藤さんにあんなに、その」
「煽ったのか、と?」
言いにくそうに朱音は言ったが、冬真はわかりきったようにつなげた。
「加藤さんの性格を判断して、彼女には僕に腹が立ったとしても自分で判断して欲しかったんです。
今日お会いしたとき、彼女はかなり憔悴していました。
相当葛藤していたのでしょう。
なら後は話を聞いてもらえば僕が言うことに従うのでは無く、加藤さん自身の力で選べるようになると思いました」
冬真は色々と無茶な提案をしてはいたが、理恵子はどれも不服そうにしていた。
だが最後は笑って自分から人造石であるモアッサナイトを選んだのだ。
それはただ冬真が良いというのだからそれにする、というのとは似ているようで全く違う。
「そして次は、サファイアのネックレスの女性について聞いたことでしょうか」
朱音が納得したように、なるほど、と呟いたのを聞いて冬真がそう言うと、朱音はむっとした表情を浮かべた。
何もかも自分の心を見抜いているかのようにされれば誰だって複雑だ。