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「ここに座って下さい」
朱音の手を優しく取り、部屋の隅にある身体全体を包む混むような黒の革張りの大きな椅子に座らせると、女神は怪我をしたところに真っ白なハンカチを当てた。
思わず朱音はぎょっとする。白のハンカチなんて当てたら血が染みついて下手したら落ちなくなってしまう。
「救急箱取ってきますから、押さえていて下さいね。
それと申し訳ないのですが、ストッキングを脱いでおいて下さい。
隣の箱に入れておいて頂ければ」
朱音がハンカチをどかそうとしたら、朱音の手を取って自分の代わりにハンカチを押さえさせると、ふわりと笑みを浮かべ彼女は高さのあるラタンの間仕切りを椅子の回りにおいて出て行った。
朱音はまだ自分の状況が理解できず、椅子に座りハンカチを傷に当てながらぼーっとする。
自分の不注意で怪我をしてしまっただけなのに、女神のように美しい人が見知らぬ自分にこんなにも優しくしてくれている。
捨てる神あれば拾う女神あり。なるほど、世の中捨てたものじゃない。
感動に浸りそうになりながら、ストッキングのことを思い出し慌てて脱いで隣の小さなゴミ箱らしき箱に入れると、ガチャリと音がして誰かが入ってきた。
「そちらに入っても良いですか?」
「はい」
そう答えると間仕切りが開き、女神は木製の救急箱を持って朱音の足の前に正座した。
脱脂綿に消毒液をつけ、少ししみますから、と言うと、優しく傷口に当てる。
消毒液からもたらされるじんじんとした痛みに朱音が顔をしかめると、女神が申し訳なさそうに見上げた。
「ごめんなさい、もう少し我慢して下さいね」
「いえ、こちらこそすみません」
朱音からすれば何一つ彼女のせいではないのに、彼女はとても申し訳なさそうに怪我の手当をしている。