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あの写真から気になることはあったが、今ある情報だけでもたどることは可能。
それにジュエリーアドバイスなどというものは実際はやっていないのだが、彼女の真意を見極めるためにも、そしてハードルをあげておいてそれでも来るのか確認するためにも冬真はそういう提案をあえてしてみた。
理恵子は何だか悔しそうに考えているようだったが、それでお願いするわ、と言うと冬真は名刺を渡し、まだ気持ちが変わらないようなら連絡を下さいと言って冬真と朱音は理恵子と別れた。
冬真と朱音はイギリス館を出て、夕方の横浜元町の歩道を並んで歩く。
アレクの運転する車に二人で乗ったことはあったが、二人だけで歩くのは初めてだと朱音は思いつつも、やはり冬真の理恵子に対する態度の違和感に戸惑っていた。
「嫌な男だと思ったでしょう?」
唐突に横を歩く冬真に苦笑いで言われ、朱音は慌てて否定する。
だがそんな風に取り繕っても冬真の目は優しい。
「何か、理由があったんですよね?」
朱音が確信めいた声で聞くと、笑って冬真は前を向く。
「彼女は魔に捕らわれていました」
唐突な言葉だが魔術師としての話だと思い、朱音は冬真の横顔を見る。
夕方だがまだ観光客らしき人はそれなりに歩いて、朱音の歩く歩道の前後には人がいないが、聞かれたりしていないのか心配になって周囲をキョロキョロとすれば、
「大丈夫ですよ」
冬真が笑ってフォローするので、また考えていることが見抜かれたと朱音の気持ちは複雑になる。
「彼女の主役を奪った女性のネックレスについていた宝石はおそらく魔術用のジェムです」
「えっ?!」
「彼女はそのジェムに酷く影響されてしまっているんですよ、冷静さを失うほどに。
役を奪われる、そんなことは音楽でも役者でも日常茶飯事で、能力だけではのし上がれないことくらい皆わかっていることです。
だけど彼女はあの宝石が原因なのだとわかった。
そこまでは良いとして、彼女はそれに勝る宝石をと異様なほど固執している。
おそらく冷静な彼女ならわかるはずです、たかが宝石一つで彼女に勝てるようになるなんてことは無い、と」
その声は静かで、夕方の静かなこの街に溶け込むように違和感が無い。