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後ろにいる朱音に冬真は視線を向けると目が合って、にこりと笑みを浮かべる。
ばっ、と全員が朱音の方を振り向き、思わず朱音は内心恐怖で叫んでいた。
全員の目が、『あんた何なのよ!』という言葉で聞こえたからだ。
「ご質問などあればどうぞ」
冬真のゆっくりとした声に今度は全員が一斉に前を向き、ガタガタと立ち上がり、わっと冬真の周りを取り囲む。
写真撮影と録音は先に禁止にしていたため、何故か握手会が始まり列が出来ている。
朱音はほっと胸をなで下ろし、また参加者に睨まれないようにとこっそり後ろのドアから出た。
「あの、吉野さんの会社の方ですか?」
ドアから出てすぐに声をかけてきたのは、あの廊下に立ってこちらを見ていた女だった。
年の頃は二十代後半あたりだろうか、大きな巻き髪で年齢の割に化粧が濃く私服だと思うが色合いがかなり派手だ。
午前の部で見かけたこの女は真っ赤なドレスを着ていたため、最初は同一人物だとわからなかった。
朱音はもしもの時冬真の手伝いが出来るようにとグレーのスーツで着ていたせいか、冬真の仕事の関係者と勘違いされたらしい。
確かにパンフレットの冬真のプロフィールには宝石業と書いてあるし、凄腕若社長とその部下と思われても無理も無い。
「吉野さんにご相談したいことがあって」
切羽詰まったように言い寄る女に朱音は困惑する。
「すみません、私は吉野さんの知り合いではありますが、仕事の関係者では無いんです」
「でも知り合いなんですよね?取り次いでくれませんか?」
宝石の仲介はしていると冬真が言ってはいたが、朱音には詳しい仕事がわからずこういう人を会わせて良いのかがわからない。
もしもこの女性が魔術師関係の依頼なら取り次いだ方が良いのかもしれないが、まさか魔術師ですかと聞くわけにもいかず、私にはわからないのでと朱音は必死に繰り返していた。