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「朱音さん、あとはスタッフにお任せして入りませんか?
僕は緊張しやすいので知っている人が見てくれていると安心して話せるんです。
是非助けていただけると」
そういうと、ウィンクをしてスタッフに先導され冬真は前のドアに進んだ。
緊張なんて冬真がする訳がない。
自分を入りやすいように言ってくれてるのはわかるとはいえ、ただ優しかった冬子とは違い、冬真はどうも女性扱いというよりも子供扱いすることがあって朱音は複雑な気持ちになる。
年齢を未だに聞いてはいないものの、自分より年上なのは間違いないから仕方が無いのだろうが。
少しため息をついて他のスタッフに残りの資料を渡そうと思ったら、既に冬真はいなくなったのにその入ったドアを女性達が見つめ続けている。
目がハートになるとはこういうことなのだな、と思いつつ、朱音は声をかけて資料を渡すと後ろのドアを開けて静かに入り、真後ろの壁の隅にこっそり立って見学することにした。
並べられた椅子に座っているのは全員女性、用意されたホワイトボードに冬真が書くために少し斜めになればため息、前をゆっくり歩きながら説明すれば、全ての女性の頭が冬真の歩く方向を自動追尾している。
なるほど、こうやって宗教団体って出来るんだろうなぁ、と朱音は冬真のわかりやすい宝石の解説とは別の感心をしていた。
多分冬真がここで、高級な羽毛布団とか、がんが消える薬とかを紹介しても、一瞬で完売しそうな熱気を感じる。
後ろのドアからはこっそりと代わる代わるスタッフが様子を見に来ているが、全員女性で目を輝かせているところを見ると、進行状況を確認しに来ているようでは無いようだ。
朱音は笑いそうになりながら、スタッフが何度かドアを開けるたび、一人の女が廊下に立ってこちらを見ていることに気が付いた。
『あの女性、もしかして午前の部で歌を歌ってた人かな。
冬真さんがホールに入った後にも見かけた気がしてたけどなんでだろう』
朱音は気になりながらも前を向けば、ちょうど冬真が講演を終えお辞儀をして頭を上げた。