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「怪我をしているわ」
薄いピンクの艶やかな唇が動いて、落ち着いた声の日本語が聞こえてきた。
女神って日本語を話すんだなぁと、朱音はただ目の前の女神を見上げる。
「とりあえず中に入りましょう」
そういうと女神は朱音の鞄を持ち、しゃがんでいる朱音の手を優しく引っ張る。
外人だからかその手は大きく、誘われるように朱音は立ち上がれば、女神の身長は朱音より驚くほど高くて、なるほどもしかしてモデルさんかもしれないと見上げながら思っていたがやっと我に返った。
「い、いえ、大丈夫です。拭けば」
「行きましょう」
「はい」
朱音の言葉を遮るように女神が美しい笑みを浮かべてそう言うと、朱音は気がつくと承諾の返事をしてしまっていた。
もしかしてさっきまで神様に文句を言っていたので、日本の神様が仕方なく海外の女神を呼んだのかもしれない。
さっき女神が出てきた大きなガラスがついたドアでは無い、正面から見て右端にある木製のドアを開け、
「どうぞ」
と促せば、そこは木のぬくもりを感じる落ち着いた薄茶色の玄関で、彼女は朱音に薔薇が一輪描かれたシックなスリッパに履き替えさせ、目の前にある鈍い金色のドアノブを回し中に入った。
そこは思ったよりも広い部屋で、奥の窓は大きく裏庭の緑が見える。
部屋の真ん中には大きな長方形のテーブルと椅子があり、ここは洋館でも右端の部屋なのか、右側の壁の真ん中にはシックなタイルで周囲を覆った暖炉。
至る所に観葉植物や花が飾られ、そろそろ夕方という割に部屋の中は優しげな光で満たされていた。
『良い香り。それになんだかこの部屋、凄く透き通ってる』
朱音は少しくんくんと部屋の空気を吸い、そんな不思議な印象を抱いた。