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ある日の夜のこと。
「講演、ですか?」
「えぇ」
珍しく何か紙を見ながら悩んでいる冬真を不思議に思った朱音に気が付き、冬真は講演の依頼が来まして、と答えた。
朱音もここに来て約一月。
休日や夜など、冬真は自室では無く広いこのリビングに居るのが好きなようで、最初朱音はそれを邪魔しないようにとしたが一瞬で見破られ、人の気配があるほうが落ち着くんですという冬真に誘われてからは、朱音も特に冬真がいるときはリビングで過ごしていた。
一人が楽なときもあるけれど、ここに来てからはこのリビングにいる時が何故か落ち着く。
そんなある日の夜、朱音は冬真が講演をすることを知り驚いていた。
「イギリス館はご存じですか?」
冬真の問いに朱音は、いいえ、と申し訳なさそうに答える。
「港の見える丘にほど近い場所にある『横浜山手西洋館』の一つで、英国総領事公邸として建てられました」
『横浜山手西洋館』とは、横浜山手にある、『外交官の家』、『ブラフ18番館』、『ベーリック・ホール』、『エリスマン邸』、『山手234番館』、『横浜市イギリス館』、『山手111番館』の七つの洋館を指し、全てが横浜市指定文化財や横浜市認定歴史的建造物などに指定され、横浜市が保存し無料で公開しており、一部の洋館は貸しスペースがあって有料で貸し出しをしている。
「広い敷地に白亜の壁のかなり大きな洋館で、そこの一階にあるホールで講演を時々頼まれているんです。
本来音楽利用しか出来ないのですが、今回のイベントでは時間によって音楽をしたり、こういう講演をしたりするんですよ」
「すみません、知りませんでした・・・・・・。
イベントって話しですが、そもそも冬真さんが何の講演をするんですか?」
冬真が仕事用の来客部屋や深夜に仕事に出かけているのは知っていたが、まさか講演をしているとは朱音は知らなかった。
さすがに魔術師とではないだろう。
むしろ魔術師とはなんなのかという講演なら行きたいし、凄い人が集まりそうで興味がわく。
目をキラキラとさせ、何を考えているのかわかりやすいほど顔に出る朱音に冬真はつい笑ってしまう。