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「そう、ですよね、すみません・・・・・・」
朱音は謝りながら、はっとした。
自分が彼の純粋な善意を疑う発言をしてしまったことは取り返しのつかないことなのだと気が付いて、今度はなんと言えば良いのか言葉が浮かばない。
「朱音さん」
その声に、朱音の身体が反応するように少し揺れたが、そんな朱音を見ても冬真は穏やかなままだ。
「私たちはまだ出会って数回、お互いを知らないのが当然なのに、貴女は突然恐ろしいことに巻き込まれ訳のわからないことを知らされた。
その上で無料で部屋を貸すなんて言われたら警戒して当然です」
その声に朱音を責めるような雰囲気は微塵も感じさせない。
「では、本音を言いましょう」
急に真面目な表情になった冬真に、朱音も緊張する。
「人が住んでいないと部屋であっても傷んでくるものです。
僕の本業を知っている人に借りて欲しいと思っていてもそんな相手が簡単に見つかるはずも無く、僕はそれなら無理に貸す必要も無いと思っていました。
そこに現れたのが朱音さん、貴女です。
もちろん、貴女が早く次の部屋を探さなくてはならないと、そして貴女が僕の事情を知らなければ、あの部屋を貸そうだなんて言うことはありませんでした。
これを僕は縁だと思っていますし、貴女が借りてくれれば僕としてはとてもありがたいことなのです」
冬真は思っていることを素直に話した。全て、は話さなかったが。
朱音は冬真の言葉を聞き、真摯に彼が気持ちを伝えようとしていることが、そして自分を選んでくれたことに嬉しさがこみ上げてくる。
冬子さんと親しくなりたかった。
その女神のような女性は、まさかの超絶格好いい男性だった。
でも根底にある温かなものは同じなのだとやはり思う。
もっと冬真さんと話したいし知りたい。そして、自分も信頼してもらいたい。
そんな自分の気持ちに、朱音は素直になることにした。
なぜなら目の前の人が、『素直に行動した方が良い運が回ってくる』と教えてくれたのだから。