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バスルームを出て再度部屋を見れば既にお洒落で一人用にしては大きなベッドが置かれ、大きなクローゼットが二つある。
この部屋にも小さなサンルームがあり、外の裏庭の緑が大きな窓から見えてこの部屋の一部になっているかのようだ。
「この部屋に以前住んでいたのは女性です」
朱音がうっとりとサンルームから外を眺めていたら、後ろからの冬真の声で引き戻された。
そう、女性、という単語に思わず反応してしまった。
「・・・・・・その方は?」
「海外に。
当分日本に戻って来られないからと元気に出て行きました」
苦笑いして言う冬真を、朱音は何故か複雑な気持ちになった。
とても親しい間柄、それを感じてしまったせいだろうか。
「こちらでよろしければお貸しできますよ?」
「えっ?!でもその女性がそのうち戻られるんですよね?」
「戻ってきてもこちらに住むことはありません。
その時は一緒に海外に行ったご主人と家を買うと話していましたから」
その言葉に朱音はホッとする。
ホッとしたのはすぐ戻ってくることでは無いけれど。
「でも、こんな素敵なお部屋を借りられるほど恥ずかしながらお金が・・・・・・」
すみません、と朱音は丁寧に頭を下げた。
今のアパートは狭いし壁も薄いが、厳しい予算内で何とか探し出した場所だった。
今の手取りから短大の奨学金などの返済を考えると、家賃は出来るだけ抑えたい。
こんな素敵な洋館、そして冬真さんがお仕事をする側に住んでみたかったけれど現実問題として無理だ。
「家賃は頂きませんよ?」
何か遠い方を見ていた朱音は冬真の声に不思議そうな顔をすれば、そんな朱音に気が付き冬真はくすっと笑う。
「ここの土地建物すべて僕の所有ですが、賃貸業はしていないんです。
他にもここに住んでいる人が居ますが、あくまで自分の家の一部屋に住まわせているだけで家賃はもらっていません。
家賃をもらうと家賃収入を得ることになり税務上の手続きや色々面倒なことになるので」
説明を聞きつつ、朱音はただ驚いていた。