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しばらく黙っていた冬真がおもむろに顔を上げ、朱音を見る。
「一部屋空いていますよ」
「はい?」
冬真は真面目な顔で言ったが、朱音には意味がわからない。
もしかしてアパート経営でもしていて空きがあるのだろうか。
「とりあえず、まずは見てみませんか?」
そう言って立ち上がった冬真は、笑顔でリビングのドアを開けると朱音を促した。
朱音は訳がわからないまま鞄を持って立ち上がろうとしたら、すぐそこなので持たないで大丈夫ですよと言う言葉に頷いてホールに出る。
てっきり玄関から外に出るのかと思えばホールを突っ切り、例の占ってもらった部屋とは反対側にあるドアノブに手をかけた。
「掃除はこまめにしてあるのですが」
ドアを開けた先に何故か小さなカーテンが中を見えないようにかけられていて、そこを開ければあの占いをした部屋よりは少し狭いものの角部屋らしくいくつかの窓から光が入り、白い壁が一層部屋を明るくしている。
冬真は、驚いたように周囲を見渡している朱音に声をかけ、部屋の中にある一つのドアを開けた。
「こちらがバスルームなどの水回りです。
元々海外の作りなので日本のようなユニットバスではなく、バスタブとシャワーになっていて、洗面台とトイレもこちらです。
部屋に無いのはキッチンとランドリーですね。
それは共用になってしまうのですが」
朱音は呆然と部屋の中やバスルームを見ていた。
アパートのバスルームはトイレと洗面台が同じ場所にあってシャワーカーテンで仕切る恐ろしく狭いスペースで、バスタブで足なんて伸ばせない。
それに比べ、こちらは磨りガラスの窓から光がバスルームの中に差し込み明るくて広い。
周囲の壁には胸より少し高い高さまで海を思わせるような青い大きなタイル、床には貝の柄が描かれた白地のタイルが敷き詰められ、アパートの二倍近くありそうな大きな浴槽は中で身体を洗っても余裕なほど。