33
そしてやっと朱音は気が付いた、彼は、あの冬子さんなのだと。
女神のような美しく優しい女性が、美の化身のような男性になって現れた。
何故かワンピースだし、男性だとは思いながらあまりに綺麗すぎてその確信がもてなくなってくる。
さっきは幽霊のような恐ろしい男に首を掴まれ、朱音の中では理解できない沢山のことが起きすぎて夢なのかと思いそうだ。
というより夢だった方が楽かもしれない。
「良かった、特に痕など残っていませんね」
そういうと手を離し、冬真は息を吐いた。
「怖い思いをさせてしまいました、本当に申し訳ありません」
「いえ・・・・・・。あなたはもしかして」
朱音が戸惑っていると、ワンピースを着た恐ろしいほどに美しい男は朱音の前に跪いたまま笑みを浮かべた。
「ご挨拶がこのような形ですることとなり失礼いたしました。
僕の本当の名前は、吉野冬真と申します。
冬真はカタカナではなく、冬と真という字なんです」
「じゃあ冬子さんは」
「事情がありましてあのような姿と名前で偽ってしまいました。
ですのでここだけの秘密にして頂ければ」
冬真は唇に人差し指をあててウィンクした。
後ろに薔薇でもしょっているかのような美形の微笑みに、朱音は一瞬ふらっとする。
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫、です」
本当は大丈夫じゃ無いです。
とてもあなたの美しさにめまいがしました、なんて映画か小説で男が女に言う台詞が脳内で思っていただなんて言えるわけが無い。
朱音は作り笑顔を浮かべなんとかそう答えた。
トントンと既に開いているドアをノックする音がして、部屋にあの黒髪の男が入ってきた。
そして朱音の座っていたソファーの隣に近づくとソファーに刺さっていた魔術武器を抜き取り、立ち上がった冬真に両手で手渡す。