32
その度にいくつもの細いチェーンが蛇のように男の身体に巻き付き、最後、大きな鍵が現れた
「・・・・・・誓約完了」
透き通っているようで重々しい声がしたと同時に、カシャン、とその鍵が閉まると、男の姿は消えた。
あれだけの炎があったはずが、どこにもこの部屋には燃えた痕など無く、まるで何事も無かったかのように温かで穏やかな色のリビングへと戻っている。
「もう目を開けて良いですよ、朱音さん」
朱音は目を覆っていた自らの手を外し恐る恐る目を開ければ、その目に飛び込んできたのは驚くほどに整った顔の外国人の男だった。
少し長めのダークブラウンの髪の毛が天使の輪を作っているが、一番に目を奪われたのはその瞳。
キラキラと反射するように深いブルーの瞳が宝石のようで、思わず見入ってしまう。
『私のラブラドライトと同じ青だ。でもこの瞳・・・・・・』
その瞳の持ち主が朱音の座るソファーの前にひざまずき、そっと朱音の手を包み込む。
「大丈夫ですよ。大丈夫です。ゆっくり、呼吸して」
その小さな顔に似合わず大きな手に包み込まれ、自分が思っていたよりも身体に力が入っていたことに気が付き、手から伝わる温かさにやっと深く息を吸えた気がした。
冬真はその様子を確認し、今度は朱音の首元に視線を向ける。
「すみません、首を見せて頂けますか?」
朱音が理由がわからずにはい、と答えると、冬真の細く長い指が朱音の顎を軽くつかみ、顎を左右に動かして首元を念入りに見る。
触られた瞬間びりっとした衝撃が身体に走り、朱音はうろたえそうになった。
超絶に顔の整った男性にこんな間近で触れられている、それだけで朱音にとってはまずありえないシチュエーションだ。