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「朱音さん!!!」
その大きな声で急に金縛りが解けたかのように反射的に顔を向ければ、美しい男性に思える人がワンピース姿で現れた。
「ぐっ!」
突然首が絞まったことに驚いた朱音が目を動かすと、半透明な男が自分の首を片手で締めていた。
必死にその手をほどこうとするのに、半透明なその手に触れてもぴくりともしない。
「朱音さん!目を閉じて!良いと言うまで絶対に開けないで!!」
朱音は見知らぬその男の言葉を何故かすぐに受け入れ、目をしっかりと閉じた。
冬真は執事らしき男が渡した物を勢いよく投げる。
それは首を絞めている男の背中を抜け、朱音の座る場所のすぐ近くにドスン、と刺さった。
投げたと同時に冬真は詠唱を始める。
朱音には英語では無い、聞き慣れない言葉が聞こえてきて、首から急に拘束が解けた。
思わず目を開けそうになったが今度は男の叫び声が聞こえ、朱音は目に自分の両手を強く当て下を向く。
『アツイ!アツイ!!』
男は熱い熱いと叫びながら、部屋の中をもがき苦しむように暴れ出した。
朱音の座るすぐ側に突き刺さったのは魔術武器であり、冬真が宝石と併せて作った儀式を発動させる媒体で、冬真の詠唱により真っ赤な宝石から勢いよく吹き上がった火が男に襲いかかるとあっという間に全身を包み込んだ。
「穏便に済まそうとしていたのにそのチャンスを自ら手放した以上、ご自分で重い責任を背負ってください」
すぐ近くで聞こえた男の声はとても冷たく、朱音の身体が強ばる。
「もう少しだけ我慢して、目を閉じていてくださいね」
自らの声でより怯えさせてしまったことに気が付いた冬真は、落ち着かせるように柔らかい声で話しかけ、朱音は声を出さずに頷いた。
「二度と誰にも、このようなことをしないと誓いますか?」
『チカウ!チカウカラヤメテクレ!!』
男は懇願するように何度もその言葉をくりかえす。