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「あのカフェ三月末で閉店したのね。とても素敵だったのに残念だわ」
思わず朱音は振り返り、慌てるように洋館入口近くにある掲示板の前に走る。
そこには、『喫茶室閉店のお知らせ 3月31日をもちまして閉店となります』と無慈悲な紙が一枚貼られていて、朱音はその文章を読んだ後へなへなとその場にしゃがみ込んだ。
洋館に入ろうとしている人達がちらちら見ているのも気がつかずに。
「だめだ、今日はきっと厄日だ」
俯いたまま低い声で朱音は呟く。
素敵な洋館で素敵なプリンに舌鼓をうつことだけを楽しみに、靴擦れまで起こして坂を上って歩いてきたのに無駄に終わってしまった。
神様、私は何か悪いことでもしたでしょうか。
いえ、全く覚えが無いわけでは無いのですが、お金払ってまであのおじさんに頑張って付き合ったご褒美くらいくれても良いじゃ無いですか。
別にあの王子様にすぐに会わせて下さいと無理なお願いをしている訳でもないのに。
しばらく世の中の不条理やら神様への文句を心の中でひたすらしながら座り込んでいたが、すくっと朱音は立ち上がる。
こんな素敵な地域だ。他にも洋館はあるようだし、そうじゃなくても素敵なカフェの一つや二つあったっておかしくはない。
きっともっと素敵なところが、素敵なデザートがあるからここで食べられなかったんだ。
レッツ、ポジティブシンキング。
朱音は決意を新たに拳を握り、その洋館を背にして歩道に出た。
とりあえずふらふらとメイン通りを歩いてみれば、道路に面する豪邸には外国人の名前が出ていて、いかにここが外国人が多いのかわかる。
可愛らしい小型犬を散歩させているセレブのような外国人の奥様が出てきた脇道が気になって朱音はそちらに足を踏み入れた。