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「僕は正真正銘の男です。
それでも僕に、従うのですよね?」
聞こえるのは冬子用にわざと高くしていた声では無く、爽やかな青年の声。
笑みを浮かべている冬真を見て、男はしばらくじっと見ていたが、突然ただでさえ大きな目を取れそうなほど大きくした。
『ダマシタノカ!!』
「騙してなど。
さっきまであぁいった服装で過ごしていたかっただけのことです」
男は、ギョロギョロと周囲を見回す。
「彼女はいませんよ。それに先ほど約束したでしょう?」
『シルカ!』
途端に男の首に絡みついていたチェーンが現れ、ぐい、と締めだした。
男は突然のことに驚き、必死に首に巻き付いたチェーンを取り外そうとしている。
だが無理だと悟ったのか座っていた椅子を蹴倒し、玄関では無くもう一つのドアに飛んでいく。
そもそも玄関用のドアは男には見えないように術がかけられており、飛んでいった先のドアを開ければホールに出てそこにある魔法円がありそこで追い詰める。
本来魔法円は召喚魔術で使用するが、既に悪魔の影響を受けて始めているこの男の影響部分を消し去るために広いホールに描いた魔法円で最終儀式を行うのだ。
依頼者を完全に保護するためにも最初からその手はずだった。
だが朱音が来てしまったことで少々状況が変わったが、待たせているリビングのドアには外から封印がしてある。
だからあの男は入れないはず、だった。
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『どうしよう、トイレに行きたい』
紅茶を沢山飲んだせいだろう、しばらくは必死に我慢していたのだがそろそろタイムリミットが近づいているのを感じ、とりあえずこの部屋にトイレは無いだろうかと朱音は探してみる。
リビングには二つドアがあり、男が先ほど出てきた方を開けるとそこはまたダイニングテーブルのある部屋で誰も居ない。