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静かだ。
朱音は肩を落とし、洋館を後にしようとドアに背を向けた。
カチャリ、と落としがして背後から明かりが朱音を包む。
慌てて振り返れば、ドアを開けて驚いたような表情をした冬子が立っていた。
「あの、すみません、こんな夜遅くに突然」
「こちらこそ出るのが遅くなってごめんなさい」
朱音が冬子の立つ玄関を見ればピンヒールの靴が一足あり、来客中だということに気がつく。
「お仕事中だったんですね、すみません、出直します」
ぺこりとお辞儀をしながら朱音は自分の取った身勝手な行動で呆れられたのではと不安になり、少しでも早くここを立ち去ることしか頭になかった。
「待って、朱音さん」
落ち着かせるような声に、朱音はためらいがちに振り向く。
「ペンダントでしたらこちらで預かっていますよ」
朱音はその言葉に心底ホッとすると共に、これで、それもこの玄関で冬子との縁が切れることを知らされる。
時間があるのなら、嫌われていないのなら、二人でまたお茶をして話をしてみたかった。
でも本来の目的はペンダントを受け取るだけなのだ。
ここで受け渡してもらって終わる、たったそれだけのことに酷い寂しさが襲ってきて、朱音はどれだけ自分が都合の良く素敵な出逢いに広がることを期待してしまっていたのかと、自分自身にあきれてしまう。
「朱音さん、お時間に余裕はありますか?」
唐突な冬子の質問に思わずはい、と朱音が答えると、冬子は微笑み指を指す。
「あちらのドアの前で待っていてくれますか?家の者が出てきますので」
指した先にはこちらのドアとは違う、観音開きになる大きなドアがあり、上半分にはデザインの入った白のガラスがはめられている。
朱音が戸惑っていると、冬子は優しいまなざしを向けた。
「ペンダントは直接お返ししたいんです。
お待たせしてしまうかと思いますが、よろしければ待っていてくださいね」