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朱音は二階建てのアパート前で下ろしてもらい車を立ち去るのを見送るつもりだったが、運転手は無表情で後部座席のドアを開けた後そのままその場で立っていて、どうやら家に入らないと一歩も動く気は無さそうだと気がつき、オートロックのドアから入り、未だこちらを見ている真っ黒な男にびくりとしつつ郵便物を取って階段を上がった。
二階角部屋である自宅に入り電気をつけて窓から道路を見れば男はこちらを見上げていて、目が合ったと同時にさっさと運転席に戻って車を発進させた。
朱音はそれを見て息を吐くと窓を閉めてごちゃごちゃとした1DKの狭い部屋を見渡し、自分がさっきまで夢を見ていたような気になってしまった。
最悪の見合いをしていたことなどすっかり忘れてしまっていたが、膝下に仰々しく包帯まで巻かれた自分の足を見て現実だったと教えてくれる。
スマートフォンを見ると、父親から見合い報告の催促メールが並び、朱音はため息をつきながら年齢が離れすぎていて無理なので断りますとだけ返信し、スマートフォンの電源を切った。
そういえば冬子さんは同居人なんて言っていたし、彼氏か旦那さんはお仕事で忙しいのかもしれない。
二度と会うことの無いあの美しい女性を思い浮かべ、とりあえずネックレスを家の定位置であるトレーの上に戻そうと鞄を開けた。
「え、嘘・・・・・・」
無い、あの大切なネックレスが無い。
鞄をひっくり返し、ポーチから何やら開けてみてもネックレスの入っていたケースも、もちろんネックレスも無い。
朱音は部屋にしゃがみ込んだまま呆然とし、しばらく動くことが出来なかった。
呆然としていたがそのままでいてはいけないと、どこで無くしたのか必死に記憶を遡らせる。