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洋館では部屋に戻り冬子が一人、テーブルに置かれていた食器を片付けていた。
朱音の座っていた席を見れば足下にケースが落ちていて、拾い上げると中にはあのネックレス。
ケースからネックレスを取り出し見つめた後、テーブルの上に置く。
「せっかく彼女を逃したと言うのに、君はまた、僕と彼女を巡り合わせたいのですか?」
そう言いながら冬子が左手でウィッグをとると、そこには艶やかなダークブラウンの髪の毛がさらりと現れた。
少し長めの前髪をかき上げたその青年は、首元につけていたスカーフも取りネックレスの隣に置くと、まるで何かに反応しているように青く光るラブラドライトを見下ろす。
きめ細やかな肌、整った目鼻立ち、目の色は透き通ったグレー。
身長は180センチを超え、肩幅や胸板もほどよく、どこかの王族や貴族だと言われても信じてしまいそうな品格を備えている。
吉野・ハーレッド・冬真は、長い人差し指で軽く石に触れた。
彼女のことは正直に言えばすっかり忘れていた。
完全に思い出したのはラブラドライトのネックレスを実際に見たときだ。
この石が彼女に相応しい物だと思い、何気なく贈ってしまった。
ただそれだけのはずだったのに。
まさか、あのあどけなかった黒髪の少女と今度は日本で再会し、『彼女』と生年月日が同じということまで知ることになるとは。
彼女の心がとても疲れていることに気が付いて、今日が最後なのだからと少しお茶に誘ったつもりが、彼女と話す時間は何故か心地よくてあんなに話し込むなんて冬真自身も驚いていた。
彼女にとって、あのロンドンでの出会いがとても美しいものとして彼女の中にずっとあるのならば本当のことは知らせずそのままでおくべきだ。
しかし一度、二度なら偶然で片付けられただろう。
でもそれが重なれば、それは運命か、巡り合わせか。
彼女をこんな自分にまた出逢わせた石を小突く。
「君がこうさせた以上、君は本来の役割を果たさなくてはならないのですよ。
僕にそれは・・・・・・出来ないのですから」
そう呟き、そっとペンダントをケースに戻した。