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「あなたは?」
「吉野と言います。朱音さんの身内でここのオーナーと知り合いです」
「本当ですか?」
冬真の言葉を救急隊員が朱音に確認すると、朱音は戸惑いながらも頷いた。
「あの、朱音さんは」
「避難の際に煙を少し吸い込んでしまったようですが会話も出来ますし大丈夫だと思います。でも念のため後日病院で診てもらって下さい。
今は水を被って身体を冷やしているので温かい場所で着替えられると良いのですが」
「わかりました。彼女は元々我が家にいましたので連れ帰ります」
冬真が救急隊員にそう言い切り、朱音は驚き声を出そうとして咳き込んだ。
「しゃべらないで下さい。
まずは身体を温めるのが先です。明日は病院に連れて行きます」
冬真は救急隊員に連絡先などを伝えると、毛布を被ったまま座り込んでいる朱音の側に行き高い背を少し曲げ手を差し出す。
濡れている冬真の髪がサイレンの光を浴びて金髪のように光り、朱音にはロンドンで出会った王子様の姿と冬真が重なってしまう。
「立てますか?少し先にアレクを車で待たせてます。
もし歩けないなら抱き上げますが」
「あ、歩けます!」
冬真の表情はずっと笑みも無く、何か怒っているようで朱音は慌てて声を出し咳きこむと冬真の目がすっと細くなり、
「とりあえずその抱えているゴミ袋を渡して下さい、捨てたりしませんから。
そして声は出さないで」
そういうと問答無用でゴミ袋を取り上げ小脇に抱えると、朱音の身体を支えながらゆっくりと立たせて再度毛布で朱音を頭から包み腰に手を回しがっちりと掴んで歩き出した。