31
「おい!!」
仕事部屋をノックせず蹴破るような音で入ってきた健人に、冬真はパソコンから顔を上げると呆れたような顔をした。
「何ですか」
「朱音のマンションが火事だ!」
その言葉に冬真の表情が変わる。
「朱音さんは」
「オーナーが部屋を確認しようにも消防隊に入ることを止められて、今消防隊からの捜索状況の報告を待っているそうだ。
朱音の携帯にかけてるが繋がらねぇ」
スマートフォンを持ったまま健人が固い声で言う。
「確か昨日の夜、あいつ飲み会に行ったはずだ。
もしも酔っていてまだ眠ったままだったら」
「アレク」
既に健人の後ろにいたアレクに冬真は命じる。
「元の姿で朱音さんの様子を見てきて下さい」
「おい、車の用意をしろ」
「かしこまりました」
アレクは身を翻し、冬真はアレクが自分の命令では無く健人の言葉に従ったことに思わず席を立つ。
「アレク!」
「お前が行け」
再度呼んでも使い魔は戻らず、困惑したような顔の冬真に健人が言う。
「心配なら健人が行けば良いでしょう?今も連絡取り合っているんですし」
「拗ねてる場合か。
俺はオーナーの連絡を待つからここで待機する。
いざとなれば魔法でも何でも使ってお前が朱音を助け出せ」
冬真はその言葉を聞いて口を真っ直ぐに結ぶと、健人の目を見て頷き急いで部屋を出た。
健人は静かなこの洋館の前を黒い車が走っていくのを見送り、リビングへ戻った。