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朱音は目を覚まして天井、そして周囲を見る。
ここに引っ越してきてそろそろ一ヶ月が経ちそうな土曜日、朱音は天井を見ながらため息をついた。
未だにあの洋館で住んでいた景色が目を開けると見えるのではと思うが、一度もそんなことは無い。
住民票は未だにあの洋館の住所のまま。
郵便物の転送は既にしてあるが、役所に行く時間が無いしと言い訳しながらずるずる住民票の手続きは伸ばしていた。
少しだけでも繋がりを残したいと思っていたのが本音だが、会社への説明を考えるとさすがに限界かもしれない。
確か今日は役所の窓口がやっているはずだからあと少しだけ寝てから行こうと、朱音は再度毛布を被った。
カーンカーンカーンという高い音が夢の中で響く。
遠ざかるような、近づくようなその音がサイレンだと思いながら朱音は目を覚ました。
身体を起こすとベージュ色のカーテンが明るいオレンジ色に染まっていて、気が付けば夕方になっていたのかとちょっとホッとしている気持ちがありつつ役所は今度行こうとベッドから降りてカーテンを開ける。
だが朱音の視界に飛び込んできたのは夕陽ではなく、立ち上る炎と黒い煙だった。
健人がリビングでビールを飲んでいると、リビングにある電話が鳴る。
「あぁいい、俺が出る」
キッチンにいるアレクが来ようとしたのを見て健人がそう言って電話に出ると、その相手は朱音のマンションのオーナーからだった。