27
引っ越した先は最寄り駅から徒歩約十分、十二階建ての立派なマンションで朱音は部屋に入って驚く。
既に家電製品もカーテンもあり、今回は布団を買おうと思っていたのにシンプルなベッドまで置いてあった。
朱音は大きなリュックを抱えたまま周りを見回す。
こんな立派なマンションの広い部屋があの家賃では無理なことを物件を探して回ったからこそわかる。
冬真が多くの気遣いをしているのは、朱音への餞別なのだろうか。
「ふぅん、1LDKの角部屋か。トイレ風呂別でまぁまぁの広さだな。
どうすりゃ既に家電製品とか買って先にセッティングしておけるんだよ。
金か、金にものを言わせたな、あのエセ紳士」
呆れた声を出しながら健人は部屋の隅にある段ボールを横切り、大きな窓にかかるカーテンを開けた。
健人が手招きしてその横に朱音が行けば、窓の外にはみなとみらいの夜景が広がる。
目の前にあるマンションよりこの部屋の方が高いため周囲のマンションが高い割に思ったより景色を邪魔されなかった。
ぼんやりその景色を見ていると、健人がそんな朱音の頭をぺしりと叩く。
「ほら、その貴重品袋置いて飯食いに行くぞ」
朱音の抱えている大きなリュックには、自分を支えてくれたKEITOのイラスト集、誕生日にもらった絵やそして冬真がくれたルビーのネックレスが入っている。
洋館を出て行く日、朝目覚めるといつもラブラドライトのネックレスの入っていたケースの中に小さな袋が二つあり、一つにはラピスラズリの欠片、もう一つはネックレスの台とチェーン、そして少しだけラブラドライトの欠片が入っていた。
朱音はそれも大切にリュックに入れて、それだけは業者にも持つと言ってくれた健人にも断って自分で持ってきたのだ。