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ほっとしたような表情の朱音は浮かべ、アレクはグラスをトレイに戻し部屋を出ようとした。
「アレク、ありがとう」
朱音がベッドから声をかけると、アレクは表情を変えること無く会釈をしてドアを閉めた。
部屋に冬真と二人きりになり、すぐ側に冬真がいるのに朱音は冬真の方に顔を向けられない。
冬真はそんな朱音の横顔を見ながら、しばらくして口を開いた。
「手の痛みはどうですか?」
恐る恐る朱音は冬真を見て、でもすぐに自分の手元に視線を向ける。
「思ったより痛くないです」
「病院で治療は行いましたが、ラブラドライトの細かい破片が刺さってしまっているかもしれません。
痛みはなくなると思いますが、傷が残ってしまう可能性があるそうです」
包帯の巻かれた左手を少し動かし朱音は、
「構いません。後悔はしていないので」
そう言い切って冬真の方を向きそうなのを我慢する。
既に時間は夕方で部屋の中に日の光があまり入らなくなっているこの部屋だが、オイルヒーターがついているので温かい。
何か言いたそうなのを我慢している朱音の横顔を冬真は気づきながらもゆっくりと話し始めた。
「・・・・・・あの魔術師が話したことは嘘ではありません」
思わずぐっと奥歯を朱音は噛みしめる。
出来れば嘘だと言って欲しかった。
おそらく自分で見た夢が現実になっていく事を朱音は感じていた。
「僕が独自に動いている案件があり、あの魔術師の本来の目的、所属しているメンバーなどをあぶり出すため様子を伺っていました。
彼女の父親に接触していることも把握していましたし、朱音さんがここに初めて来たときおそらくトミーが探している降霊術の依り代になれる素質があることに気づき、あなたをここに呼んだのです」
『君の存在価値は無くなった』
夢の中だったのに、冬真が自分に言った言葉の意味を伝えられているのだとわかる。