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ダークブラウンのサラリとした髪が風に揺れ、宝石のような青い瞳の美しい男が、ただの物を見るように自分を見ている。
必死に彼と自分の間にあるガラスを叩くけれど、もしかして自分は見えていないのだろうかと不安に駆られその人の名前を呼ぶ。
『君の存在価値は無くなった。もうここから出て行きなさい』
冷たい声でそう告げられ、朱音は泣きながら離れていくその背中に声をぶつける。
あのロンドンで出会った美しい王子様がずっと好きだった。
でも今はあなたのことが。
自分の顔を冷たいものが伝わっているのに気がつき朱音は目を覚ました。
涙を拭うおうと手を上げると、左手には真新しい包帯が巻かれている。
顔を動かせば見慣れた風景で、朱音はまだこの洋館の自室にいることに安堵した。
起き上がろうとしたらベッドの下に黒い物がいることに気がつき、その犬は顔を上げるとゆったりと部屋を歩いてドアも開けずにスルッと壁を通り抜けた。
もしかしてまだ夢の中なのだろうか。
朱音は再度枕に頭を乗せ意識が重くなるのを感じながらドアを叩く音がしても、朱音はぼんやりとしていた。
「僕です。入ってもいいでしょうか」
「あ、はい!」
思わず弾かれたように声を出すとドアが開き、シャツ姿の冬真の隣にはいつも通りの黒スーツを着たアレクがトレイにグラスに入れた飲み物を乗せ入ってきた。
朱音が上半身を起こし、冬真は窓際にあった椅子をベッドの側に持ってきて座る。
「スポーツドリンクです。ずっと水分を取ってないですから飲んで下さい」
朱音が頷きグラスをアレクから受け取るが包帯があるのでしっかりグラスを持てずもたつくと、冬真は朱音の背中に手を当てて身体を支えアレクがグラスを支えて朱音の口元に持って行き朱音がゆっくりと口にすれば、自分が思ったより喉が渇いていて一気に飲み干してしまった。