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「どうかしましたか?」
少し違う方向に視線を向けたままの朱音に気が付いた冬子が声をかける。
「あの青い薔薇が入っているのってハーバリウムですよね?
光っているのは宝石に見えますけどスワロフスキーですか?素敵ですね」
冬子は思わずその言葉に目を見開く。
あの薔薇を『青』と言って、中に花以外のものが入っていることを言い当てた女性は初めて。
そして『彼女』と生年月日も同じ。
これ以上『宝石に見える石は何色か』などと聞いてはいけない。
もしもその色までを当ててしまったのならば・・・・・・。
こちらを不思議そうに見ていた朱音に、冬子は何事も無かったかのように笑みを浮かべた。
「うちの者にご自宅までお送りさせますね」
朱音の問いには答えずにそう言って立ち上がった冬子を朱音は一瞬見上げた後、その言葉に驚いて立ち上がる。
「いえ、そんなことをしていただかなくても!」
朱音は、席を立ち横を通り過ぎようとする冬子を慌てて呼び止めた。
しかしその言葉を聞いても冬子は微笑んでいる。
「私のせいで怪我をさせてしまいましたし、もう外は真っ暗です。
女性一人でこんな時間に帰すわけにはいきません」
「そんな、おおげさですよ、まだ九時前ですし」
そう言った朱音に冬子は一瞬口を開きかけ、再度笑みを作る。
「じゃぁちょっと待っててくださいね」
朱音の言葉を無視し、冬子は紅茶などを持ってきたドアから出て行った。
美女が微笑むと一般人は太刀打ちなど出来ない。
朱音は美しさってこういう意味でも武器なんだな、と感心してしまった。
少しして冬子が戻って来たとき、朱音はテーブルにある食器を片付けようとしていたのだが笑顔で止められ、確かに高級そうなカップを割っては大変だと思い、お礼を言って一緒に洋館を出た。
朱音は振り返り、建物を見上げる。
もう二度とこの場所に来ることは無いだろうと思うと、この洋館を目に焼き付けておきたかった。