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『うわぁぁぁ!!』
パニックになるトミーを猫は満足そうに眺める。
『ふむ、一応術を発動する第一段階には進むようだ。
召喚後あの娘を使えないのは残念だがまぁ方法はある。
君が裏切る可能性は考えていたとはいえ目と手まで持って行かれたのは誤算だったが、代償を払う分希望のものが召喚できるかもしれないな。
さてそろそろお暇しようか。では、またいつか』
すぐに冬真が宝石を埋め込んだ細いナイフを何本も投げつけたが、それは既に消えた猫の血の上に刺さった。
突然、既にいないはずのあの猫の声が部屋の中で聞こえる。
『君が契約を欲しているモノと再会できることを祈っているよ』
冬真は空中を一瞥した後、床に転がされたままの朱音の側に来てしゃがみ、足と腕を縛っていたひもをナイフで切り落とす。
朱音は強ばった表情のまま冬真に顔を向けているが、冬真は朱音の口を覆う布を取り外しても一切朱音を見ようとはしない。
朱音は腕も足も鈍い痛みが身体に伝わるのに、それよりもあの消えた猫が話していた内容でもたらされた胸に走る痛みの方が遙かに大きい。
冬真が何度か実は酷い男なのだと言ったことを朱音は思い出すが、それがこういう意味だなんて誰が考えるだろうか。
囮として冬真の側に置かれながら、でも自分に注意するよう警告していた意味が朱音にはわからない。
優しく紳士な冬真、冷たい表情の冬真、どちらが本物か、それとも全てなのか。
朱音は起き上がることも出来ず、冬真がスマートフォンで誰かと話しているのを見上げていた。
『冬真!助けてくれ!苦しい!』
悲痛な声に冬真はスマートフォンの通話を終えると光に捕らわれたトミーの方を向く。
そこには足だけに絡んでいた手が膝上まで上がってきて、トミーは必死にあらがっている。